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第4話 夢に見る花びら
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「うわあ、ほんとうにたくさん実っていますね」
ヴァルダスが教えてくれた場所には、だいだい色の大きな果実がたわわに実る一本の木があった。
「いつでも実っている不思議な果実でな」
「俺は良く此処で空腹を満たすのだ」
狼であるヴァルダスが果実を食べるとは思わなかったのでミルフィは驚いたが、手渡された果実に鼻を近づけると、すぐにうっとりした。
「とても甘い香りがします」
「そうとも」
「そのまま喰ってみろ」
ヴァルダスの催促に倣い、ミルフィは皮ごとそれにかぶりついた。
「随分と甘いですねえ」
ミルフィは思わず言ってしまった。
いままでこんなに甘いものを口にしたことがない。改めて確認したが、熟れすぎていると言うふうにも見えない。ヴァルダスを見ると、凄まじい勢いでそれを齧っている。
「どうだ旨かろう」
「初めて喰ったときの衝撃をいつも思い出す」
果汁を撒き散らしながら真面目な顔をして言うので、ミルフィはヴァルダスが甘いもの好きであることを思い出した。この程よい果汁と粘度からして、確かに腹待ちは良さそうだが、ミルフィはその余りの甘さに、手を止めてしまった。
その様子にヴァルダスは齧るのをやめて、木の真下からミルフィの立っている場所にやって来た。
「どうした」
ミルフィは困ってしまった。
ヴァルダスさんがせっかく教えてくれたのに。わたしのために、採ってくれたのに。
無理してでも口にするべきか。しかし身体が受け付けない気がする。これから移動するのに体調が悪くなってしまったらどうしよう。一抹の不安がよぎった。
「口に合わないのか」
「無理して喰わなくても良いのだぞ」
見上げた顔によほど余裕がなかったのか、ヴァルダスは慌てた様子だった。
「ええと、いや、そんなことは」
目を逸らしながら、咄嗟に言った。
我ながら嘘をつくのが下手だな、と思いながらもミルフィはヴァルダスの視線から逃げるように、その木を見上げた。光が差し込んで、木の葉がきらきらしている。
そこに、まだ熟れていない青い実がなっているのに気が付いた。
「ヴァルダスさん」
「何だ」
ミルフィを心配そうに見ていたヴァルダスは、すぐに答えた。ミルフィは青い実を指差した。
「あれを食べることはできますか」
何だって?とヴァルダスも見上げた。それを見つけたようだが、難しい顔をして果実を両手に持ったまま答えた。
「どうであろうな」
「あれはまだ熟れていないように見えるが」
「だからこそです」
ミルフィは明るい声で言った。
ヴァルダスが困惑していると、ミルフィは足を掛けることが出来る枝を探した。その青い果実は熟れただいだい色のものより高い場所に実っていたので、木を登る必要があった。
ミルフィは鞄を足元に置き、見つけたその枝から木に登った。ミルフィの身軽さにヴァルダスは驚いて、それを黙って見ている。
するするとミルフィは上へと進み、青い実に手を伸ばす。
ヴァルダスは果実を自分の鞄の上に乗せると、置いてあった布で手と口をぬぐって、木の枝を見上げながら、ゆっくり移動した。
そしてミルフィが果実を握りしめた途端、バランスを崩して木から落ちかけた。
「わっ」
それから落下した。のだが、ミルフィの真下に移動していたヴァルダスが難なく受け止めた。
「予想通り過ぎて何も言えぬな」
ミルフィは真っ赤になって、ヴァルダスからゆっくり降りた。
「ありがとうございます」
手にはひとつ、何とか手にできた果実がある。
そしてミルフィはそろりとそれを齧った。ミルフィの顔が明るくなる。未熟な実であるが、それゆえに甘酸っぱく、美味であった。
「美味しいです」
「わたし青い実のほうが好きです」
「では今度からそれも採ろう」
頷きながらミルフィが尚も食べていると、ヴァルダスは続けた。
「しかし登るのは俺だけだぞ」
ミルフィは恥ずかしさで俯くしかなかった。
ヴァルダスが教えてくれた場所には、だいだい色の大きな果実がたわわに実る一本の木があった。
「いつでも実っている不思議な果実でな」
「俺は良く此処で空腹を満たすのだ」
狼であるヴァルダスが果実を食べるとは思わなかったのでミルフィは驚いたが、手渡された果実に鼻を近づけると、すぐにうっとりした。
「とても甘い香りがします」
「そうとも」
「そのまま喰ってみろ」
ヴァルダスの催促に倣い、ミルフィは皮ごとそれにかぶりついた。
「随分と甘いですねえ」
ミルフィは思わず言ってしまった。
いままでこんなに甘いものを口にしたことがない。改めて確認したが、熟れすぎていると言うふうにも見えない。ヴァルダスを見ると、凄まじい勢いでそれを齧っている。
「どうだ旨かろう」
「初めて喰ったときの衝撃をいつも思い出す」
果汁を撒き散らしながら真面目な顔をして言うので、ミルフィはヴァルダスが甘いもの好きであることを思い出した。この程よい果汁と粘度からして、確かに腹待ちは良さそうだが、ミルフィはその余りの甘さに、手を止めてしまった。
その様子にヴァルダスは齧るのをやめて、木の真下からミルフィの立っている場所にやって来た。
「どうした」
ミルフィは困ってしまった。
ヴァルダスさんがせっかく教えてくれたのに。わたしのために、採ってくれたのに。
無理してでも口にするべきか。しかし身体が受け付けない気がする。これから移動するのに体調が悪くなってしまったらどうしよう。一抹の不安がよぎった。
「口に合わないのか」
「無理して喰わなくても良いのだぞ」
見上げた顔によほど余裕がなかったのか、ヴァルダスは慌てた様子だった。
「ええと、いや、そんなことは」
目を逸らしながら、咄嗟に言った。
我ながら嘘をつくのが下手だな、と思いながらもミルフィはヴァルダスの視線から逃げるように、その木を見上げた。光が差し込んで、木の葉がきらきらしている。
そこに、まだ熟れていない青い実がなっているのに気が付いた。
「ヴァルダスさん」
「何だ」
ミルフィを心配そうに見ていたヴァルダスは、すぐに答えた。ミルフィは青い実を指差した。
「あれを食べることはできますか」
何だって?とヴァルダスも見上げた。それを見つけたようだが、難しい顔をして果実を両手に持ったまま答えた。
「どうであろうな」
「あれはまだ熟れていないように見えるが」
「だからこそです」
ミルフィは明るい声で言った。
ヴァルダスが困惑していると、ミルフィは足を掛けることが出来る枝を探した。その青い果実は熟れただいだい色のものより高い場所に実っていたので、木を登る必要があった。
ミルフィは鞄を足元に置き、見つけたその枝から木に登った。ミルフィの身軽さにヴァルダスは驚いて、それを黙って見ている。
するするとミルフィは上へと進み、青い実に手を伸ばす。
ヴァルダスは果実を自分の鞄の上に乗せると、置いてあった布で手と口をぬぐって、木の枝を見上げながら、ゆっくり移動した。
そしてミルフィが果実を握りしめた途端、バランスを崩して木から落ちかけた。
「わっ」
それから落下した。のだが、ミルフィの真下に移動していたヴァルダスが難なく受け止めた。
「予想通り過ぎて何も言えぬな」
ミルフィは真っ赤になって、ヴァルダスからゆっくり降りた。
「ありがとうございます」
手にはひとつ、何とか手にできた果実がある。
そしてミルフィはそろりとそれを齧った。ミルフィの顔が明るくなる。未熟な実であるが、それゆえに甘酸っぱく、美味であった。
「美味しいです」
「わたし青い実のほうが好きです」
「では今度からそれも採ろう」
頷きながらミルフィが尚も食べていると、ヴァルダスは続けた。
「しかし登るのは俺だけだぞ」
ミルフィは恥ずかしさで俯くしかなかった。
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