放課後城探部

てっくん

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八十二の城

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滋賀県の山の中で不思議そうに首を傾げるあゆみ先輩と頭を抱えるたずねちゃん、そんな二人をポカーンと眺める私を横目に観光客が不思議そうに天主に向かっていく。

「とにかくやなあ、この暑い山の中で長々と足利尊氏あしかがたかうじ生涯しょうがいを話されたら熱射病になってしまうやろ。」

訪ちゃんはキョトンとする先輩をお説教する。

あれ?これも前に同じ事があったよね。

とにかく先輩はあるキーワードを話すことによって暴走し始めることだけはなんとなく私は理解しだしていた。

だけど私はそんなに歴史に詳しくないから事前にそれを止めることが出来ないよ。

とにかく、しばらくは先輩の暴走を訪ちゃんになだめてもらうことを何度か繰り返さなければ行けないみたいだ。

訪ちゃんの熱射病という言葉に先輩は腕を組んで考え込む、暴走していてもまだ先輩は私達の体調を心配するだけの冷静さは保っていたようだった。

「うーん、確かに正中しょうちゅうの変の話をするとなると、後嵯峨天皇ごさがてんのう両統迭立りょうとうてつりつの話をしないといけないし・・・そうなると確かに前九年ぜんくねんの役の話から石橋山いしばしやまの戦いの話よりはまだ短くはなるけど、確かに長々と話することになるわね。」

どうやら先輩の暴走はようやく収まったようだった。

先輩が落ち着いた様子を見て訪ちゃんはようやくホッとしたようだった。

「とにかくあゆみ姉は南北朝時代のことが大好きやねん。もしかしたらお城よりも好きかも知れん。詳しくないさぐみんはとにかく後醍醐天皇ごだいごてんのう、足利尊氏、楠木正成くすのきまさしげ新田義貞にったよしさだ北畠顕家きたばたけあきいえと言う名前を聞いたら無視するようにしてくれへんか。」

訪ちゃんは私にそうやって耳打ちする。

「頑張るけどそんな難しい名前ばっかり並べられても全部覚えられないよ・・・」

全員を覚える自信は無かったが多分訪ちゃんもあんまり興味がないのに何度も話をされるものだから嫌でも覚えてしまったのだろう。

とにかく自信はないけど私は頷いた。

「分かったわ、とにかく尊氏も北畠顕家に京洛での戦いに破れて殆ど全滅同然に九州に逃げ込むんだけど、九州で力を蓄えて大軍で再び京に上がってくるの。その結果尊氏は大勝利して南北朝時代に突入するのよ。」

先輩は簡潔に私達に教えてくれたけど、なんだか投げ遣りな感じに見えたのは私だけではないはずだ。

心做しか先輩はすこし寂しげだった・・・

「古今東西英雄は逃げ上手なのよ。三国志の劉備りゅうび曹操そうそうだってそうでしょ?史記の劉邦りゅうほうも物凄く逃げ上手だったわ。一方項羽こううは物凄く戦上手で戦いの達人だったけど、逃げることを選択せずに大将らしく死ぬことを選択した。どっちが格好いいかと言えば後者かも知れないけど、真の勝者は前者になるのよね。」

先輩はしみじみと語った。

確かにどんなに強くても死ねばそこまで、生き残ればまだチャンスはたくさんある。

恥も外聞もなく逃げてこそチャンスが巡ってくるという点では逃げ上手は天下人と言う言葉に間違いはないのだろう。

「とは言え、私は後者も否定しないわ。ただ天下人の器かどうかの話で言えば天下人は往々にして逃げ上手ということだけは理解しておいてほしいわ。前線の将としては百戦百勝は善の善なる者だけど、天下人に限って言えば百戦百勝しても百一戦目を仕損じて逃げる覚悟を持たないものは天下人になれない。歴史はそう言うものなのよ。孫子を配下にした呉王闔廬こうりょも最後は敗者だった。」

先輩がいつもの落ち着きで私達に伝えると訪ちゃんは

「そうやな。信長も金ケ崎で逃げへんかったらどうなったかわからんもんな。」

と同意した。

「撤退のチャンスを逃して退路を立たれた軍隊の末路は悲惨よ。いくら信長でも判断を誤れば命の覚悟をしなければならなかった。金ケ崎における信長は引き際が物凄く良かったわ。一方で本能寺ではその天運を発揮することが出来なかった。本当にあるとしたら天命は恐ろしいわね。」

先輩はそう言うとまゆひそめてため息を付いた。

確かに信長が後の天下人の為の地固めをした事は疑いようもない事実のようだ。

秀吉も家康も信長がいてこそ天下人になれたのだと詳しくない私ですらそう思う。

天下人の定義は私にはよく分かっていないけど先輩は信長を天下人と言う前提で話ししているようだった。

ゲームなら全国制覇して初めて天下人だがどうやら歴史ではそうではないようだ。

信長が天下人なら天下人になってからの栄華は瞬間的に終わりを告げたと言っていいだろう。

先輩が言うように天命が本当にあるならば信長は自らがもぎ取った天下人の称号を秀吉に受け継ぐための天の役割を持って生まれたように見えるだろう。

だとすれば本当に天命とは悪戯いたずらが度を過ぎていると私は思うのだ。
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