33 / 113
見よ、俺の演技力!
しおりを挟む
~~回想・15分前のやり取り~~
国境警備隊に止められた俺たちは、ヴァン王国の時と同じく、万桜号から降ろされて職務質問を受けていた。
『とりあえず、名前と入国の目的を教えてもらおうか』
『フッフッフ! わらわたちに名乗れとな? よいだろう。ならば聞かせて進ぜよう。わらわたちはかの有名な魔――おぎゃーっ!』
偉そうに余計なことを言いかけたセシリアの足を、警備兵に見えないように思いっきり踏みつける。
ヴァン王国の時とまったく同じ過ちをしようとするとか、こいつは学習能力がないのか。
まったくこれだから、ポンコツロリ邪神は……。
『お、おい、どうした。大丈夫か?』
急にうずくまったセシリアを驚き半分気遣い半分で見つめる警備兵氏。
何と言うかこの人、お人好しオーラがにじみ出ているな。
ふむふむ……。
――OK。把握した。
こいつなら――言いくるめられる。(ニヤリ)
『我々は旅の何でも屋兼大道芸一座『万桜堂』をやっております、ヨシマサとセシリアと申します~。この度はヴァーナ公国で一商売したいと思いまして、やって来た次第でして。――あ、万桜というのは桜という私の故郷の木が一万本あるという意味でして、決して魔王アンデルスなどとは関係ありませんです、はい! あと、この乗り物は南部の町で出土したロストテクノロジーの産物ですのでお気になさらず!』
とりあえずセシリアは放っておいて、揉み手をしながら兵士にすり寄る。
マシンガントークで息つく暇なく捲し立てるように自己紹介をすると、警備兵氏は「あ、そ、そうか」と若干のけぞり気味に頷いた。
モテるかもと思って大学時代にかじった演劇技術が、こんなところで役に立つとはな。
何事もやっておくもんだぜ。
ともかく、よっしゃあ。
この警備兵氏は完全に俺のトークに飲まれている。
これでこっちのペースは確定。
あとはこの場から逃げるだけ。
『ところで警備兵殿、どうやら連れが急に腹の調子をおかしくした様子。彼女も性別上はい・ち・お・う女である気がする生き物ですので、このようにうずくまった姿を衆人にさらさせることは忍びない……。つきましてはすぐに医者へ見せたいと思いますので、ここを通していただけますでしょうか?』
『む……。それは……。い、いや、しかしだな……』
俺の演技入りマシンガントークに、再びしどろもどろになる警備兵殿。
なお、セシリアに対する表現に悪意がこもっているように見えるのは気のせいだ。
決して先日のカイゼル邸での一件の恨みなどではない。
心が晴れた日の青空のように澄み渡っている俺が、仕返しなんて醜いマネをするはずないからな。
と、それはさておき……。
フッ!
かかったな、愚か者め。
『ああ! 大陸一慈悲深いと聞くヴァーナ公国の兵士様が、よもやこのようないたいけな少女っぽいものに醜態をさらさせるというのか! 大陸一慈悲深いとうわさされる兵士様が!』
国境を通る人々にも聞こえるよう、最大ボリュームの声を上げる。
同僚の兵士や一般人の目が集まる中、当の警備兵氏は……。
『わ、わかった! 通っていいから、大きな声を出すのは止めろ。さっさと医者に見せてやれ!』
『おお、なんと慈悲深いお言葉。このご恩は一生忘れません。それでは、アディオス!』
うずくまったままのセシリアを抱えて、万桜号へ直行。
乗り込んだらお荷物を助手席へ適当に転がし、エンジンON。
速攻で離脱だ。
『では警備兵殿、引き続きお仕事頑張ってください! さ~よ~う~な~ら~』
狐につままれたような間抜け面の警護兵氏に手を振り、万桜号を全速力で走らせる。
フハハ!
見たか、これが新生魔王様の実力だ。
俺の手に掛かれば、小市民を演じることなどお茶の子さいさい!
何たってこちとら、本当にただの無能な小市民だからな。(←情けない……)
格の違いを思い知るがいいわ。
ハーッハッハッハ!
ともあれ、こうして俺たちは無事にヴァーナ公国へ入ることができたのだった。
~~~~回想終了~~~~
「お主に代わり名乗ろうとしたわらわの足を踏み、さらには衆人環視の前で言いたい放題言いおって……。お主、わらわに何か恨みでもあるのか!」
「いや、恨みならそれこそ星の数ほどあるけどさ……」
勝手にこの世界に召喚したこと。
モテないモテない連呼し、その上童貞呼ばわりすること。
妙なところでポンコツになってトラブル引き起こすこと。
偉そうな態度でトラブル引き起こすこと。
俺の一世一代の決心の場面で寝落ちしてたこと。
カイゼル邸で俺を見捨てた上に、余計なことばっかしてくれたこと。
etc. etc.……。
……うん。
挙げ出したらキリがないな。
つか、俺なんでいまだにこいつと旅しているのか、不思議になってくるわ。
まあ、そんなこと言っても始まらんか。
「ともかく、さっきから何度も謝っただろうが。それに、あの場面ではああするしかなかったんだ。ああでもしなきゃ、国に入るのにどれだけ拘束されることになったかわからなかっただろう?」
「むう~……。まあ、確かにそうかもしれんが……」
本当はこいつの性別云々の件(くだり)がなくても問題なかったわけだが。
あっさり騙されてくれているみたいなので黙っておこう。
「いや! やっぱり納得できん! 大体じゃな、お主はわらわに対する敬意というものが……」
「ほれ! 昨日作ったおやつの残りだ」
「わーい! ドーナツなのじゃ!」
俺が放ったドーナツを空中で咥え、早速はぐはぐし始めたロリ邪神様。
お菓子を食べて、ものすごくご満悦といった顔だ。
ハハハ!
あっさり機嫌を直しやがったな。
単純なやつめ。
持つべきものは扱いやすいポンコツ邪神だ。
「さて! んじゃ、今度こそ本当に、ヴァーナ公国へ乗り込むぜ!」
「うむ! いざ行かん、うまいものがたくさんの市場へ!」
国境警備隊に止められた俺たちは、ヴァン王国の時と同じく、万桜号から降ろされて職務質問を受けていた。
『とりあえず、名前と入国の目的を教えてもらおうか』
『フッフッフ! わらわたちに名乗れとな? よいだろう。ならば聞かせて進ぜよう。わらわたちはかの有名な魔――おぎゃーっ!』
偉そうに余計なことを言いかけたセシリアの足を、警備兵に見えないように思いっきり踏みつける。
ヴァン王国の時とまったく同じ過ちをしようとするとか、こいつは学習能力がないのか。
まったくこれだから、ポンコツロリ邪神は……。
『お、おい、どうした。大丈夫か?』
急にうずくまったセシリアを驚き半分気遣い半分で見つめる警備兵氏。
何と言うかこの人、お人好しオーラがにじみ出ているな。
ふむふむ……。
――OK。把握した。
こいつなら――言いくるめられる。(ニヤリ)
『我々は旅の何でも屋兼大道芸一座『万桜堂』をやっております、ヨシマサとセシリアと申します~。この度はヴァーナ公国で一商売したいと思いまして、やって来た次第でして。――あ、万桜というのは桜という私の故郷の木が一万本あるという意味でして、決して魔王アンデルスなどとは関係ありませんです、はい! あと、この乗り物は南部の町で出土したロストテクノロジーの産物ですのでお気になさらず!』
とりあえずセシリアは放っておいて、揉み手をしながら兵士にすり寄る。
マシンガントークで息つく暇なく捲し立てるように自己紹介をすると、警備兵氏は「あ、そ、そうか」と若干のけぞり気味に頷いた。
モテるかもと思って大学時代にかじった演劇技術が、こんなところで役に立つとはな。
何事もやっておくもんだぜ。
ともかく、よっしゃあ。
この警備兵氏は完全に俺のトークに飲まれている。
これでこっちのペースは確定。
あとはこの場から逃げるだけ。
『ところで警備兵殿、どうやら連れが急に腹の調子をおかしくした様子。彼女も性別上はい・ち・お・う女である気がする生き物ですので、このようにうずくまった姿を衆人にさらさせることは忍びない……。つきましてはすぐに医者へ見せたいと思いますので、ここを通していただけますでしょうか?』
『む……。それは……。い、いや、しかしだな……』
俺の演技入りマシンガントークに、再びしどろもどろになる警備兵殿。
なお、セシリアに対する表現に悪意がこもっているように見えるのは気のせいだ。
決して先日のカイゼル邸での一件の恨みなどではない。
心が晴れた日の青空のように澄み渡っている俺が、仕返しなんて醜いマネをするはずないからな。
と、それはさておき……。
フッ!
かかったな、愚か者め。
『ああ! 大陸一慈悲深いと聞くヴァーナ公国の兵士様が、よもやこのようないたいけな少女っぽいものに醜態をさらさせるというのか! 大陸一慈悲深いとうわさされる兵士様が!』
国境を通る人々にも聞こえるよう、最大ボリュームの声を上げる。
同僚の兵士や一般人の目が集まる中、当の警備兵氏は……。
『わ、わかった! 通っていいから、大きな声を出すのは止めろ。さっさと医者に見せてやれ!』
『おお、なんと慈悲深いお言葉。このご恩は一生忘れません。それでは、アディオス!』
うずくまったままのセシリアを抱えて、万桜号へ直行。
乗り込んだらお荷物を助手席へ適当に転がし、エンジンON。
速攻で離脱だ。
『では警備兵殿、引き続きお仕事頑張ってください! さ~よ~う~な~ら~』
狐につままれたような間抜け面の警護兵氏に手を振り、万桜号を全速力で走らせる。
フハハ!
見たか、これが新生魔王様の実力だ。
俺の手に掛かれば、小市民を演じることなどお茶の子さいさい!
何たってこちとら、本当にただの無能な小市民だからな。(←情けない……)
格の違いを思い知るがいいわ。
ハーッハッハッハ!
ともあれ、こうして俺たちは無事にヴァーナ公国へ入ることができたのだった。
~~~~回想終了~~~~
「お主に代わり名乗ろうとしたわらわの足を踏み、さらには衆人環視の前で言いたい放題言いおって……。お主、わらわに何か恨みでもあるのか!」
「いや、恨みならそれこそ星の数ほどあるけどさ……」
勝手にこの世界に召喚したこと。
モテないモテない連呼し、その上童貞呼ばわりすること。
妙なところでポンコツになってトラブル引き起こすこと。
偉そうな態度でトラブル引き起こすこと。
俺の一世一代の決心の場面で寝落ちしてたこと。
カイゼル邸で俺を見捨てた上に、余計なことばっかしてくれたこと。
etc. etc.……。
……うん。
挙げ出したらキリがないな。
つか、俺なんでいまだにこいつと旅しているのか、不思議になってくるわ。
まあ、そんなこと言っても始まらんか。
「ともかく、さっきから何度も謝っただろうが。それに、あの場面ではああするしかなかったんだ。ああでもしなきゃ、国に入るのにどれだけ拘束されることになったかわからなかっただろう?」
「むう~……。まあ、確かにそうかもしれんが……」
本当はこいつの性別云々の件(くだり)がなくても問題なかったわけだが。
あっさり騙されてくれているみたいなので黙っておこう。
「いや! やっぱり納得できん! 大体じゃな、お主はわらわに対する敬意というものが……」
「ほれ! 昨日作ったおやつの残りだ」
「わーい! ドーナツなのじゃ!」
俺が放ったドーナツを空中で咥え、早速はぐはぐし始めたロリ邪神様。
お菓子を食べて、ものすごくご満悦といった顔だ。
ハハハ!
あっさり機嫌を直しやがったな。
単純なやつめ。
持つべきものは扱いやすいポンコツ邪神だ。
「さて! んじゃ、今度こそ本当に、ヴァーナ公国へ乗り込むぜ!」
「うむ! いざ行かん、うまいものがたくさんの市場へ!」
0
お気に入りに追加
58
あなたにおすすめの小説
結婚しても別居して私は楽しくくらしたいので、どうぞ好きな女性を作ってください
シンさん
ファンタジー
サナス伯爵の娘、ニーナは隣国のアルデーテ王国の王太子との婚約が決まる。
国に行ったはいいけど、王都から程遠い別邸に放置され、1度も会いに来る事はない。
溺愛する女性がいるとの噂も!
それって最高!好きでもない男の子供をつくらなくていいかもしれないし。
それに私は、最初から別居して楽しく暮らしたかったんだから!
そんな別居願望たっぷりの伯爵令嬢と王子の恋愛ストーリー
最後まで書きあがっていますので、随時更新します。
表紙はエブリスタでBeeさんに描いて頂きました!綺麗なイラストが沢山ございます。リンク貼らせていただきました。

【完結】聖女召喚に巻き込まれたバリキャリですが、追い出されそうになったのでお金と魔獣をもらって出て行きます!
チャららA12・山もり
恋愛
二十七歳バリバリキャリアウーマンの鎌本博美(かまもとひろみ)が、交差点で後ろから背中を押された。死んだと思った博美だが、突如、異世界へ召喚される。召喚された博美が発した言葉を誤解したハロルド王子の前に、もうひとりの女性が現れた。博美の方が、聖女召喚に巻き込まれた一般人だと決めつけ、追い出されそうになる。しかし、バリキャリの博美は、そのまま追い出されることを拒否し、彼らに慰謝料を要求する。
お金を受け取るまで、博美は屋敷で暮らすことになり、数々の騒動に巻き込まれながら地下で暮らす魔獣と交流を深めていく。

騎士志望のご令息は暗躍がお得意
月野槐樹
ファンタジー
王弟で辺境伯である父を保つマーカスは、辺境の田舎育ちのマイペースな次男坊。
剣の腕は、かつて「魔王」とまで言われた父や父似の兄に比べれば平凡と自認していて、剣より魔法が大好き。戦う時は武力より、どちらというと裏工作?
だけど、ちょっとした気まぐれで騎士を目指してみました。
典型的な「騎士」とは違うかもしれないけど、護る時は全力です。
従者のジョセフィンと駆け抜ける青春学園騎士物語。

ボッチの少女は、精霊の加護をもらいました
星名 七緒
ファンタジー
身寄りのない少女が、異世界に飛ばされてしまいます。異世界でいろいろな人と出会い、料理を通して交流していくお話です。異世界で幸せを探して、がんばって生きていきます。

異世界でのんびり暮らしたい!?
日向墨虎
ファンタジー
前世は孫もいるおばちゃんが剣と魔法の異世界に転生した。しかも男の子。侯爵家の三男として成長していく。家族や周りの人たちが大好きでとても大切に思っている。家族も彼を溺愛している。なんにでも興味を持ち、改造したり創造したり、貴族社会の陰謀や事件に巻き込まれたりとやたらと忙しい。学校で仲間ができたり、冒険したりと本人はゆっくり暮らしたいのに・・・無理なのかなぁ?
もう私、好きなようにさせていただきますね? 〜とりあえず、元婚約者はコテンパン〜
野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「婚約破棄ですね、はいどうぞ」
婚約者から、婚約破棄を言い渡されたので、そういう対応を致しました。
もう面倒だし、食い下がる事も辞めたのですが、まぁ家族が許してくれたから全ては大団円ですね。
……え? いまさら何ですか? 殿下。
そんな虫のいいお話に、まさか私が「はい分かりました」と頷くとは思っていませんよね?
もう私の、使い潰されるだけの生活からは解放されたのです。
だって私はもう貴方の婚約者ではありませんから。
これはそうやって、自らが得た自由の為に戦う令嬢の物語。
※本作はそれぞれ違うタイプのざまぁをお届けする、『野菜の夏休みざまぁ』作品、4作の内の1作です。
他作品は検索画面で『野菜の夏休みざまぁ』と打つとヒット致します。

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!
桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。
「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。
異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。
初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!

『聖女』の覚醒
いぬい たすく
ファンタジー
その国は聖女の結界に守られ、魔物の脅威とも戦火とも無縁だった。
安寧と繁栄の中で人々はそれを当然のことと思うようになる。
王太子ベルナルドは婚約者である聖女クロエを疎んじ、衆人環視の中で婚約破棄を宣言しようともくろんでいた。
※序盤は主人公がほぼ不在。複数の人物の視点で物語が進行します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる