怖い話集 ホラー

yunna

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面接室の亡霊

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秋の風が冷たく吹き荒れる中、遥は大学の就職説明会を終えたばかりだった。友人たちと別れ、彼女は帰路につこうとしたが、突然目に飛び込んできたのは、薄暗く、人通りの少ない古びたビルの一角に掲げられた「求む、意欲的な人材」の看板だった。

「一度だけでも…」と、遥は自分に言い聞かせ、そのビルに足を踏み入れた。エレベーターで上階へ向かうと、周囲の静けさが不安を募らせた。

到着したのは、広々とした面接室だった。古い木製のテーブルに、革張りの椅子が一つだけ置かれていた。壁には、見覚えのない企業のロゴとともに、時代遅れのポスターが貼られていた。面接官を待っている間、遥の心臓は速く鼓動していた。

やがて、面接官が現れた。その人物は、肩までの白髪と青白い顔を持つ中年の男で、奇妙な威圧感が漂っていた。彼は、言葉少なに履歴書を手に取ると、黙って眺め始めた。

「私の人生、どうなってしまうんだろう…」と、遥は心の中で呟いた。すると、面接官がゆっくりと顔を上げ、鋭い目で遥を見つめた。

「この会社では、真剣さが重要です。失敗は許されません。」

その言葉にぞっとしながらも、遥は気を取り直して面接に臨んだ。しかし、質問はどれも奇妙で、異常なまでに個人的な内容ばかりだった。未来の夢、家族のこと、そして最も恐ろしい質問は「過去に犯した最大の過ちは?」だった。

面接が進むにつれて、遥は徐々に不安感を覚え始めた。質問の内容が、まるで彼女の心の奥底を覗き込んでいるかのようだった。彼女の記憶の中で、若い頃に犯した過ちが浮かび上がり、焦燥感が高まった。

「ここで働くことで、何を得られると思う?」と面接官が尋ねると、遥は無言で答えられなかった。面接官の顔に浮かぶ冷たい微笑みが、ますます恐怖を増幅させた。

面接が終わると、面接官は一言だけ「お待ちしています。」と言い残し、部屋を出て行った。遥はほっとしたものの、心には不安が残った。

数日後、遥の携帯電話に一通のメールが届いた。「採用おめでとうございます」と書かれたそのメールは、彼女の心をわずかに安堵させた。しかし、その後に続く一文が彼女の恐怖を呼び起こした。「面接室での質問は、あなたの過去を基にしています。面接の内容をしっかり覚えておいてください。」

その晩、遥は寝室で眠りにつこうとしたが、急に寒気を感じた。目を開けると、部屋の隅に白髪の面接官が立っていた。彼は静かに遥に向かって微笑んでいた。

「さあ、これからが本番です。」彼の声は、夜の闇に溶け込むように響いた。

遥は震えながら、その冷たい微笑みを見つめ続けるしかなかった。就職活動が、彼女にとって悪夢の始まりとなることを、まだ知らなかった。
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