放課後城探部

てっくん

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百五十四の城

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和歌山城の天守から見渡す和歌山の街は大阪城から見渡す大阪の街と比べると高い建物は少ないけれど紀の川河口と海を見渡せ物凄く気持ちが良い景色をもっていた。

夏の暑さで私達は汗をにじませていたが天守と海は相性がいいのか海風が小高い天守に吹き付けて火照った体に心地よい。

初めての天守がこんなにも気持ちが良いものだとは思ってもいなかった。

景色だけではない、大天守からは連立式の櫓も目の前に広がっていて渡櫓と二基の櫓が連結されて形成されている空間はお城らしい雰囲気を醸し出されていた。

「目の前の小天守と連結されている北西に位置する櫓が乾櫓で大天守と連結されている南西の櫓がニの門櫓よ。」

目の前の乾櫓の名前を聞いて明石城の巽櫓と坤櫓を思い出していた。

「そう言えば方角によって名称が変わるって言っていましたよね?そうなると乾櫓の隣の櫓は坤櫓になると思うんですけど・・・?」

方角に照らし合わせるとそうなるはずだ。

私は拙い記憶を呼び起こして少しだけ自信なさげに言っていた。

あゆみ先輩は頷くと


「その通りよ。でもニノ門櫓は楠門を守る櫓だからニノ門櫓って言われているのよ。」

そう教えてくれた。

とは言え楠門の櫓なら楠門櫓になるのではないか?

私が不思議そうにしていると


「もしかして楠門って言うのが通称でほんまの名称が二の門なんちゃうか?」

と訪ちゃんが思いついたように言った。

たしかにそうかも知れない。

楠門のほうが通称なら何もおかしくないのだ。

先輩はニコリと微笑むと

「訪の言う通り、楠門はニの門と言うの。ちなみに一の門もあったのだけれど現在は無くなってしまったわ。一の門は松の丸と本丸御殿跡をつなぐ石段のところに設置されていたのよ。ほら、スロープのところ。」

先輩がそう言うと松の丸から天守にきた時に通った簡易スロープが設置された石段を思い出す。

「あそこに・・・」

「そうなの、あの場所は松の丸と天守と二の丸御殿に続くつづら折れの石段とが全て接続する地点になっていて天守の重要な防御の要になっていたの。」

「なるほど、そこに強固な櫓門を置いて攻城する側を集中させる考えやったんやな。」

「そう言うことね。」


流石に訪ちゃんはお城の先輩だけあって先輩の説明に追いつくだけの知識を持っていて、つい最近お城に入門した私にはとても想像のつくところではなかった。

兎に角、天守防御の要である一の門があって、最後の防衛拠点になる二の門(楠門)、それを守る櫓がニの門櫓というわけだ。

目の前に広がる風景の奥には青い空と青い海、繋留された大きなタンカー、ビル群、そして眼前には渡櫓で連結される二基の櫓と中庭が置かれている。

大天守からそれを眺めていると当時のお殿様になった気分だ。

「贅沢な風景ですね。」

初めて登った天守からの眺めは本当に格別のものだった。

どんなにも高い展望ビルから眺めるよりも特別な景色に思えるのはやっぱり天守という特別な空間だからかも知れない。

こんな気分は今まで言った展望台やビルでは感じられなかったことだ。

私は天守にはそんな魔力があるような気がした。

私が何気なく呟いた言葉に先輩と訪ちゃんは殆ど同時に


「うん」

と頷いてくれた。

私は初めての天守がまるで写真のようなコントラストを持つ青い空とキラキラと輝く美しい海を持つ和歌山城で本当に良かったなと景色を眺めながら心のなかで天護先生と先輩と訪ちゃんに感謝をしていた。

私が感慨深く天守の景色を堪能していると先輩がピクリと小さく驚いたような反応をする。

先輩が急いでスマホを取り出してホーム画面を見るとそこには天護先生と言う文字が表示されていた。

「あっ、天護先生よ。」

先輩はそう言うと急いで応答した。

「もしもし、天護先生。」

『あゆみ、そろそろ時間よ。もう帰らないと明るい時間に帰れなくなってしまうわ。それにあんた達が満足するまで待っているとお腹が抹茶がパンパンになっちゃいそうよ。砂の丸の仕切門跡で待ってるから早く来て。』

「わかりました。すぐに行きます。」

きっと先生は私達がある程度満足行くまで暑いなかゆっくりと待っていてくれたのだ。

私はなんとなく申し訳なく感じた。

「残念ながら全ては回れなかったわね・・・」

先輩は少しだけ申し訳無さそうにそう言うと訪ちゃんは


「まあ、お城はいっつもそんなもんや。一回じゃ全部見られへんからな。」

そう言って先輩を励ますように笑った。

「そうね。本当は渡櫓の展示物とかもゆっくり見たかったけど先生もしびれを切らしたみたいだから今日はもう帰りましょう。」

「はい」

私はそう言ったものの目の前の風景から離れるのになんとなく後ろ髪が引かれるような気がした。

せっかくお殿様の気分を味わいながら素晴らしい眺望を満喫していたのに・・・

なんとなく寂しい気持ちになりながらも『絶対にまた来よう。』そんな気持ちにさせてくれる。

天守からの眺望はそんな素晴らしい魔力を秘めているのだった。
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