放課後城探部

てっくん

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九十三の城

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安土城がなぜ山城になったかという先輩に疑問を投げかけられたことでたずねちゃんは腕を組んでいた。

「まあ天主のことは琵琶湖びわこの遠望が良かったでええけど・・・」

訪ちゃんはそう言って全部に納得していないながらも先輩の意見を肯定する。

「無理矢理納得する必要はないわよ。私はそう思っている。それだけ。それに遠望が良いというのは飛行機やヘリコプターなどが無い当時では戦略的に有用よ。信長はそれを狙って建てたとも言えるわ。」

先輩はそう言って高層である有用性を訪ちゃんに説いた。

「まあそうやな。うちは信長に限ってそんな無意味なことをせんと思い込んでるからあゆみ姉の考え方を全部理解できんのかも知れん。」

訪ちゃんはそう言って先輩に歩み寄りを見せる。

「良いのよ。色んな意見があって。それこそが何事にも重要なのだから。」

先輩はそう微笑みかけた。

「ところでさっきも言うてたけど観音寺城かんのんじじょうがあるのになんで安土城を建てたんや?」

「それは戦略的に要地だからでしょ?私は山城であるなら観音寺城で十分だと言いたかっただけで安土の重要性は否定しないわ。ただ上杉謙信に対して戦略拠点として有用かどうかはわからないわね。」

上杉謙信て物凄く強いという噂の人だよね・・・

戦国無双乱舞Ωx4でも最強の隠し武将として登場していた気がする・・・

私は当時のゲームの登場人物を思い出しながら考えていた。

白い頭巾ずきんをかぶって大きな刀を振り回す極悪50連コンボは裏ボスのブラック信玄にすら1撃あたると必ず50連撃し、全てのHPを吸収して奪い取ると言う究極の恐ろしいコンボだった。

私がそんなしょうもない事を考えていると訪ちゃんが私の考えを代弁するかのように

「謙信は最強やもんな。」

と元気良くそう言ってくれた。

「最強かどうかは分からないけど、謙信が越中から北陸道を通って攻めてきた時の戦略拠点として安土城は作られたと言われているの。結局使われることはなかったのだけど、観音寺城と比べて安土城が必要だった理由は湖面に面していたことね。」

先輩はそう言って今は埋め立てられている田園風景を指差した。

「当時は目の前に広がる田園風景は琵琶湖の内湖ないこだった。とても大きくて大中湖おおなかこと言われていた。更にそれに連なる内湖が小中湖しょうなかこと現在に残る西の湖よ。大中湖と小中湖は天然の入り江になっていて安土城に面していたのだけど、これは謙信が敦賀から北陸道を下って攻めてきた時に琵琶湖から大中湖を通して坂本、堅田かたた大溝おおみぞお、長浜の湖上ルートから増援を素早く呼ぶように機能していたのよ。」

「なるほどぉ、沢山の援軍を呼んで謙信と対決するんですね。」

私もわからないながらに理解しようとそう言った。

「そう、天下を狙うということは必ず京の支配者にならなければならない。謙信もそう考えていたわ。そうなると織田の支配地を通ることになるから大軍を用いる必要があった。木曽義仲と同じように越前から北陸道を通って京に進軍する。信長は謙信がそうすると考えていたの。」

私には北陸道も木曽義仲もピンと来なかったが先輩はそう説明してくれた。

「琵琶湖の西岸を通るとは考えんかったんか?」

訪ちゃんは先輩に疑問を投げかける。

「琵琶湖の西側にも拠点を設けていたし、そのための湖上ルートだからどこから来ても大軍を送り込むことが出来た。これが信長の考えね。謙信がどっちのルートから来ても決戦に持ち込むことが出来るのが琵琶湖の湖岸に多くのお城を築いた理由なの。」

琵琶湖には私の目に見えない道路を信長は想定していたのだ。

「じゃあ信長は圧倒的に有利に戦えるわけやな。」

「そうね。基本的に防衛する方に地の利があるから有利になることは間違いないけど、相手が謙信だと流石の信長も骨が折れそうよね。」

先輩は未知の戦いを想像して楽しそうにしていた。

訪ちゃんもそう言う話が大好きなのだろう。

二人はとても楽しそうだった。

「どっちが勝ったやろうか?やっぱり軍神の謙信かな?」

訪ちゃんはそう言う話をしている時は物凄く目がキラキラしていた。

子供のようにワクワクと答えを待つ訪ちゃんに先輩は少し考える。

「月並な答えを言うと謙信は短期決戦で京に入る必要があるわね。謙信は冬になると兵站へいたんに悩まされることになるから勝負を素早く決めてしまいたい。信長の方は近江で大敗北してしまうと謙信に京に入られて畿内きないの支配権を失ってしまう可能性があるから、負けるかも知れない決戦はできれば避けたいところね。」

「でもさっき信長は謙信と決戦するために湖上ルートを用意したって言うてたやん。」

訪ちゃんは先輩の言葉を指摘する。

「そうね。でもすぐじゃなくても良い、謙信が兵站を切らすまで待てばいいの。信長は信玄の川中島のように睨み合いを続けて兵站を切らしたところで決戦すればいい。自領で戦うのだからイニシアティブは信長の方にあるわ。時間が経てば経つほど信長に有利に働く、だから勝負は信長がそこまで耐えられるかね。」

「耐えられるかな?」

訪ちゃんはワクワクとして嬉しそうにそう言った。

先輩は真剣に考えているのか神妙な顔で

「耐えなければならないわ。」

とまるで自分が信長になって決戦するかのようにそう言った。

「謙信は敵の弱点をたくみに見つけて集中的にそこを攻撃するのが物凄く得意なの。信長は一部の隙きも見せずに睨み合いをしなければならない。だけど信長もすねに傷を持っているわ。近江には六角佐々木氏の残党、摂津には石山本願寺と荒木村重、東は武田が徳川を脅かしていて。播磨もまだ定まっていない。だからこれらが黙って信長のピンチを安穏あんのんと見過ごすはずはないわ。謙信がそこをつかないわけがない。」

「じゃあ謙信が勝つかも知れんな。」

訪ちゃんがそう言うと先輩はあごに手を当てて考える。

「うーん、この戦いは本当に難しいわね。謙信が関東を支配できていたら絶対に謙信が勝ったと言えたんだけど・・・謙信の方は越後の方で反乱が起きないかを気遣わなければならないわね。越後の国人領主はいつも一枚岩じゃない印象だから、信長の調略の手が及んだ時に安心できるとは言えないわ。本国に傷を持つ大名が長対陣できるとは思えない。」

「じゃあ信長が勝つかも知れんな。」

すると先輩は今度は頬に手を当てて考える。

「でも毛利が宇喜多うきたと共に播磨はりままで進軍すればそうも言ってられないわ。信長は挟み撃ちされる格好になる。」

「じゃあ謙信が勝つんか・・・?」

段々と訪ちゃんも先輩の答えに懐疑的になってくる。

とにかくわけがわからない印象なのだ。

「でも北陸で織田の残党が上杉の兵站を脅かせば・・・」

「じゃあ信長が勝つん・・・か?」

すると先輩は腕を組んで考え込む。

「分からないわ・・・」

「分からんのかい!」

安土城の天主台で訪ちゃんのツッコミが炸裂していた。
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