14 / 18
第4話 夢に見る花びら
1
しおりを挟む
「うわあ、ほんとうにたくさん実っていますね」
ヴァルダスが教えてくれた場所には、だいだい色の大きな果実がたわわに実る一本の木があった。
「いつでも実っている不思議な果実でな」
「俺は良く此処で空腹を満たすのだ」
狼であるヴァルダスが果実を食べるとは思わなかったのでミルフィは驚いたが、手渡された果実に鼻を近づけると、すぐにうっとりした。
「とても甘い香りがします」
「そうとも」
「そのまま喰ってみろ」
ヴァルダスの催促に倣い、ミルフィは皮ごとそれにかぶりついた。
「随分と甘いですねえ」
ミルフィは思わず言ってしまった。
いままでこんなに甘いものを口にしたことがない。改めて確認したが、熟れすぎていると言うふうにも見えない。ヴァルダスを見ると、凄まじい勢いでそれを齧っている。
「どうだ旨かろう」
「初めて喰ったときの衝撃をいつも思い出す」
果汁を撒き散らしながら真面目な顔をして言うので、ミルフィはヴァルダスが甘いもの好きであることを思い出した。この程よい果汁と粘度からして、確かに腹待ちは良さそうだが、ミルフィはその余りの甘さに、手を止めてしまった。
その様子にヴァルダスは齧るのをやめて、木の真下からミルフィの立っている場所にやって来た。
「どうした」
ミルフィは困ってしまった。
ヴァルダスさんがせっかく教えてくれたのに。わたしのために、採ってくれたのに。
無理してでも口にするべきか。しかし身体が受け付けない気がする。これから移動するのに体調が悪くなってしまったらどうしよう。一抹の不安がよぎった。
「口に合わないのか」
「無理して喰わなくても良いのだぞ」
見上げた顔によほど余裕がなかったのか、ヴァルダスは慌てた様子だった。
「ええと、いや、そんなことは」
目を逸らしながら、咄嗟に言った。
我ながら嘘をつくのが下手だな、と思いながらもミルフィはヴァルダスの視線から逃げるように、その木を見上げた。光が差し込んで、木の葉がきらきらしている。
そこに、まだ熟れていない青い実がなっているのに気が付いた。
「ヴァルダスさん」
「何だ」
ミルフィを心配そうに見ていたヴァルダスは、すぐに答えた。ミルフィは青い実を指差した。
「あれを食べることはできますか」
何だって?とヴァルダスも見上げた。それを見つけたようだが、難しい顔をして果実を両手に持ったまま答えた。
「どうであろうな」
「あれはまだ熟れていないように見えるが」
「だからこそです」
ミルフィは明るい声で言った。
ヴァルダスが困惑していると、ミルフィは足を掛けることが出来る枝を探した。その青い果実は熟れただいだい色のものより高い場所に実っていたので、木を登る必要があった。
ミルフィは鞄を足元に置き、見つけたその枝から木に登った。ミルフィの身軽さにヴァルダスは驚いて、それを黙って見ている。
するするとミルフィは上へと進み、青い実に手を伸ばす。
ヴァルダスは果実を自分の鞄の上に乗せると、置いてあった布で手と口をぬぐって、木の枝を見上げながら、ゆっくり移動した。
そしてミルフィが果実を握りしめた途端、バランスを崩して木から落ちかけた。
「わっ」
それから落下した。のだが、ミルフィの真下に移動していたヴァルダスが難なく受け止めた。
「予想通り過ぎて何も言えぬな」
ミルフィは真っ赤になって、ヴァルダスからゆっくり降りた。
「ありがとうございます」
手にはひとつ、何とか手にできた果実がある。
そしてミルフィはそろりとそれを齧った。ミルフィの顔が明るくなる。未熟な実であるが、それゆえに甘酸っぱく、美味であった。
「美味しいです」
「わたし青い実のほうが好きです」
「では今度からそれも採ろう」
頷きながらミルフィが尚も食べていると、ヴァルダスは続けた。
「しかし登るのは俺だけだぞ」
ミルフィは恥ずかしさで俯くしかなかった。
ヴァルダスが教えてくれた場所には、だいだい色の大きな果実がたわわに実る一本の木があった。
「いつでも実っている不思議な果実でな」
「俺は良く此処で空腹を満たすのだ」
狼であるヴァルダスが果実を食べるとは思わなかったのでミルフィは驚いたが、手渡された果実に鼻を近づけると、すぐにうっとりした。
「とても甘い香りがします」
「そうとも」
「そのまま喰ってみろ」
ヴァルダスの催促に倣い、ミルフィは皮ごとそれにかぶりついた。
「随分と甘いですねえ」
ミルフィは思わず言ってしまった。
いままでこんなに甘いものを口にしたことがない。改めて確認したが、熟れすぎていると言うふうにも見えない。ヴァルダスを見ると、凄まじい勢いでそれを齧っている。
「どうだ旨かろう」
「初めて喰ったときの衝撃をいつも思い出す」
果汁を撒き散らしながら真面目な顔をして言うので、ミルフィはヴァルダスが甘いもの好きであることを思い出した。この程よい果汁と粘度からして、確かに腹待ちは良さそうだが、ミルフィはその余りの甘さに、手を止めてしまった。
その様子にヴァルダスは齧るのをやめて、木の真下からミルフィの立っている場所にやって来た。
「どうした」
ミルフィは困ってしまった。
ヴァルダスさんがせっかく教えてくれたのに。わたしのために、採ってくれたのに。
無理してでも口にするべきか。しかし身体が受け付けない気がする。これから移動するのに体調が悪くなってしまったらどうしよう。一抹の不安がよぎった。
「口に合わないのか」
「無理して喰わなくても良いのだぞ」
見上げた顔によほど余裕がなかったのか、ヴァルダスは慌てた様子だった。
「ええと、いや、そんなことは」
目を逸らしながら、咄嗟に言った。
我ながら嘘をつくのが下手だな、と思いながらもミルフィはヴァルダスの視線から逃げるように、その木を見上げた。光が差し込んで、木の葉がきらきらしている。
そこに、まだ熟れていない青い実がなっているのに気が付いた。
「ヴァルダスさん」
「何だ」
ミルフィを心配そうに見ていたヴァルダスは、すぐに答えた。ミルフィは青い実を指差した。
「あれを食べることはできますか」
何だって?とヴァルダスも見上げた。それを見つけたようだが、難しい顔をして果実を両手に持ったまま答えた。
「どうであろうな」
「あれはまだ熟れていないように見えるが」
「だからこそです」
ミルフィは明るい声で言った。
ヴァルダスが困惑していると、ミルフィは足を掛けることが出来る枝を探した。その青い果実は熟れただいだい色のものより高い場所に実っていたので、木を登る必要があった。
ミルフィは鞄を足元に置き、見つけたその枝から木に登った。ミルフィの身軽さにヴァルダスは驚いて、それを黙って見ている。
するするとミルフィは上へと進み、青い実に手を伸ばす。
ヴァルダスは果実を自分の鞄の上に乗せると、置いてあった布で手と口をぬぐって、木の枝を見上げながら、ゆっくり移動した。
そしてミルフィが果実を握りしめた途端、バランスを崩して木から落ちかけた。
「わっ」
それから落下した。のだが、ミルフィの真下に移動していたヴァルダスが難なく受け止めた。
「予想通り過ぎて何も言えぬな」
ミルフィは真っ赤になって、ヴァルダスからゆっくり降りた。
「ありがとうございます」
手にはひとつ、何とか手にできた果実がある。
そしてミルフィはそろりとそれを齧った。ミルフィの顔が明るくなる。未熟な実であるが、それゆえに甘酸っぱく、美味であった。
「美味しいです」
「わたし青い実のほうが好きです」
「では今度からそれも採ろう」
頷きながらミルフィが尚も食べていると、ヴァルダスは続けた。
「しかし登るのは俺だけだぞ」
ミルフィは恥ずかしさで俯くしかなかった。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説


【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
【書籍化進行中、完結】私だけが知らない
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
平凡冒険者のスローライフ
上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。
平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。
果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか……
ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

どうも、死んだはずの悪役令嬢です。
西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。
皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。
アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。
「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」
こっそり呟いた瞬間、
《願いを聞き届けてあげるよ!》
何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。
「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」
義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。
今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで…
ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。
はたしてアシュレイは元に戻れるのか?
剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。
ざまあが書きたかった。それだけです。
【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。
ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。
彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。
「誰も、お前なんか必要としていない」
最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。
だけどそれも、意味のないことだったのだ。
彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。
なぜ時が戻ったのかは分からない。
それでも、ひとつだけ確かなことがある。
あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。
私は、私の生きたいように生きます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる