怖い話集 ホラー

静寂

ある静かな村に、夜になると決して近づいてはいけないと言われる森がありました。その森は、誰もが静寂に包まれていると語り継がれていました。村人たちは、森の中に入った者が二度と戻らないと噂していました。

ある晩、一人の若者が興味本位で森に足を踏み入れました。月明かりがかすかに道を照らし、彼は静けさに包まれた森の奥へ進んでいきました。しかし、彼が進むにつれて、周囲の音が消えていくことに気づきました。風の音も、虫の声も、何も聞こえなくなったのです。彼は不安を感じましたが、好奇心に駆られてさらに奥へと進みました。

突然、彼の耳にかすかなささやきが聞こえました。それはまるで、誰かが彼の名前を呼んでいるかのようでした。彼は立ち止まり、周囲を見渡しましたが、誰もいません。恐怖が心に広がる中、彼は逃げ出そうとしました。しかし、足元がまるで重く、進むことができませんでした。

その瞬間、静寂の中から声が響きました。「静けさがあなたを包むとき、決して振り向いてはいけない。」彼は恐怖に震えながら、何とか足を動かそうとしましたが、体が思うように動かず、目の前に黒い影が現れました。

その影は徐々に近づいてきて、彼はその存在を感じながらも、絶対に振り向いてはいけないと心に決めました。しかし、影が耳元でささやく声が次第に大きくなり、彼は耐えきれず振り向いてしまいました。すると、そこには彼自身の顔をした無数の影が笑いながら立っていました。

彼は悲鳴を上げましたが、その声も静寂の中に飲み込まれ、誰にも届くことはありませんでした。翌日、村人たちは彼が森に入ったまま帰らなかったことを知り、再び静寂の森に恐れを抱くことになりました。それ以来、その森は一層恐れられる場所となり、静けさの中に隠された恐怖を誰もが忘れることができなくなったのです。