放課後城探部

てっくん

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百六の城

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和歌山城は主郭の部分だけでなく周辺の川を堀としてうまく利用した大きなお城だった。

そんな巨大なお城と格好の良い天主に敬意を払いつつ私達は東にある大手門に向かってあるき出した。

「二人共二の丸の石垣を見ながら大手門に向かって歩いてね。」

あゆみ先輩も流石に暑いのか日傘を差しながら右手にはハンドファンを浴びていた。

私達は先輩に促されるまま内堀の二の丸石垣に注意をはらいながら大手門方面に東に歩いていくと途中綺麗に積まれた打込み接ぎの石垣が全面に突き出す。

「あそこには物見櫓が置かれていて二の丸の防衛の主役になるべき櫓よ。言葉で説明すると難しいのだけど渡櫓わたりやぐらと二重櫓を合体させたような櫓で1階部分が横に長くて二階部分は渡櫓の途中で二重櫓を付け足したようなデザインをしていたの。そこから西側に向かって再び渡櫓が続いて角の駿河櫓するがやぐらにつながるの。」

この部分から渡櫓の連続で駿河櫓まで櫓の連続になっていて二の丸を防衛していた。

そんな事を話しながら大手門方面にゆっくりと歩いていくと途中の石垣が少し石積みが荒くなったような気がした。

「あそこの石垣の積み方、なんだか荒くなったような気が・・・」

私がそう言って指をさすと先輩は頷いて。

「そう、物見櫓から駿河櫓までは物凄く精緻な石積みをしているのに物見櫓を過ぎると急に石積みが荒くなって大手門まで続くの、これは恐らくだけど荒いところが当時の石積みで綺麗な部分は江戸時代後期の修築した石垣なんじゃないかという私の推測よ」

そう先輩は石積みの変遷を見て考えを披露した。

「おんなじ打ち込み接ぎでもぜんぜん違う積み方やもんな。」

訪ちゃんも先輩の考えに納得しつつも

「見せ方もあるかも知れんけどな。物見櫓から駿河櫓までは人目につく場所やからでその途中はそれほどこだわる必要は無いと判断して安普請にしたとか?」

と疑問を挟んだ。

「とにかく徳川頼宣とくがわよりのぶはお金に糸目を掛けずにお城の増築を行っていたから中途半端に手を抜く位なら全部綺麗に積むのではないかしら。物見櫓の隙間ない綺麗な打込み接ぎの石積みは途中で修復の手が入った結果だと思うのだけど・・・修復の手を入れにくいからかも知れないけど、途中石の苔の量や隙間から生えている草の量も圧倒的に物見櫓の石垣のほうが少ないし。やっぱりあれは修復の後よ。物見櫓部分の角石なんかとにかく綺麗に切り込んでいるけど、明らかに石積みの技術が進んだあとのものよ。」

と訪ちゃんの疑問を晴らしつつも自分で納得していた。

「なんか色々と石の積み方にも変遷があるのですねえ。」

二人のやり取りに私はただただ石の積み方を見比べてホホウと頷くしか出来なかった。

でも確かに物見櫓の石垣は本当に丁寧にそして美しく角石をしっかりと切り込んで仕上げていて中央部の打ち込んだ石もとの各丁寧に石を選んで綺麗に加工して積んでいるような気がする。

そのためとにかく物見櫓付近から駿河櫓に続く石垣は石の隙間が少なくて丁寧なのだが、途中から大手門に続くまでの石垣は石の隙間が多くて粗が目立つ印象なのだ。

「時間の流れはこんなところでも感じることが出来るのですね。」

何気なく言った私の言葉に二人は目を丸くして顔を見合わせるととたんにパッと明るくなって

「ホンマにそうやなあ。うちはなんとなくこれはいつ時代の石積みとかこれは誰の命令で積まれた位の感覚でしか考えてなかったけど。うーん、確かにな。」

「お城は過去を現在に伝えるものだから、いつ誰が積ませた。とか何年に作ったというのは知識としてあったほうが良いのだけど、お城の来てなんとなく石垣を眺めながら、自分が過去にタイムスリップしたような感覚で時間の経過を肌で感じながら歩くのはお城を見る上で本当はいちばん重要な感覚なのかも知れないわ。」

二人はそう言って私の何気ない言葉を深読みして持ち上げてくれる。

『そこまで深く考えていたわけでは・・・』

二人が私の何気ない言葉を真剣に受け止めてくれたことを照れながらも『何も考えていませんでした』と否定するわけにもいかず、なんとなくむず痒い気持ちになりながら二種類の石垣を見比べるのだった。
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