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あら、初めましてですね。
かの有名な”貴族と奴隷の純愛物語”を書いた作家先生の訪問を受けるなんて光栄ですわね。
話を聞きたいとは・・・ヌーベルト男爵のその後についてきいてどうされるのかしら?
純愛の続編を書きたいのですか?
それでしたら、ヌーベルト男爵のご家族にお聞きになればよろしくてよ。
ご家族に話を聞こうにもご不在でしたの?
ヌーベルト男爵領内のどこかに居られるのではなくて?
居られる場所が不明でしたの。そうですか。
わたくしにとりましても、時効とはいえ聞かれて嬉しい話ではなくてよ。
お判りでしょうけどわたくしは婚約破棄された女ですのよ。
それをあえてお聞きになりたい理由は何かしら。
ヌーベルト男爵領の興隆と没落についても聞きたいと・・・それは何かしら、興隆はヌーベルト男爵の力で成し遂げられたことで没落は彼の興隆をねたんだ貴族が原因だとでも?
それを含めてお聞きになりたいの。
それは、貴女がどなたからどういう風にお聞きになりそのように考えられたのかしら?
教えて頂けたら、わたくしもお話しできるかどうか考えれると思うのよ。


ご紹介はユリアズミック侯爵様なのね。
そう・・・あれから何年になるのかしら・・・あの方はまだ気にされているのね。


貴女はご存知よね。彼の周囲にわたくしを含め何人かの女性が彼を助けたことをそして女性だけでなくわたくしの父アーシュリア辺境伯やユリアズミック侯爵が手助けしたことを。
それによって彼は自分がヌーベルトの跡取りとなり男爵に陞爵されたことを、勿論彼を最初から支えていたのはのちに結婚したルミネで間違いないわ。
ここからは悪いけれど話が前後してしまうけれど年寄りの話と付き合って下さいね。
ヌーベルト男爵、いいえアルト・・昔の呼び方で呼ぶのを許してくださいましね。その方がお話しやすいのよ。
アルトと出会ったのは水車を村の開拓に使用し肥料を土に混ぜ収穫高をあげた頃でしたわ。
その頃のヌーベルトは田舎で食べ物にも事欠くような状態だったわ。
それはその寄り親でありわたくしの父上であるアーシュリア辺境伯も把握し支援の方策を検討していたのよ。
その時忽然と問題解決をしたのが彼アルトだったわけね。
アルトは獣人奴隷のルミネと一緒に水車や肥料を開発し、生産高を飛躍的に伸ばし村を飢餓から救済したのよ。
その才能に目を止めたのが父上のアーシュリア辺境伯。
父上の支援を受けて彼はヌーベルト準男爵量の跡取りにおさまったのはご存知だと思うわ。
アルトがヌーベルト準男爵領の跡取りにおさまるのをまち、わたくしが婚約者となりましたの。
その当時の彼からすれば、ヌーベルトの跡取りになるのにはアーシュリア辺境伯の力が必要だった。
父上からすれば、革新的な方法で収穫高を伸ばした彼の領地経営手腕と頭脳を手放したくはなく三女で彼に興味を抱いたわたくしを婚約者にして身内に取り入れたいと算段したわけよね。
彼の力が不足した場合はわたくしの方からの婚約破棄でよろしかったのよ。
ただ彼にすれば寄り親の娘との婚約破棄は自分からは絶対できないことなわけで、悩んだと思います。
彼はその当時からルミネに好意を抱いていたから・・・でもわたくしからすればルミネと一緒に彼を愛せるつもりでしたのよ。
爵位あるものは獣人とは婚姻不可と王国法で決められておりますから。
アルトはその頃、村近くの海で塩の生成を完成させました。
これは、わたくしの父上の後押しつまりお金ですわね、資金投入があって初めて成功したことですわ。
勿論わがアーシュリア領も塩田開発と塩生成で随分儲けさせていただきました。
塩生成によりアルトはユリアズミック侯爵の知見を得、その後砂糖の生産を成功させます。
この成功の裏にはユリアズミック侯爵とアーシュリア辺境伯の資金援助並びに貴族社会への紹介がありました。
塩と砂糖の安定供給と莫大な利益によりアルトは新しいタイプのパンを生み出し販売に成功、この裏にはナルという女性が彼を助けました。
彼女がいなければアルト一人では新しいパンの生産は間に合わなかったでしょうね。
彼女はその後3年間、アルトとパンの製造をし販路拡大を可能にしましたの。
そして忘れてはいけないのが、エルフ族のルチアーノ。
彼女は森の恵みのルートを確立しアルトの元に確実に森の恵みをもたらしたのです。
ルチアーノもナルもひたむきにアルトを慕いました。
ただ、ルミネはアルトが形にするその過程に貢献したのです。
彼の雲をつかむような企画を具体化し手助けし応援したのがルミネなのです。
わたくしですか?わたくしは販路拡大と貴族との対応と帳簿管理、生産管理を担当しておりましたのよ。
婚約者として公の場所での対応もわたくしの役目でしたわ。
彼は領地の民が飢えることなく安全に暮らせるようにただ願っておりましたの。
だから、そのために必死に働き頑張りましたのよ。
基本、彼は善意の善人です。悪意とか人をうらやむこともない方ですわ。
ねたみ、嫉みする暇があれば、問題解決するためにどうすればよいか考える人です。
アルトが陞爵しヌーベルト男爵となったころ、アルトからルミエと結婚したいと告げられ婚約破棄を申し渡されましたの。
アルトにすれば王国内でも1番の躍進する領地でありユリアズミック侯爵の後ろ盾をえた今、わたくしとの婚約破棄しても大丈夫と考えたようですわ。
ここに辺境伯爵の三女より獣人奴隷と結婚した初めての貴族、純愛を貫いた貴族の誕生ですわ。
領地や王国内は沸きましたわ、純愛物語に。

ええ、その裏でなんの落ち度もなく婚約破棄された15才の令嬢の心をおもんばかるものは少なかったですわ。
勿論、父上は怒り心頭でしたわ。
これまで投資した金額の分割返済と塩と砂糖の販売利益の半分を慰謝料とし今後10年支払うようになりました。
領内的にはプラスでしたでしょうね。
ただし、わたくしとしては格下の貴族からの婚約解消により嫁げる可能性がなくなりましたのよ。
ですから、婚約破棄から3年間アルトの元で帳簿管理や領地経営を学びましたの。
アルトはルミエ様と結婚し彼の父親もこれを認めました。
アルトは結婚前と同じ状態であれば、アーシュリア辺境伯の支援がなくても大丈夫と踏んだのでしょうね。
アルトは貴族社会を甘く見ていました、これは彼の知識不足でしょうけれど。
まず、アルトと一緒でなくてはルミエ様は貴族社会に受け入れられませんでした。
貴族社会もアルトの能力は欲しがりましたが獣人奴隷のルミナ様を受け入れるほどやさしくはありません。
ルミナ様は領地内では受け入れられましたのよ、そして頑張りました領主の奥方として。
でも貴族は領地内だけではありませんわ、わたくしたちは王都での交流で多くを決めます。
その情報が入りにくいとどうでしょうね。
そしてナルが3年頑張りパン職人として1人前になりました。
ナルには1つ年上の幼馴染がおり、ナルがアルトを慕っているにも関わらず3年待つから3年後返事をしてくれと申しておりましたのよ。
わたくしもナルが幼馴染の彼コストと幸福になることを祈っておりましたの。
ナルもコストも良い大人になっておりましたからね。
返事を約束した前日アルトはナルに、はずせない仕事を割り振りました。
本当はアルトがする仕事でしたのよ。
アルトはナルを手放したくなくて仕事を入れたのでしょうか、わたくしはそう受け取りました。
アルトはナルにその日はルミナと子供たちと王都に行く予定で仕事を変わるように頼んだのです。
ナルはコストへの返事を伸ばしましたがコストは別の女性を連れて出ていきました。
ナルはコストと一緒になるつもりだったのです。ただ恩ある師匠アルトの頼みを断れませんでした。
その時ナルは唇をかみしめていましたが、アルトは微笑みながら家族のためとナルに頼んでいましたの。
アルトは家庭第1主義で優しいです。
でも、ナルは幸せになるチャンスを逃しました。
今までなにがあっても側にいてくれたコストがおらずナルは痩せましたの。
だからわたくし店を辞めてわたくしの領地で休むように勧めましたのよ。
わたくしも徐々にアルト夫婦を見ているのが辛くなりましたので身を引きましたのよ。
わたくしがしていた仕事はアルトの父上が当面されるようでしたわ。引き継ぎもきちんといたしましてよ。

キズット領は婚約破棄されたわたくしが一生涯安心して暮らせるように母上から譲渡された領地ですの。
キズットに帰ろうとしたとき、わたくしに声をかけてくれた方がいたのでした。
それが今の夫のライルですわ。
ライルはアルトの腹違いの弟です。
跡取りになれす彼は別の領地で働いておりましたがわたくしが辞めるので戻ってきたようです。
ただ彼は一目見たわたくしを気に入ってくれたようでした。

「兄上が貴女を選ばなかった理由がわかりません。ただそのおかげで僕は貴女が姉ではなくただ一人の女性として出会えました。お願いです、僕を見ていただけませんか?」

と一目惚れされましたのよ。
お恥ずかしいことに、ライルの言葉にときめいたのも事実です。
振られた相手に未練たらたらで情けない女と陰口をたたかれておりましたわたくしをわたくしとして見てくれたのは彼だけでしたの。
本来はライルに引き継ぎするべきものを彼はわたくしについてキズット領来ると言うので急遽アルトの父上に引き継ぎしましたの。
その頃のヌーベルト領はアルトの父上が領地管理されていた5倍以上に膨れ上がりましたので事務量も半端な量ではございません。
だからでしょうか、それから3年ならぬ前に亡くなられました。
わたくしも葬儀には参列させていただきましたわ。
パンの製造と事務処理、領地運営と貴族対応、すべてがアルトの肩にかかりましたのよ。
ナルの後をついでアルトが満足するようなレベルの製品が出来る者がおらずアルトしか作り手がいない状態だったのでしょうね。
ルミネ様も必死に手助けしたのでしょうが複雑になった事務処理に対応は難しかったのでしょう。
しかも子供が生まれておりましたし、子供の教育も自分が奴隷であったのでできずアルトが決めなくてはならない状況みたいでしたわ。
アルトにすれば計算がくるったというところでしょうか。

そうですわね、仰るようにアルトがわたくしと結婚しておれば事務処理や貴族応対、販路維持、子供の貴族としての教育すべて問題なくとはもうしませんが、あれほどな状況には陥ることなく済んだと思いますわ。
少なくともわたくしは数名の方々と共にアルトを支えたでしょうね。
確かに妻としてただ一人の女性として愛されたいという想いもありますが、彼の場合は一人で支えきるのは無理でございますからどうしても側室としていていただかなくてはなりませんわ。
その器も貴族としての奥方に求められるものですわ。

ただ選択されたのはアルトです。彼がそれを選んだのですから文句はないでしょうね。
彼があと30年いきていればルミナ様も貴族社会に受け入れられたかもしれません。
そうすれば状況は変わっていたかもしれませんね。
アルトが30まえで亡くなったのが残念ですわ。
もっと生きてくれれば、どれほどのものを生み出してくれたでしょうね。
それを思うと残念でなりません。
わたくしとライルですか?
ええ、結婚いたしましたわ。
ナルも言い方を見つけ結婚しましたのよ。今はキズットでパンを販売してくれてますわ。
彼女もわたくしも、その後は幸せに今まで過ごせたようです。ありがたい。ことですわ。


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