残念魔王とロリ邪神は移動図書館で異世界を巡る

日野 祐希

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ルール説明です

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 今回の競技の模様は、魔法を使用しウルス村の方でも妙な水晶球を通して中継(?)される。村の連中や集まった観光客は、そうやって安全圏から競技を楽しむというわけだ。
 便利だな、魔法。
 そして、できることならオレも観戦側に回りたい。

「さて、今回初出場の方もいらっしゃるので、軽くルール説明です。この競技、ルールはいたってシンプル。まず、みなさんにはスタート同時に、この崖から飛び降りていただきます。そして、崖やドラゴンの背を移動しながら、『これは!』というドラゴンを一匹だけ地面に叩き落してください。複数のドラゴンを叩き落とすと失格ですから、注意してくださいね。なお、当然ですが一番大きいドラゴンを叩き落としたチームが優勝です!」

 司会者が意気揚々とルール説明をする。
 そう。
 これが俺が逃げ出したかった主な理由。
 俺たち、今からこのスカイツリー級の崖を飛び降りて、ドラゴンたちの中に飛びこまねばならんのです。
 ちなみに、当然ながら紐なしバンジー……。(紐なんかつけていたら移動の邪魔になるだけでなく、宙吊り状態で格好の餌になってしまうらしい)
 なのに着地は各自の裁量という欠陥競技なのだ。

 ホント誰だよ、このルール考えたやつ。
 頭の中トチ狂ってんじゃないか。

 なお、ドラゴンを落とせばいいだけなら、飛び下りることなくドラゴンを攻撃する手段だっていろいろある。
 ただし、この競技にはそれを封じる制限ルールがあり……。

「ここで一つ注意事項です。この競技では弓や放出系魔法といった飛び道具の類は一切使用禁止です。必ず直接攻撃でドラゴンをK.O.してください! 以上を守れば、他に魔法や武器の使用制限は設けません。炎や雷を宿した拳でぶん殴ろうが、剣や槍で切りかかろうが、お好きにどうぞ。ただし、生半可な武器ではファイアドラゴンの鱗に弾かれるだけなので、ご注意を!」

 そう。
 つまり、先日セシリアが言っていたような、悪魔さんを召喚して倒してもらうということはできない。
 最低一人は飛び降りて、直接ドラゴンを殴りに行かなければならないわけだ。
 なお、誰も飛び降りなかった場合はチーム全体が棄権と見なされて、例の呪いが降りかかることとなる。
 ホント、ルールくらい調べとけや、ものぐさ邪神。(←般若の面)

 こんなクソルールのくせに、今まで一人の死者も棄権者(=呪いを受けた人間)も出ていないというのだから、『この村本当にどうなってんの?』って感じだわ。
 マジで人外魔境の村だな、ここ。
 さすがはあの勇者を生んだ村。
 甘いフェイスのイケメン・美女だけじゃなくて、トンデモ人間も量産しているらしい。

「なお、去年の優勝記録はチーム・フライパン食堂が叩き落とした体長30mです。今年はそれ以上の記録が出ることを祈っております。――では、ルール説明は以上です。競技は15分後にスタートしますので、選手のみなさんは準備をお願いいたします!」

 ルール説明を終えて、司会が一度引っこむ。
 ここからは各チーム、最後の作戦会議の時間だ。
 参加チームがそれぞれ集まって、どうやってドラゴンを狩るか確認し合っている。

 無論、それはオレ達も同様だ。
 俺とセシリアと前魔王は三人で円陣を組み、どうやってこの競技に臨むか話し合った。(←前日までに意見がまとまらなかった)

 この競技は、どんな手段を使ってもいいのでドラゴンを叩き落とせというシンプルなもの。
 実は全員で飛び降りる必要もない。大きいドラゴンを見つけるための観測手を残すチームだって中にはいる。(だからセシリアも参加に踏み切ったわけだが……)
 というわけなので……。

「よし! では今回のハント、わらわが上で観測し、お主ら二人で飛び降り――」

「三人でいっしょに飛ぼうな♪」 

 予想通りの反応を示したセシリアの意見をまず封殺する。
 この大会、本来であれば、責任を取らせる意味でセシリアを放り投げて俺は上から観戦と言うのがベストの選択だ。
 ただ、それをやって万が一セシリアが食われちまったりすると、俺の今後の生活が立ち行かなくなる。
 よって、こいつ一人を飛ばせる案はない。
 同時に、前魔王もつけて二人で飛ばせるというのも却下だ。
 このおとぼけ前魔王じゃ、餌が一人から二人になるのがオチだ。
 あと、そうなったら俺も村の連中からドラゴンの餌にされかねん。

 というわけで、不本意ながら三人いっしょに飛んで、俺が魔王仙人モードで適当に一匹叩き落すのがベストの選択となる。

 ――あ? だったら、素直に俺一人で飛び降りればいいって?

 ハハハ!
 それは無理だ。
 なぜなら……。

「あん? なぜわらわが飛び降りねばならんのじゃ。それではお主のかっこ悪い姿を特等席で観戦できないではないか」

「そんなに見たいなら、本当の特等席で見せてやる。――ドラゴンの背中でな」

 こんなことを素で言っているヤツの案を通したくない。
 それ以前に、俺、こいつから10m以上離れたら魔王仙人モードも使えなくなるしな。
 少なくともこいつにはいっしょに来てもらわなきゃならん。

「そんな反則チートモード使ったら、競技が面白くなくなってしまうじゃろうが。たまには一人で戦ってみよ。そして醜態をさらせ」

「その言葉、そっくりそのままお前に返すわ」

 人を巻き込むだけ巻き込んで、いつも自分は高みの見物。
 たまには自分でトラブル対処しやがれってんだ。
 つか、観戦って言っている段階で、観測さえ放棄してんじゃん。
 あんまり調子乗ってると、一人脱走って申告するぞ、ゴルァ。

「ハッ! わらわのようなか弱い美少女が、ファイアドラゴンに勝てるわけなかろうが。少しは頭使って考え事をせよ。バーカ、バーカ! ――けぺ!」

 うるさい上に小バカにした表情がムカついたので、昔怪しい「アル」語尾のじいさんに習った古武術で気絶させてみた。
 バカめ、油断したなセシリア。
 これで次に目を覚ました時はお空の上だ。
 最高の一時を提供してやるから、覚悟しておけ。(←バカ扱いされた恨み)

 まあ、前魔王については大人しく残ってもらってもいいのだがな。
 こいつなら真面目に観測しそうだし。
 ただ……。

「そうだね。みんなで頑張ろう!」

 と、なぜかやる気満々なので止めないことにした。
 こいつ頑丈だし、とりあえず食われなければ死ぬこともないだろう。それにもしかしたら、何かしらの役に立つかもしれないしな。囮とか。(←セシリアのことをとやかく言えない図)

 ――と、その時だ。

「はい! 15分経過しました。競技を始めますので、各チーム、開始位置に移動してください」

 司会者が、拡声魔法で全チームに呼びかけてきた。
 正直、今すぐ帰りたいが仕方ない。
 腹をくくって、行くとするか。

「んじゃ、行くか。アンデルス、準備はいいか?」

「もちろん!」

 やる気たっぷりで前魔王が頷く。
 俺も頷き返し、気絶したままのセシリアを担いだ。

「チーム・セシリアと愉快な仲間たち、出陣だ!」

「おー!」

 とりあえず一発ときの声を上げ、俺たちはスタート地点へと向かうのだった。
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