221 / 223
出会いと大阪城
二十七の城
しおりを挟む
夕方も少し日が傾いて来た頃、大手門は白の漆喰壁が少しだけオレンジ色に染まっていた。
長い橋を多くの観光客が出たり入ったりを繰り返している正面に位置する門は大手一の門と言うらしい。
そう天護先生が教えてくれた。
「さて、なんでクレープに舌鼓を打ってるはずの天護先生がここに居るんや?」
訪ちゃんがいつの間にか私達の側に立っていた天護先生を見て悪態をつく。
「私だっていくら甘い物好きだって言ったってクレープばっかり何枚も食べれないわよ。あんた達が遅いから迎えに来てやったのよ。それにあんたが少しぐらい部活に参加しろって言ったんでしょうに・・・」
先生は私達を待ち疲れたのか少し声に張りがないような気がした。
今日は少し気温が高いから暑さにやられたのかな?
「まあ、少しくらいやる気になってくれたんやったらええんやけどな。」
天護先生が少し私達にお城のことを教えてくれた事を最初は少し驚いていたが、天護先生の言葉を聞いて少し嬉しそうにしていた。
私はそんな訪ちゃんの顔を見て本当は訪ちゃんも天護先生のことを嫌いじゃないんじゃないかなっと思った。
そう言えば授業中の天護先生は真面目で丁寧に、所作もたおやかな姿勢で私達に教えてくれる。
訪ちゃんも本当はそういう真面目な時の天護先生が好きなんじゃないのかなと訪ちゃんの嬉しそうな顔が私にそう思わせるのだった。
それに先生は大人だから普段着の先生と仕事着の先生をその場に応じて切り替えているのかもしれないな。
「たまになら、部活に参加してあげるわ。」
先生は相変わらず高飛車にそう言ったが、訪ちゃんが少し嬉しそうにしてるのを見て満更では無さそうだった。
「先生、今日はありがとうございました。」
私は先生に頭を下げた。
経費とは言え入館料を出してもらったからだ。
先生は私が頭を下げたことをなんの事か分かっていないようで不思議そうな顔をしていた。
「先生、城下さんは博物館の入館料のことを言ってるのだと思います。」
虎口先輩がそうフォローを入れると先生は
「良いのよ、あなた達の為になるなら。それに私のお金じゃないしね。」
と照れ隠しに悪ぶっていた。
少し先生が子供みたいに見えて可愛く思える。
「さあ、あなた達、今日は18時までで解散よ。お城を見るなら大手門で最後になさい。」
先生に言われるまで気づかなかったが時間はもう17時を10分ほど過ぎたくらいだった。
私達三人は顔を見合わせると一の門に向かって歩いていた。
天上から見下ろした大手門と違って近くから見ると物凄く大きく感じる。
色々とお城のことを知ってから見るとやっぱり違うなあと思わされる。
一の門は渡櫓門よりは小さな門だけど、黒い鉄張りの門は重厚だし、門の横から顔を出す櫓もアクセントになって堅牢に見える。
そう言えばこの前訪ちゃんがあの櫓はなんとか櫓だって言ってたな・・・
私は昨日の記憶を探ってなんとか櫓の名前を思い出そうと思ったが中々思い出せずに喉の奥に何かが詰まっているように気持ち悪い思いをしているとそれに気づいた虎口先輩が
「あれは千貫櫓というのよ。」
そう教えてくれた。
そうだ、千貫櫓だ。
訪ちゃんはたしかにそう言っていた。
「千貫櫓はこの一の門を守るために作られた重要な櫓で、石山本願寺の時代からこの位置にあるらしいの。」
そうなんだ、でも石山本願寺の場所は良くは分かってないはずなんじゃ?
私が疑問に思っているとその事を察知した虎口先輩は
「昔、顕如上人が石山本願寺に立て籠もっていた時に信長がこの門から攻撃を仕掛けてよく苦戦していたのよ。あまりにも強力な横矢掛かりだからその後に作られたお城にも同じように千貫櫓を設置するように踏襲されたの。だから昔からこの大手門の位置には必ず千貫櫓が門に侵入しようとする外敵に睨みを利かせているのよ。」
そう教えてくれた。
確かにあの櫓凄く前に迫り出しているから少し傾斜のきつい橋で疲労しているのにこの鉄の黒い門で足止めされて、更に横から鉄砲で攻撃されたらひとたまりもないだろうな・・・
私がそう思ってまじまじと千貫櫓を眺めていると私達の後ろから
「信長があまりにも強力だった櫓を見て『千貫であの櫓が買えるならすぐに買うのに!』って悔しがったの。それで千貫櫓とていう名前がついたのよ。」
天護先生が名前の由来について説明してくれた。
私は多分目を丸くしてびっくりしていたのだろう。
先生は私がなんでそんな顔しているのか分からなくって不思議な顔をしていたが、私は思い出したかのように手を叩いて拍手をすると
「先生って歴史に詳しいんですねえ。」
と不用意に口走っていた。
私はすっかり先生が日本史の先生だということを忘れてしまっていたのだ。
「日本史の教師なんだからそれくらい知ってて当たり前でしょ!」
先生は顔を赤くして怒るが
「そらアイスやクレープがばっかり食べて部活に参加せんねんから、さぐみんがそう思ったって当たり前や。」
訪ちゃんが先生の怒った姿を見て爆笑してお腹を抱えて笑ってしまった。
先生はそんな訪ちゃんを見て更に顔に真っ赤にしてしまったためダルマみたいな顔になる。
訪ちゃんはそれを見て更に笑いが止まらないようだった。
「せっかく先生が少しはやる気を見せてくれたのに・・・」
虎口先輩は二人の姿に目も当てられなかったのか額に手を当てて大きくため息をついた。
長い橋を多くの観光客が出たり入ったりを繰り返している正面に位置する門は大手一の門と言うらしい。
そう天護先生が教えてくれた。
「さて、なんでクレープに舌鼓を打ってるはずの天護先生がここに居るんや?」
訪ちゃんがいつの間にか私達の側に立っていた天護先生を見て悪態をつく。
「私だっていくら甘い物好きだって言ったってクレープばっかり何枚も食べれないわよ。あんた達が遅いから迎えに来てやったのよ。それにあんたが少しぐらい部活に参加しろって言ったんでしょうに・・・」
先生は私達を待ち疲れたのか少し声に張りがないような気がした。
今日は少し気温が高いから暑さにやられたのかな?
「まあ、少しくらいやる気になってくれたんやったらええんやけどな。」
天護先生が少し私達にお城のことを教えてくれた事を最初は少し驚いていたが、天護先生の言葉を聞いて少し嬉しそうにしていた。
私はそんな訪ちゃんの顔を見て本当は訪ちゃんも天護先生のことを嫌いじゃないんじゃないかなっと思った。
そう言えば授業中の天護先生は真面目で丁寧に、所作もたおやかな姿勢で私達に教えてくれる。
訪ちゃんも本当はそういう真面目な時の天護先生が好きなんじゃないのかなと訪ちゃんの嬉しそうな顔が私にそう思わせるのだった。
それに先生は大人だから普段着の先生と仕事着の先生をその場に応じて切り替えているのかもしれないな。
「たまになら、部活に参加してあげるわ。」
先生は相変わらず高飛車にそう言ったが、訪ちゃんが少し嬉しそうにしてるのを見て満更では無さそうだった。
「先生、今日はありがとうございました。」
私は先生に頭を下げた。
経費とは言え入館料を出してもらったからだ。
先生は私が頭を下げたことをなんの事か分かっていないようで不思議そうな顔をしていた。
「先生、城下さんは博物館の入館料のことを言ってるのだと思います。」
虎口先輩がそうフォローを入れると先生は
「良いのよ、あなた達の為になるなら。それに私のお金じゃないしね。」
と照れ隠しに悪ぶっていた。
少し先生が子供みたいに見えて可愛く思える。
「さあ、あなた達、今日は18時までで解散よ。お城を見るなら大手門で最後になさい。」
先生に言われるまで気づかなかったが時間はもう17時を10分ほど過ぎたくらいだった。
私達三人は顔を見合わせると一の門に向かって歩いていた。
天上から見下ろした大手門と違って近くから見ると物凄く大きく感じる。
色々とお城のことを知ってから見るとやっぱり違うなあと思わされる。
一の門は渡櫓門よりは小さな門だけど、黒い鉄張りの門は重厚だし、門の横から顔を出す櫓もアクセントになって堅牢に見える。
そう言えばこの前訪ちゃんがあの櫓はなんとか櫓だって言ってたな・・・
私は昨日の記憶を探ってなんとか櫓の名前を思い出そうと思ったが中々思い出せずに喉の奥に何かが詰まっているように気持ち悪い思いをしているとそれに気づいた虎口先輩が
「あれは千貫櫓というのよ。」
そう教えてくれた。
そうだ、千貫櫓だ。
訪ちゃんはたしかにそう言っていた。
「千貫櫓はこの一の門を守るために作られた重要な櫓で、石山本願寺の時代からこの位置にあるらしいの。」
そうなんだ、でも石山本願寺の場所は良くは分かってないはずなんじゃ?
私が疑問に思っているとその事を察知した虎口先輩は
「昔、顕如上人が石山本願寺に立て籠もっていた時に信長がこの門から攻撃を仕掛けてよく苦戦していたのよ。あまりにも強力な横矢掛かりだからその後に作られたお城にも同じように千貫櫓を設置するように踏襲されたの。だから昔からこの大手門の位置には必ず千貫櫓が門に侵入しようとする外敵に睨みを利かせているのよ。」
そう教えてくれた。
確かにあの櫓凄く前に迫り出しているから少し傾斜のきつい橋で疲労しているのにこの鉄の黒い門で足止めされて、更に横から鉄砲で攻撃されたらひとたまりもないだろうな・・・
私がそう思ってまじまじと千貫櫓を眺めていると私達の後ろから
「信長があまりにも強力だった櫓を見て『千貫であの櫓が買えるならすぐに買うのに!』って悔しがったの。それで千貫櫓とていう名前がついたのよ。」
天護先生が名前の由来について説明してくれた。
私は多分目を丸くしてびっくりしていたのだろう。
先生は私がなんでそんな顔しているのか分からなくって不思議な顔をしていたが、私は思い出したかのように手を叩いて拍手をすると
「先生って歴史に詳しいんですねえ。」
と不用意に口走っていた。
私はすっかり先生が日本史の先生だということを忘れてしまっていたのだ。
「日本史の教師なんだからそれくらい知ってて当たり前でしょ!」
先生は顔を赤くして怒るが
「そらアイスやクレープがばっかり食べて部活に参加せんねんから、さぐみんがそう思ったって当たり前や。」
訪ちゃんが先生の怒った姿を見て爆笑してお腹を抱えて笑ってしまった。
先生はそんな訪ちゃんを見て更に顔に真っ赤にしてしまったためダルマみたいな顔になる。
訪ちゃんはそれを見て更に笑いが止まらないようだった。
「せっかく先生が少しはやる気を見せてくれたのに・・・」
虎口先輩は二人の姿に目も当てられなかったのか額に手を当てて大きくため息をついた。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
たっくんは疑問形 〜あなたと私の長い長い恋のお話〜
田沢みん
ライト文芸
第3回ライト文芸大賞 奨励賞、ありがとうございました。
『たっくん……私にたっくんの、空白の6年間を全部下さい』
『小夏……俺の話を聞いてくれる?』
小夏と拓巳は5歳の夏に運命の出会いをし、恋をした。 2人は拓巳の母親の恋人による暴力でジワジワと追い詰められ傷つけられ、 9歳の寒い冬の日に引き裂かれた。
そして6年ぶりに高校で再会した拓巳は、外見も中身も全く変わっていて……。
これは初恋の彼を想ったまま恋することをやめた少女、小夏と、 暗い過去を背負い、人を愛することを諦めた少年、拓巳の20年越しの恋のお話。
* R15です。第1章後半および第3章で児童に対する暴力、ケガなどの描写があります。第4章から性描写、微ザマァが入ります。
*本編完結済み。不定期で番外編を追加中です。
*イラストはミカスケ様です。
稀代の大賢者は0歳児から暗躍する〜公爵家のご令息は運命に抵抗する〜
撫羽
ファンタジー
ある邸で秘密の会議が開かれていた。
そこに出席している3歳児、王弟殿下の一人息子。実は前世を覚えていた。しかもやり直しの生だった!?
どうしてちびっ子が秘密の会議に出席するような事になっているのか? 何があったのか?
それは生後半年の頃に遡る。
『ばぶぁッ!』と元気な声で目覚めた赤ん坊。
おかしいぞ。確かに俺は刺されて死んだ筈だ。
なのに、目が覚めたら見覚えのある部屋だった。両親が心配そうに見ている。
しかも若い。え? どうなってんだ?
体を起こすと、嫌でも目に入る自分のポヨンとした赤ちゃん体型。マジかよ!?
神がいるなら、0歳児スタートはやめてほしかった。
何故だか分からないけど、人生をやり直す事になった。実は将来、大賢者に選ばれ魔族討伐に出る筈だ。だが、それは避けないといけない。
何故ならそこで、俺は殺されたからだ。
ならば、大賢者に選ばれなければいいじゃん!と、小さな使い魔と一緒に奮闘する。
でも、それなら魔族の問題はどうするんだ?
それも解決してやろうではないか!
小さな胸を張って、根拠もないのに自信満々だ。
今回は初めての0歳児スタートです。
小さな賢者が自分の家族と、大好きな婚約者を守る為に奮闘します。
今度こそ、殺されずに生き残れるのか!?
とは言うものの、全然ハードな内容ではありません。
今回も癒しをお届けできればと思います。
茜川の柿の木――姉と僕の風景、祈りの日々
永倉圭夏
ライト文芸
重度の難病にかかっている僕の姉。その生はもう長くはないと宣告されていた。わがままで奔放な姉にあこがれる僕は胸を痛める。ゆっくり死に近づきつつある姉とヤングケアラーの僕との日常、三年間の記録。そしていよいよ姉の死期が迫る。
泣けない、泣かない。
黒蝶
ライト文芸
毎日絶望に耐えている少女・詩音と、偶然教育実習生として彼女の高校に行くことになった恋人・優翔。
ある事情から不登校になった少女・久遠と、通信制高校に通う恋人・大翔。
兄である優翔に憧れる弟の大翔。
しかし、そんな兄は弟の言葉に何度も救われている。
これは、そんな4人から為る物語。
《主な登場人物》
如月 詩音(きらさぎ しおん):大人しめな少女。歌うことが大好きだが、人前ではなかなか歌わない。
小野 優翔(おの ゆうと):詩音の恋人。養護教諭になる為、教育実習に偶然詩音の学校にやってくる。
水無月 久遠(みなづき くおん):家からほとんど出ない少女。読書家で努力家。
小野 大翔(おの ひろと):久遠の恋人。優翔とは兄弟。天真爛漫な性格で、人に好かれやすい。
世界をとめて
makikasuga
ライト文芸
天涯孤独な人生を過ごしていた金田麻百合の元に突如現れた金髪ヤンキーの男、柳。
彼に強引に連れ出され、麻百合は二卵性双子児の妹、浅田花梨と対面する。
自分とは似ても似つかない儚げな少女、花梨。彼女の奴隷だと言って、何でも言うことを聞く柳。戸惑いながらも、麻百合はふたりと同居することになった。
最初で最後の奇妙な同居生活、そこに忍び寄る黒い影。彼らの世界はどう変わっていくのか。
サブタイトルにはパチンコ用語が使われております。
今のところNolaノベルにも掲載しています。
冷たい海
いっき
ライト文芸
満月は遥か彼方、その水平線に沈みゆく。海面に光り輝く永遠の旋律を伸ばしながら。眠りから醒めんとする魂に最大の光を与えながら。
透明となった自らは、月と海と、贈る調べと一体となる。自らの魂を込めたこの箏奏は最愛の、その魂を呼び覚ます。
呼び覚まされし魂は、眩い月を揺らすほどに透明な歌声を響かせる。その歌声は贈る調べと調和して、果てなく広がる海を永遠に青白く輝かせる。
月は海は、この調べは、彼女に永遠の生を与えるであろう。たとえ、自らの生が消えてなくなる日が来たとしても。
破鏡の世に……(アルファポリス版)
刹那玻璃
歴史・時代
後漢王朝は、形ばかりのものになりつつあった190年後半。
曹孟徳(そうもうとく)による『徐州大虐殺』から姉弟たちと共に逃れ、逃れて荊州(けいしゅう)の襄陽(じょうよう)にたどり着いた諸葛孔明(しょかつこうめい)、16歳。
現在の趣味は畑仕事に掃除、洗濯に内職。裁縫も得意だ。星を読むのは天候予測のため。でないとご飯にありつけない。一応学問はさらっているが、それが今現在役に立っているかは不明。そして早急に必要なのは姉弟の腹を満たすものと、結婚適齢期を過ぎつつある二人の姉の嫁ぎ先!
性格は悪くないものの破天荒な姉弟たちによって磨かれた「おかんスキル」と、新しく親族となった一癖どころか二癖も三癖もある人々の中、何とかいかに平和に、のんびりと、無事にやり過ごそうと努力したもののことごとく失敗。
その上、一人の少女と出会う。
半身を追い求める孔明、幼い少女は自分を守ってくれる人、愛を求める。
この願いは叶わない
もう書かないって言ったよね?
ライト文芸
いつかは願いが叶うのでしょうか?病院に飾られる七夕の願い事、サンタクロースへの願い事、誕生日プレゼントの願い事、良い子にしていれば願いは叶うのでしょうか?青年は思います「この願いは叶わない」と。この世界には叶う願いはあるのでしょうか?
🌟週末に一度の投稿を目標に頑張って書き上げようと思います。第2回ほっこり・じんわり大賞に向けて、7/28までに完結できれば幸いです。週末の10分間読書のお供になれるように頑張ります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる