怖い話集 ホラー

土曜日

土曜日の夕方、佐々木は友人たちとキャンプに出かけることになった。明るい日差しの中、楽しい時間を過ごす予定だったが、車を走らせるうちに、ふとした違和感を覚えた。目的地に近づくにつれて、周囲の風景がどこか異様に静まり返っているように感じた。

キャンプ場に到着すると、他のグループはどこにも見当たらなかった。広大な自然の中で、ただ彼らだけがぽつんといる。友人たちは気にせず、テントを張り始めたが、佐々木は背後の森が何かを隠しているような気がしてならなかった。

夜になると、焚き火を囲みながらみんなで楽しい話をしていたが、佐々木の心には不安が残っていた。ふと、焚き火の明かりが揺れるたびに、森の中から何かが覗いているような気配を感じた。友人たちが笑っている中、彼だけがその影に気づいていた。

「ちょっと、森の方を見てみて」と佐々木が言うと、友人たちは笑って「気のせいだよ」と返した。しかし、その瞬間、森の奥から低い声が聞こえた。「帰れ」。全員が一瞬静まり返り、森を見つめた。佐々木は恐怖を感じ、急にキャンプを終えようと提案したが、友人たちは笑い飛ばした。

夜が更けるにつれて、次第に恐怖が増してきた。焚き火の明かりが消え、暗闇に包まれた時、彼は再びその声を聞いた。「約束を守れ」。友人たちは不安を覚え始め、ついにその場を離れようと決めた。だが、車に向かう途中、佐々木は何かが彼を追いかけている気配を感じた。

森の中から、黒い影が現れた。それは、彼の姿に似た不気味な影だった。「帰れと言ったはずだ」と、その影は囁いた。友人たちは恐怖に駆られ、走り出したが、佐々木は動けなくなっていた。影が彼に近づくにつれ、彼はその正体を理解した。

それは、自分自身の恐怖と後悔の化身だった。友人たちを気にせず楽しんでいたこと、自分を守るために彼らを無視していたこと、全てが影となって彼に迫っていた。影は彼を引き寄せ、「約束を果たせ」と告げると、彼の意識は暗闇に飲み込まれていった。

翌朝、キャンプ場には誰もいなかった。友人たちは帰り道で佐々木の姿を探したが、彼は消えていた。彼のテントにはただ一枚のメモが残されていた。「土曜日の約束を守れ」。それ以降、土曜日になると、彼の名前を呼ぶ声が森の中から聞こえるという噂が広まった。