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バカンスの恐怖
しおりを挟む夏の終わり、青い海と白い砂浜に囲まれたリゾート地、カリス島に家族が到着した。田中家は、この島の隠れ家のようなコテージを借りて、完璧なバカンスを期待していた。母の美紀、父の直人、そして大学生の娘、亜美の三人は、疲れた日常から解放されることを楽しみにしていた。
コテージは、周囲の自然と調和し、見た目にも美しかった。しかし、亜美はどこか不安を感じていた。到着したばかりの空気は妙に静かで、鳥のさえずりも聞こえない。気のせいだろうと思いつつも、彼女は少し不安だった。
二日目、家族はビーチに出かけた。澄んだ海が広がり、亜美はその美しさに驚いた。しかし、海の色が時折、奇妙に変わるのが気になった。青から緑、そして赤へと変わる海の色。初めは光の加減だと思っていたが、時間が経つにつれてその変化が不自然であることに気づいた。
「おかしいな、どうしてこんな色に?」亜美は言った。
父の直人は笑って、「ただの海藻だろう。自然のことだよ。」と答えたが、亜美の心には不安が残った。
夜になると、亜美は眠れずにいた。外で風が吹く音が、まるで誰かが低く話しているように感じた。彼女は窓を開けてみたが、ただの風の音だった。翌朝、家族にそのことを話すと、母の美紀は気にしないようにと言った。
「ただの夢だよ、亜美。リラックスして。」
しかし、亜美の心には不安が募るばかりだった。日が経つにつれ、夜になるとその声がますます鮮明に感じられるようになり、まるで誰かが助けを求めているように聞こえた。
ある日、亜美は島の古い灯台に足を運ぶことに決めた。灯台の周りには雑草が生い茂り、誰も訪れた形跡がなかった。内部に入ると、埃をかぶった古い日記を見つけた。日記には、過去にこの島で起きた奇怪な事件が詳細に記されていた。そこには「海が人々を引き込む」という記述があり、亜美は鳥肌が立った。
日記にはまた、島には古代の儀式が行われていたことが書かれており、海の変色はその儀式の名残だと述べられていた。亜美は急いでコテージに戻り、家族にそのことを話したが、誰も信じようとしなかった。
ある晩、海の色が一層異常な赤に変わった。風の音も増し、亜美は再びその声を聞いた。それは明確に「助けて」というもので、亜美は耐えられずに家族を起こした。直人と美紀は外に出て確認しようとしたが、暗闇の中で何も見つからなかった。
その夜、海の波が猛烈になり、コテージが揺れ始めた。亜美は恐怖で震えながら、灯台のことを思い出し、家族にもう一度灯台に行こうと提案した。しかし、直人は「このままここにいよう」と拒否し、結局、彼らはその夜をコテージで過ごすことに決めた。
翌朝、コテージは海に飲み込まれてしまった。家族全員が奇跡的に助かったが、亜美は一人で灯台を目指した。灯台の近くに着くと、海の変色が徐々に収まり、静寂が戻っていた。亜美は灯台の中で、日記に記された儀式が未完であることを知った。
その儀式が完全に行われなかったため、海の神は未だ怒りを抱いていた。そして、亜美が儀式を完遂しない限り、この島は永遠に恐怖に包まれるだろうと理解した。
亜美が灯台で何を見つけたのか、誰も知ることはない。しかし、カリス島はその後も神秘的な場所として知られ、観光客たちは語り継がれる伝説に足を踏み入れることを避けるようになった。今もなお、島には海の底で眠る古代の秘密が息づいていると言われている。
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