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ようこそ!ワンダーランドへ!

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 ……やっと、学校が終わった。
学校帰り僕は河原の道を一人で歩いていた。
「明日は土曜日だし、学校は休みだ……。これで解放される」
僕にとって学校は辛い。会いたくもない奴らが沢山いるから。
「僕が、こんな名前じゃなければ……。」
アリスなんて名前が付いてるから……、僕はいじめられるんだ。
なんていつものように卑屈になりながら橋の下に降りて、芝に横たわる。
「少しのんびりしてから家に帰ろう」
 その時、横の草むらから”ガサッ、ガサッ”と音がする。
なにかと思いアリスは横を振り向いた。
そこには、モノクルを掛けた黒いウサギが「遅刻しちゃう。遅刻しちゃう。」と呟きながら二足歩行で歩いているではないか。
奇怪なものを見たアリスは、立ち上がりその黒いうさぎを目で追う。
「まるでおとぎ話だ……。」
なんて呟いたアリスの言葉を聞いたのか、黒ウサギは後ろを振り返りアリスに話しかけた。
「あ、僕が見えるんだ。もしかして、君の名前は……アリス?」
驚いたアリスは後ずさりながら、黒いウサギに質問した。
「な、なんで分かるの……。君は一体……。」
「ま、いいや。いいからついてきて!君には、ゲームに参加してもらうよ!」
「ちょ、ちょっと!意味わからないんだけど……!」
黒いうさぎは手に持っている懐中時計を点に掲げ、呪文を唱えた!
「さぁ、開け!時の扉よ!アンリエッタ五世の名において、ワンダーランドの扉を開け!」
 黒いうさぎの呪文によって懐中時計は光だし、大気中に扉を映し出した。
そして、黒いうさぎとアリスは扉に吸い込まれていくのだった。
光を抜けて、アリスとウサギが向かった先は……。

 アリスは茂みに落ちた。次第に視界が見えるようになってきて、ここが森の中だという事が分かる。そして、遠くから金属をはじきあう音が聞こえる。
「あ、やばい!変なところに出ちゃった……」
黒いウサギは前足で耳を塞ぎながら申し訳なさそうに言う。
「一体ここはどこなんだい?ウサギさん」
アリスの問いに黒いウサギはこう答える。
「は、話は後だ!死ぬよ!早く!こっち!こっち!」
黒いウサギはアリスと共に森の中を走る。走る。
 そして、しばらく走っているうちに森の中を抜け平原へたどり着く。
だが、そこは戦場の真っただ中だった。
「どこに行ってもこれかい……。まったく、困ったなあ。」
黒いウサギは「やれやれ……」とこめかみをポリポリとかきながら続けて言う。
「あ、これだけは言わせて!さて、ようこそ!ワンダーランドへ!アリスさん!」
「は、はぁ!?もうちょっと状況を考えてよ!!」
「そ、そんなこと言ったって!多分ここら辺一帯全部戦場だし……。」
アリスはやれやれと呟きながらあたりを見渡す。
鎧にトランプの模様が描かれた兵士たちと西洋の鎧をまとった兵士たちが、互いに刃を交えているではないか。
アリスは危機感を覚えながら黒いウサギに問いかける。
「ね、ねぇウサギさん?どうにかならないの?このままだとお互い、無事じゃすまないよ。」
黒いウサギは胸を張りながら答える。
「大丈夫。安心して、トランプ模様の兵士じゃないほうは僕たちの味方さ。あ、それと僕のことはアンリエッタって呼んでね。」
 そしてアリスはアンリエッタについていき茂みに隠れながら味方の本陣へ走る。
だが、茂みの中を走っているうちに音に気付いたのか一人の兵士に気付かれ「止まれ!」と命令されてしまうのだ。
その声にアリスたちは一度止まり、兵士の方を見る。
「何者だ!敵か?であればその首を今すぐ落とす!」
アンリエッタは狼狽えながら答える。
「い、いや違う!ちょっと待って!……これを!」
アンリエッタは懐を漁り、一枚の紙を取り出す。兵士はその紙を読んだ。
「あ、案内人……!失礼しました。ささ、こちらに。お連れの方も……。」
兵士は紙を読んだ瞬間に顔色を変え、アリスたちと自分たちの本陣へ送る。
少し歩いていくと、本陣であろう野営地が見えてきた。
兵士は「少々お待ちを」と声を掛け、野営地の奥へと入っていった。
アンリエッタは安堵したようか、深く呼吸をし「これで一安心かな……。」と言う。
アリスはアンリエッタに話しかけた。
「これで一応安全な場所に行けるのかな……?」
「さぁね。それは将軍様次第かなあ……」
アンリエッタの言葉に対してアリスはため息をつきながら話し始める。
「突然こんなところに連れてこられて身の安全も保証されないなんて、あんまりだよ。」
「ごめんね。僕も、やっとアリスを見つけたもんだから舞い上がってて……転移場所を間違えちゃったんだ……。」
アンリエッタのアリスを見つけたという言葉に疑問を覚えながら待っているうちに、奥へ行った兵士が戻ってきた。
「将軍様がお話ししたいと申しています。ささ、こちらへ……」

アリスたちは兵士の後に続き野営地の奥へ歩いて行った……。


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