彼と彼女のお話

アクエリア

文字の大きさ
上 下
3 / 4

ある春の話

しおりを挟む


 学校前の急な坂。同級生のみんなは登校坂と呼んでいた。その登校坂に並ぶ沢山の桜が力一杯咲き誇るところを僕は入学するときには見ることが出来なかった。部活のために坂を登っているときに見つけたのは、ゆらゆらと風に揺らされながら優雅に咲いた桜だった。彼女は文化部で春休み学校に来る事はほとんどない。だからきっと見ていないだろう。この美しい光景を君に見せたい。そう、思った。

 春に出会った君に、僕は恋をした。今は随分と親しく、互いに気持ちを知っているような状況。それでも僕が告白出来ないのは、彼女との関係が壊れてしまうのが怖いからか、よくわからない。授業中ふと視線を感じて顔を上げると、照れたような彼女の笑顔が見える。そんな温かくてどこかもどかしい、頭の内から溶かされていくようなそんな気持ちにもうなれなくなるんじゃないかと胸が締め付けられて何度も僕は躊躇ってきた。でも今だったら、この花吹雪の中だったら、そんな不安も一緒に持って行ってくれるだろうか。桜の花びらをひとつ捕まえて彼女の家へと向かった。

 インターホンを押してすぐに出てきてくれた彼女は驚いた顔をしていた。そのことに僕は苦笑し、一緒に桜を見に行こうと誘うと、彼女は待っててと言い残し、家の中に引っ込んでしまった。

 しばらくして出て来た彼女に驚かされる。今までも何度か学校外で遊ぶ事はあった。二人だけだったことが無いわけでもないし、彼女の私服は見慣れていると思っていたがまだまだのようだ。手を差し出すと遠慮がちに重ねてくれた。

 学校前ということで他の人に見られるかもという不安がなかった訳ではない。僕らは今まで揶揄われることが何度かあったが、その度に彼女は愚痴をこぼしていた。だから彼女が嫌がるかもしれないと思っていたが、案外素直について来てくれた。

坂の下についた時、彼女は零れ落ちてしまうのではないかと心配する程に目を見開いていた。よかった、気に入ってくれたみたいだ。花が綻ぶ様に笑う彼女を見て、思わず口が滑った。

「好きだ」
 僕の突然の告白に彼女は勢いよく振り返った。本当はもっと格好良く言おうと思っていたのに。恥ずかしくなり、繋いだままの手に力が籠る。目線を上げると彼女は驚いた様に目を見開いたまま固まっていた。彼女の透き通るように白い肌は紅梅色に染まっていて、その瞳は太陽の光を反射してきらきらと輝いている。彼女の瞳に真っ直ぐ見つめられて僕がこの想いを止められるわけがなかった。仕切り直すなんて考えは何処かへ吹き飛んでしまった。

「好きだよ。君のことが何よりも好きだ。恋は熱しやすく冷めやすい。まるで桜みたいにすぐ終わってしまうものだなんて言うけど、僕はこの想いをそんなものにしたくない。僕のそばにいてほしい」

静かに彼女の返事を待っていると、何を言われたかやっと理解したのだろう。彼女はまるで、ボンっと音が聞こえて来そうな勢いで赤くなった。自らを落ち着かせようとしたのか彼女は深く呼吸をして僕の目をまっすぐに見た。

「私もだよ。私も君と居たい。重いなんて思われるかもしれないけど、出来れば一生。君の隣で生きていきたい。」
そういって微笑む彼女の手を握り直した。今度はしっかりと指を絡めて。そしてゆっくりと二人で歩き出した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

恋人の水着は想像以上に刺激的だった

ヘロディア
恋愛
プールにデートに行くことになった主人公と恋人。 恋人の水着が刺激的すぎた主人公は…

彼氏の前でどんどんスカートがめくれていく

ヘロディア
恋愛
初めて彼氏をデートに誘った主人公。衣装もバッチリ、メイクもバッチリとしたところだったが、彼女を屈辱的な出来事が襲うー

先生!放課後の隣の教室から女子の喘ぎ声が聴こえました…

ヘロディア
恋愛
居残りを余儀なくされた高校生の主人公。 しかし、隣の部屋からかすかに女子の喘ぎ声が聴こえてくるのであった。 気になって覗いてみた主人公は、衝撃的な光景を目の当たりにする…

車の中で会社の後輩を喘がせている

ヘロディア
恋愛
会社の後輩と”そういう”関係にある主人公。 彼らはどこでも交わっていく…

ご褒美

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
彼にいじわるして。 いつも口から出る言葉を待つ。 「お仕置きだね」 毎回、されるお仕置きにわくわくして。 悪戯をするのだけれど、今日は……。

放課後の生徒会室

志月さら
恋愛
春日知佳はある日の放課後、生徒会室で必死におしっこを我慢していた。幼馴染の三好司が書類の存在を忘れていて、生徒会長の楠木旭は殺気立っている。そんな状況でトイレに行きたいと言い出すことができない知佳は、ついに彼らの前でおもらしをしてしまい――。 ※この作品はpixiv、カクヨムにも掲載しています。

飲みに誘った後輩は、今僕のベッドの上にいる

ヘロディア
恋愛
会社の後輩の女子と飲みに行った主人公。しかし、彼女は泥酔してしまう。 頼まれて仕方なく家に連れていったのだが、後輩はベッドの上に…

美少女幼馴染が火照って喘いでいる

サドラ
恋愛
高校生の主人公。ある日、風でも引いてそうな幼馴染の姿を見るがその後、彼女の家から変な喘ぎ声が聞こえてくるー

処理中です...