残念魔王とロリ邪神は移動図書館で異世界を巡る

日野 祐希

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とりあえず全力で謝っといた。

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「そもそも僕たちは、魔王軍と戦う気なんて、これっぽっちもなかったんだよ。魔王軍は知性あるモンスターや魔族を束ねてくれる、貴重な組織だったからね。そんな有用な組織、好き好んで壊そうと思うわけないだろう?」

 さも当然と言わんばかりに首を傾げる勇者殿。
 いや、まあ、言われてみれば、その通り……なのか?
 魔王アンデルスの時代にどんな統治をしていたのか知らんから、何とも言いようがないんだが……。

「あれ? じゃあ、なんで全面戦争なんてしたんだ。結果的にお前ら、魔王軍を壊滅にまで追い込んだんだろう?」

「いや、僕らは戦争するつもりなんて、これっぽっちもなかったんだけど……。アリオス王国国王の名で同盟を持ちかける親書を出して、その答えを聞きに行こうと思ったら……なんか攻撃されちゃって」

「…………。……ほうほう」

「それで仕方ないから、フレアたちにモンスターをなだめてもらっている内に、僕が直接魔王城に行くことになったんだ。そしたら、さらに勘違いされて魔王から攻撃を受けて……。慌てて跳ね返したら、飛び方が悪くて魔王城の方に行ってしまってね。結果、あんなことに……」

 『あんなこと』というのは、魔王がビビッて足滑らせたあげく、記憶飛ばしたってやつだな。
 なんか勇者、「僕がもうちょっとうまく立ち回れば、あんなことにはならなかったんだけど……」と反省しきりな様子だ。
 こいつ、本当にお人よしだな。さすがの俺も感動してきたぜ。

 だけどまあ……うん。
 安心しろ、勇者。
 お前、たぶん全然悪くねえよ。
 悪いとしたら……。

「おい、セシリア」

 勇者から視線を外し、隣に座るジャリの方を見る。
 速攻で目を逸らされた。

「お前から聞いていた話と、ずいぶん違うんだが。親書ってどういうことだ?」

「いや、それはその、なんというかじゃな……間違えて読む前に薪にくべてしまって……」

 目を泳がせまくって、言い訳がましく言うセシリア。
 うん、完全に嘘だな。
 大方、読んだ後で調子に乗って、「勇者など恐るるに足らず!」とか言いつつ、ちょっかい仕掛けに行ったんだろう。

「なぜわかった!」

 大きなお目々をパッチリ見開いて、セシリアが超驚いた顔で俺を見る。
 わからいでか!
 単純バカでお調子者のお前が考えていることなんて、丸わかりだっつうの!

 要するに、徹頭徹尾こちら側が悪かったってことじゃん。
 勇者たち、完全にとばっちりじゃん。
 調子に乗っていろんな人に迷惑かけた挙句、てめえらが勝手に自滅しただけじゃん!

 ホント、何やってんのお前ら?
 バカなの? 死ぬの?
 人に迷惑かけまくっといて、都合よく話盛ってんじゃねえよ、バカちんが!

 ――と、それはいい。

 こうなった以上、このジャリを叱る前に、まずやるべきことがある。
 俺は居住まいを正し、勇者の目を真正面から見つめた。

「アルフレッドよ……」

「ん? どうしたんだい、ヨシマサ。急に改まって」

「うちの馬鹿どもが思いっきり迷惑をかけて、本当にすんませんでした!」

 ええ。もうガチで謝りましたよ。これまでの人生で最も真剣に謝りました。
 俺、一応このクソガキの保護者ですし。
 俺が来る前のこととは言え、ガキの不始末は保護者の責任ですし。
 机に額こすり付け、心の中は完全に土下座ですよ。

「え? あ、いや、君に謝ってもらう必要はないんだけど……。ほら、僕にも落ち度はあったわけだし……」

 困ったように笑って、何事もなかったかのように許してくれる勇者。
 お前、本当にいいやつだな!
 イケメンでハーレム主なのに許せちまいそうだよ、俺。
 脳内『あいつ絶対許さんリスト』のトップから2位に引き下げしておくよ。(外しはしない。そして、入れ替わりでセシリアがトップだな)

 ――なんて、俺が感動の渦に飲まれていると……。

「そうじゃぞ、ヨシマサ。元はと言えば、勘違いされるようなことをしてきたこいつらが悪い。お主がそのギリギリ見られる面をテーブルに押し付けることはないぞ――ほぎゃ!」

 とりあえず無言でジャリの後頭部に手を当てて、机に叩き付けた。
 ほれ、セシリア。
 リピート、アフター、ミー。(←激おこ)

「本当にすみませんでした」

「すびばせんでじた……」

「よくできたな。偉いぞ、セシリア。いいか? どんな時も謙虚が一番だ。二度と忘れるなよ、トリ頭」

「いえっさー……」

 さすがに心のどこかで、1%くらいは自分たちが悪かったと思っていたのだろう。
 普段の生意気振りは鳴りを潜め、セシリアは存外素直に謝った。
 うん。わかればいいんだ、わかれば。

「――こいつもこう言っているので、どうか許していただきたい」

「あ……ああ。うん。ぼくらも気にしていないから、その……そろそろ放してあげてよ。ほら……セシリアの額が当たってる部分から、机もひびが入り始めているし……」

 勇者の許しも出たので、セシリアを解放してやる。
 なんか額から血が間欠泉みたいに噴き出しているが、器用な芸をするやつだ。
 まあ、こいつのことだからツバでもつけておけばすぐに治るし、気にしないようにしよう。

 ともあれ、こうして俺たち魔王軍(と言っても、今や邪神と魔王の二人だけだが……)と勇者パーティーは、遅ればせながら和平を結んだのだった。
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