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第二章

魔女のお手製の…

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 卒業前日――――

 今宵の『大魔術師』様は準備に忙しい。明日は可愛い弟子達と過ごす最後の日、お祝いの晩餐が開かれる。
 レグルスは泡だて器を片手に、かぼちゃのケーキを作っていた。完成したら豪華な献立の中にそれも加えて並べるのだ。
 ハルワイム王国では魔法使いが独り立ちする前日に、かぼちゃのケーキを食べる風習がある。『かぼちゃのような黄金色の幸運を掴め』要するに、これから自分一人で頑張ってお金を稼げという意味があるのだ。
 ――明日で弟子が食べる私の菓子はこれで最後か。
 レグルスは今まで作ってきた数々の品と、それを美味しそうにむしゃむしゃ食べて頬張る弟子二人の姿を思い浮かべ感無量になる。
 毎日、…………アシルとサラに出されていたおやつは、彼のお手製だった。
 自分が作ったとは言わず黙って侍女に出させている。
 叩き捨てたサラのクッキーと、アシルから奪ったドーナツは彼自慢の味だ。
 クッキーは、ゴミになっても口に入れようとするサラが愛おしかった。だが、ドーナツは自分が作っただけに虫唾が走った。しかも、これがきっかけで弟子二人の愛が芽生えたら堪ったものでない。彼の中では冗談じゃ済まされないのだ。
 拗ねて何年もドーナツは作らなかったが、腕が鈍りそうなので解禁した。
 ――本当に寂しい。まぁ、サラには妻として、これからは食べてもらうが。
 レグルスの夢はお菓子の家を作り、そこへ妻と子供を一晩招待することである。
 窓は全部透けた飴にして、屋根にドーナツを並べる。壁はしっとりクッキーを貼り付けて、床にはサクサクなビスケットを敷き詰める予定だ。
 夜、寝ている愛妻にこっそり、ベタベタのチョコレートが付いた指を突っ込んでみたい。想像するだけで勃ってくる。今のところ、想像はあくまで指である。指。
 かぼちゃのケーキをオーブンへ入れると、今の工程を忘れないうちにメモする。
 来秋発売である料理本のレシピに加えるのだ。
 この国では料理はプロ以外、女性がする物という偏った考えがある。お菓子作りという女っぽい趣味を内緒にしていたが、これからは妻と子供に気兼ねなく食べさせたい。なので、あえて世間に大っぴらにする事にした。
 魔法使いは魔法関連なら副業しても良い。
 ただの料理本では発行できないが、魔法関連に無理やりすればいいのだ。
 本に付録として魔法のクッキー型を一つ付けて売る。このクッキー型で作ったクッキーは、命が宿ったように動いて踊るのだ。女性はもちろん親子にも受けを狙っている。上手くいけばクッキー型も売る予定だ。彼はこんな感じで多数儲けている。
 レグルスも、ユウゴに負けず劣らず拝金主義だった。
『オズオズ』出演も『私のヌードには、美という名の魔法を掛けている』という屁理屈でギャラを確り貰っている。
「さて、忘れないうちにもひとつお菓子を作らねば」
 結婚できた嬉しさでサラにイザベルの事をつい伝え忘れてしまった彼は、今日は油断しないようしっかり全部の用事をメモしてきた。
 常温に戻したバターに、砂糖と魔法の粉を加え白っぽくなるまで混ぜる。かき混ぜている時の彼は実に幸せそうだ。唇が弧を描く。
 ――よしよし。上出来だな。
 特別なお菓子を焼き終えるとレグルスは美貌維持の為、お顔に化粧水をつけて薬草で念入りにパックする。
 彼は愛の巣作りで寝不足なのだ。お肌に良くないのでなるだけ気をつけているが、どうしてもあれこれ拘りたい。      美貌を犠牲にしている甲斐あってあとちょっとで完成する。
 せっせせっせと作った巣に最後の一つを運ぶだけ。

 大事な単語つがい番を――――

※※※
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