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五十七の城
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桜堀の池の風景に木漏れ陽がゆらゆらと揺れて心地が良い。
二の丸や本丸、天守台で眺めていた街の風景からガラリと変わり、池みたいな堀の風景はまるで田舎の避暑地に来たような、そんな気分を味あわせてくれた。
「多分だけど、この雰囲気は今も昔もあまり変わっていないと思うの。明石城の搦手を守る桜堀の北はお城を隠すように木で覆われていたのよ。だから今の風景とそれほど変わらないと思うわ。」
虎口先輩は池に反射する木々を眺める。
「小笠原さんもここで楽しんでいたんでしょうか?」
私の質問に先輩は笑ってくれた。
「うふふ、どうかしら?西には剛の池と言う巨大な池があるの。もちろん今もあるわ。剛の池の方が広くて見通しが良いからそっちに船を浮かべて楽しんでいた可能性があるわ。それに明石城はこの桜堀より北にも広い縄張りがあるの。大名屋敷には庭園もあるし流石にね。」
「でもまあ楽しみは人それぞれやし、さぐみんが言う通りこの風景も楽しんだっちゅうのもあながち間違いやないんやないか?」
訪ちゃんは私の意見を汲んでくれているようだ。
「訪の言うとおりかもね。私達もいい風景だと思ってるんだし。明石藩の歴代の藩主たちもお堀端を歩くのを楽しんでいたかも知れないわ。」
そう言って先輩は明石藩のお殿様が桜掘のお堀端を歩く姿に思いを馳せていた。
私達がそんな桜掘の風景を楽しんでいると後ろから私達に声を掛ける人がいた。
「あんた達、奇遇じゃない?どこか出会うと思っていたけどこんな早くに会うとは思っていなかったわ。会えなければこっちから電話していたところよ。」
そうやって私達に声をかけてきたのは天護先生だった。
「天護先生!」
私は後ろから声をかけられてびっくりして大きな声をだしてしまった。
「わっ!もう城下さん。びっくりしたじゃない。」
隣の虎口先輩が驚いていた。
私は虎口先輩が声を出して驚くなんて珍しいなって思ってしまう。
「甘いものはもうええんか?」
訪ちゃんがそう言うと天護先生は
「あんた達何時だと思っているの?もう14時よ。11時に到着して3時間も甘いものを食べ続けるとか、さすがの私でも無理。」
と言って着けている腕時計を指で指した。
すると先輩は物凄く驚いた顔をして自分の小さなローズピンクの腕時計を見る。
「本当だ・・・まさかこんなにも時間の進みが早いなんて・・・」
先輩も私達もあまりにも楽しくて時を忘れていたのだ。
楽しい時間はすぐに過ぎ去ってしまう。
それを思い知った瞬間だった。
「でもまあ流石にフラフラ歩いていてお互い連絡もせずに会うなんて難しいから、ここで会えてよかったわ。稲荷曲輪に向かおうと思って立ち寄ったんだけど?」
先生は一緒に来るかどうか私達に聞いてくると
「私達も丁度そうしようと思っていたんです。」
先輩は素早くそう答えていた。
「なら良かったわ。じゃあ行きましょ。」
先生は私達を促してくれた。
「はい!」
私達は先生の言葉に三人同時に反応していた。
桜堀から緩やかな坂を登って本丸の立派な石垣の横を歩くとそこが稲荷曲輪だった。
稲荷曲輪についてやはり目につくのは天守台の高石垣だった。
「坤櫓から見るとそこまで高く築かれていることに気づかないけど稲荷曲輪から見ると凄く高い石垣だと気づくの。ところでみんな、この石垣なんか違和感を感じない?」
先輩が私達にそう聞いてきた。
先生は先輩の後ろで石垣を眺めていた。
「違和感かあ。あるにはあるけどここはさぐみんに答えてもらおうか。」
そう言って訪ちゃんは私に無茶振りしてきた。
「えー?わたし・・・」
私はそう言って冷や汗を掻きながら石垣をまじまじと眺めた。
物凄く立派で高い石垣だけど・・・
すると角の石から中心に向かって石の綺麗さが途中で変わるのだ。
「角の石から途中までは凄くきれいな切り込み接ぎなのに、途中で石の加工が変わって打ち込み接ぎになっているんじゃないかな・・・」
私が角の石を指差して、途中の打ち込み接ぎの所まで指でなぞった。
すると先生が
「やるじゃん・・・ていうか見たら分かるか。」
って言って私を褒めてくれた。
「そう、正解よ。明石城が総打ち込み接ぎではない理由がこれなの。ところどころ算木積みした角石には切り込み接ぎを使って中の石垣には打ち込み接ぎの石を使っているの。算木積みした角石だけではなく内部にも一部切り込み接ぎを利用しているわ。これは天守台だけではないの。」
そう言って石垣の角の部分を見た。
確かに石垣の角の部分が綺麗に加工されて石垣がものすごく立派に見えるけど内部はどうも加工のレベルを落としているようだった。
私は気づいたら切り込み接ぎの石垣と打ち込み接ぎの石を同時に見ていたのだ。
ところで先輩が算木積みって言ってたのはどう言う石のこと?
私は新たな疑問に首を傾げていた。
二の丸や本丸、天守台で眺めていた街の風景からガラリと変わり、池みたいな堀の風景はまるで田舎の避暑地に来たような、そんな気分を味あわせてくれた。
「多分だけど、この雰囲気は今も昔もあまり変わっていないと思うの。明石城の搦手を守る桜堀の北はお城を隠すように木で覆われていたのよ。だから今の風景とそれほど変わらないと思うわ。」
虎口先輩は池に反射する木々を眺める。
「小笠原さんもここで楽しんでいたんでしょうか?」
私の質問に先輩は笑ってくれた。
「うふふ、どうかしら?西には剛の池と言う巨大な池があるの。もちろん今もあるわ。剛の池の方が広くて見通しが良いからそっちに船を浮かべて楽しんでいた可能性があるわ。それに明石城はこの桜堀より北にも広い縄張りがあるの。大名屋敷には庭園もあるし流石にね。」
「でもまあ楽しみは人それぞれやし、さぐみんが言う通りこの風景も楽しんだっちゅうのもあながち間違いやないんやないか?」
訪ちゃんは私の意見を汲んでくれているようだ。
「訪の言うとおりかもね。私達もいい風景だと思ってるんだし。明石藩の歴代の藩主たちもお堀端を歩くのを楽しんでいたかも知れないわ。」
そう言って先輩は明石藩のお殿様が桜掘のお堀端を歩く姿に思いを馳せていた。
私達がそんな桜掘の風景を楽しんでいると後ろから私達に声を掛ける人がいた。
「あんた達、奇遇じゃない?どこか出会うと思っていたけどこんな早くに会うとは思っていなかったわ。会えなければこっちから電話していたところよ。」
そうやって私達に声をかけてきたのは天護先生だった。
「天護先生!」
私は後ろから声をかけられてびっくりして大きな声をだしてしまった。
「わっ!もう城下さん。びっくりしたじゃない。」
隣の虎口先輩が驚いていた。
私は虎口先輩が声を出して驚くなんて珍しいなって思ってしまう。
「甘いものはもうええんか?」
訪ちゃんがそう言うと天護先生は
「あんた達何時だと思っているの?もう14時よ。11時に到着して3時間も甘いものを食べ続けるとか、さすがの私でも無理。」
と言って着けている腕時計を指で指した。
すると先輩は物凄く驚いた顔をして自分の小さなローズピンクの腕時計を見る。
「本当だ・・・まさかこんなにも時間の進みが早いなんて・・・」
先輩も私達もあまりにも楽しくて時を忘れていたのだ。
楽しい時間はすぐに過ぎ去ってしまう。
それを思い知った瞬間だった。
「でもまあ流石にフラフラ歩いていてお互い連絡もせずに会うなんて難しいから、ここで会えてよかったわ。稲荷曲輪に向かおうと思って立ち寄ったんだけど?」
先生は一緒に来るかどうか私達に聞いてくると
「私達も丁度そうしようと思っていたんです。」
先輩は素早くそう答えていた。
「なら良かったわ。じゃあ行きましょ。」
先生は私達を促してくれた。
「はい!」
私達は先生の言葉に三人同時に反応していた。
桜堀から緩やかな坂を登って本丸の立派な石垣の横を歩くとそこが稲荷曲輪だった。
稲荷曲輪についてやはり目につくのは天守台の高石垣だった。
「坤櫓から見るとそこまで高く築かれていることに気づかないけど稲荷曲輪から見ると凄く高い石垣だと気づくの。ところでみんな、この石垣なんか違和感を感じない?」
先輩が私達にそう聞いてきた。
先生は先輩の後ろで石垣を眺めていた。
「違和感かあ。あるにはあるけどここはさぐみんに答えてもらおうか。」
そう言って訪ちゃんは私に無茶振りしてきた。
「えー?わたし・・・」
私はそう言って冷や汗を掻きながら石垣をまじまじと眺めた。
物凄く立派で高い石垣だけど・・・
すると角の石から中心に向かって石の綺麗さが途中で変わるのだ。
「角の石から途中までは凄くきれいな切り込み接ぎなのに、途中で石の加工が変わって打ち込み接ぎになっているんじゃないかな・・・」
私が角の石を指差して、途中の打ち込み接ぎの所まで指でなぞった。
すると先生が
「やるじゃん・・・ていうか見たら分かるか。」
って言って私を褒めてくれた。
「そう、正解よ。明石城が総打ち込み接ぎではない理由がこれなの。ところどころ算木積みした角石には切り込み接ぎを使って中の石垣には打ち込み接ぎの石を使っているの。算木積みした角石だけではなく内部にも一部切り込み接ぎを利用しているわ。これは天守台だけではないの。」
そう言って石垣の角の部分を見た。
確かに石垣の角の部分が綺麗に加工されて石垣がものすごく立派に見えるけど内部はどうも加工のレベルを落としているようだった。
私は気づいたら切り込み接ぎの石垣と打ち込み接ぎの石を同時に見ていたのだ。
ところで先輩が算木積みって言ってたのはどう言う石のこと?
私は新たな疑問に首を傾げていた。
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