残念魔王とロリ邪神は移動図書館で異世界を巡る

日野 祐希

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スカイダイビング(パラシュートなし)

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 足を踏み外し、魔法の準備も整わないまま崖から真っ逆さま。
 流れゆく景色の中で、セシリアが耳元で叫んできた。

「おい、ヨシマサ! 仙人化はどうしたのじゃ! さっさとしないとマジで死んでしまうぞ!?」

「お、おう! ちょっと待てよ!」

 恐怖で首にしがみついてくるセシリアに言われ、『君も今日から大仙人』を取り出す。
 どうでもいいがセシリアよ、あんまりしがみつくな。
 スリーパーホールドのように極まって、若干意識が遠くなってきた。

「うぉおおおおおおおおおお! 魔王仙人モード発動!?」

 とりあえず魔法発動。
 おお!
 大地のエネルギーが俺の中に流れ込んでくる。
 なんかこう……漲ってきたーっ!!

「おや? これはどうしたことでしょうか、解説のピエールさん。あんちくしょうのウザい気配が急に薄くなりましたね」

「地獄の釜の蓋をぶち破りましたかね。おいしくいただかれる形で」

「なるほど、素晴らしいですね! ――あ、いや、どうやらまだ生きているようです。この存在感の希薄化は、ヨシマサ選手の魔法によるもののようです!」

 最後に「チッ! 紛らわしいことしやがって、クズ野郎が」とバッチリ悪態を残してくれる司会氏。
 うん。
 もうどうでもいいや。付き合ったら負けだ。
 悲しくない、悲しくないもん……。

「いっそ褒めたくなるくらいの嫌われようじゃな……」(←憐れみいっぱいの優しい目)

「黙れ、クソガキ。その同情する目はやめろ」

 首に巻きついたお荷物ことセシリアへ、静かに告げる。
 さっきまでギャーギャー騒いでいたのに、急に同情的な雰囲気でおとなしくなりやがって。
 いつものように笑い飛ばされた方がまだマシだ。
 そうやって同情されるのが……実は一番傷つくんじゃ! (←滝のようにあふれ出る涙)

「安心せよ。たとえお主が世界中の人間から嫌われたとしても……まあ、5m位距離を置いてずっといっしょにいてやるからな」

「追い打ちかけてんじゃねえよ、バカ野郎。仲間だろ! ドラゴンの口にレシーブするぞ」

 目をウルウルさせながら、肩をポンポン叩いてんじゃね。
 あと、口元ムズムズさせてんじゃねえよ。
 笑いたいのを必死に抑えてんの丸わかりだ、イカレポンチめ。
 せめて同情するかあざ笑うかのどっちかにしやがれ!

「そうか? うむ、では……やーい、やーい、ディスられてやんの! わらわを巻き込んだ天罰じゃな。ハーッハッハ!!」

「OK、よく言った。ご褒美にドラゴンの口へダンクかましてやる」

 仙人パワーで首に巻き付いたセシリアを引きはがし、ダンクの構えを取る。
 あとは適当なドラゴンに狙いを定めて……。

「させるか! ――はぐっ!?」

「うおっ! いってぇええええええええええ!」

 こいつ、久しぶりに噛みついてきやがった。
 仙人パワーで振り払おうとしてみるが、一向に離れやしねえ。

 ――って、そんなこんなしている内に、崖も半分以上くだってしまった!
 さっきまで下を飛んでいたはずのファイアドラゴンたちがはるか上空にいるぞ。

「チッ! 仕方ねえな。おいアンデルス、手を出せ」

「はい!」

 セシリアが噛みついていない方の手で、大人しく落下し続けていた前魔王の手を握る。
 ちなみに魔導書は、セシリアに持たせておいた。(どうせ顎しか使っていないから、手も働かせてやる)
 ……にしても、男同士で手を取り合うって、なんかやだな~。

「言うとる場合か。さっさとやれ」

 右手に食いついたまま、セシリアが器用にしゃべる。
 ほんと、どうやってんだかな。
 まあ、いいや。
 そんじゃ、いくか!

「あらよっと!」

 まるで地面からジャンプするように、空中を蹴る。
 今の俺は、自然と一体化しているのと同じ。
 当然、空気だって俺の味方、いわば仲間だ。

「末は空気か背景か……」

「黙れ、クソ邪神」

 誰が空気だ。
 使い過ぎなきゃ大丈夫って、この魔導書にも書いてあるだろうが。
 まだ大丈夫なはずだ。
 ……多分。……きっと。

 ともあれ、味方である空気が俺の足を受け止めてくれる。
 よって、オレは地面にいる時と同じ感覚で宙を蹴り、

 ――ドンッ!

 空中を上へ向かって疾走した。
 まあ、有り体に言えばエアウォークですよ。
 思い付きでやってみたんだが、割と上手くいったな。

「ヨシマサ選手、チームメイトを連れて空中を駆ける! 素晴らしい魔法スキルです! ――雑魚が調子に乗りやがって。大人しく墜落してろや、クズが……」

「このレベルの魔法はなかなか見られません。私も長年解説をやっていますが、これほどの魔法を見るのは久しぶりです。彼は十分に一流の魔法使いと呼べるでしょう。――まあ、私内哺乳類ランキングにおいてはダントツの底辺ですが」

「お前らもいい加減にしやがれ!」

 一言しゃべる度に俺へ悪態つかなきゃいけない呪いにでもかかっているのか、あの司会と解説。
 つうか、さっきから俺への一挙手一投足を批判しているだけで、ほかのチームのことは何も見てねえだろ。
 ちゃんと他のチームの方も見てやれや!

「誰だよ、こんなの司会と解説に抜擢したやつ。完全に人選ミスだろう」

「わらわとしては、とても愉快痛快な感じなのじゃがな。後でサインでももらおうかのう」

「だったらお前にしつけて、ヤツらにプレゼントしてやるよ。大事にしてもらえ」

「貴様、パートナーに向かってなんとひどいことを……。むしろお主がわらわを大事にせよ! 毎日お供え物のお菓子を作るとか!!」

「てめえに俺を非難する資格はねえ! そこらの木にでもかじりついて樹液吸ってろ」 

「だったら貴様の腕にかじりついて、血を吸い取ってやるわ!」

 前魔王が「あ、だったら僕がセシリアもらうよ!」とか言って手を挙げていたが、今は無視だ。
 ここは目の前のセシリアターゲットへ集中するのが大切だ。
 一瞬でも隙を見せたら、何をするかわからんからな。

 バチバチ火花を散らす俺とセシリア。
 こうして俺たちの『ドラゴンハント』は、競技と全く関係ない方向へ白熱していくのだった。

 まあ、いつものことだな。
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