12 / 113
ご依頼はなんでしょうか。
しおりを挟む
「ほうほう。作物の収穫を手伝ってくれ……ですか」
目の前の山のように盛られたスパゲッティっぽい食べ物をフォークで巻き巻きしながら、じいさんの依頼を復唱する。
するとじいさんは、俺以上に麺を巻き巻きしながら頷いた。
「その通りですじゃ。もぐもぐ。実は儂、ここから三日日ほど北へ行ったスコット村という村の村長の弟でしてな。もぐもぐ。今は穀物の収穫時期なのですが、人手が足りなくて困っていると泣きつかれておりますのじゃ。もぐもぐ」
立派な白い髭にソースをべったりつけながら、じいさんが言う。
どうでもいいがじいさんよ、あんた、おごりだと思ってまったく遠慮しねえな。
隣で孫――例の美少女町娘ちゃんのことだ――がハラハラしてるぞ。
「もぐもぐ……。ですが、儂もこの体たらく。腕は枯れ枝のようで腰痛もひどい。おかげで食も細くなって、とてもじゃないが手伝いに行けそうにないのですじゃ」
いや、そんだけの食欲があれば十分じゃないでしょうか。
つうか、パスタを思いっきりびよーんと伸ばして、腰思いっきりピーンとなっていますが。
パスタを一キログラム近く高速巻き巻きしてもビクともしない頑丈な腕をお持ちのように見えますが。
じいさん、十分戦力になると思いますよ。
今すぐお兄さんのところへ駆けつけてあげたらどうですか?
「で、とりあえずこのナーシアを手伝いとして向かわせることにしたわけですが……。もぐもぐ。それでも人手は足りない上、年頃の娘一人での旅は危険がともないますでな。護衛も兼ねて、何でも屋さんに同行していただきたいのですじゃ。もぐもぐ」
何でも屋さんは魔法も達者でいらっしゃるようなので、人出としても百人力ですしな~、もぐもぐ……と、じいさん。
ほうほう。
まあ作物の収穫の方はどうでも良いとして、つまりこの仕事を受けたら、ナーシアさんと旅ができると!
それは俺にとってビックチャンスなのでは?
共に旅する男女。危険と隣り合わせの中で育まれる愛……。
――いける!
「よいのか、御老人。この男と旅など、お孫さんに危険を張り付かせておくようなものじゃぞ」
黙れロリ邪神。
あと、そのジト目は止めろ。
俺が何をしたというのだ。何かするのはこれからだ。
「そこは大丈夫ですじゃ。もぐもぐ。こんな見た目ですが、この子は各種武術のたしなみがありますからのう」
「昨年、ヴァン王国の武術大会で優勝しました。てへっ♪」
恥ずかしそうにほっぺたに手を当ててはにかむナーシアさん。
「と、このようにキングベア(←大きな熊型のモンスター。普通の人間なら頭からおいしくいただかれる)くらいなら一撃で屠ることができます。龍種ともなるとさすがに若干てこずりますが、暴漢数人くらいなら目じゃありませんですじゃ。もぐもぐ」
……………………。
ガクガクブルブル……。
やっべー、震えが止まんねえ。
俺、今までどんだけ危ない橋渡ってたんだよ。
よく生きてたな、俺。
「どうしたのじゃ、武者震いか」
ニヤリと笑って俺を見上げるセシリア。
ちくしょう。
こいつ、わかっていて聞いてきやがる。
つうか、じいさんよ。
その子、護衛なんて要らないじゃないですか。
むしろ、俺たちが守ってもらう側じゃないですかね、それ。
「ま、まあ、話はわかりました。――で、依頼料のお話なのですけど……」
なんか恋が急速に終わってしまった気がしたので、話を仕事に戻す。
フッ……。
やはり男は女よりも仕事だぜ。仕事こそ我が人生。
決して負け惜しみじゃないぞ。
「おうおう、かっこつけおってからに」
いちいちうるせえよ、ポンコツ邪神。
俺の顔色から心読むなと何度言えばわかる。
「依頼料なのですが、儂が用意できるのはこのくらいが精一杯なのですじゃ。もぐもぐ」
じいさんが小さな巾着袋を取り出す。
中を改めさせてもらったら、1000ゴルドってところか。
今の一回の公演で稼げる金額の3~4倍くらいって感じだな。
正直、何でも屋の相場ってもんはわからんが、今の俺たちにとってはなかなかの大金。即断で受けてしまいたいところではある。
ただ……。
「あと、村に滞在する期間の食事はすべて用意するように伝えますじゃ。どうか引き受けてもらえんですじゃろか。もぐもぐ」
「うーん……」
悩む俺。
今はパフォーマンスでうまく稼げているからな。ここを離れるのは避けたいというのが本音。
一度ここを離れて、次戻って来た時に同じように稼げる保証はないからな。
でも、せっかくの何でも屋の客第一号だ。何とかしてやりたいという思いもある。
さてはて、どうしたものか……。
――と、その時だ。
「うむ、よかろう。その依頼、わらわたちが引き受けようぞ」
セシリアがニパァと笑って依頼を受けちまった。
そういやこいつ、ここに飽きたとか言っていたしな。
渡りに船が付いたとか、そんな風に思ったんだろう。
「おお、受けてくださいますか。ありがたや、ありがたや~。もぐもぐ」
じいさんもうれしそうにセシリアを拝み始めちまった。
こりゃもう、引っこみ付かねえな。
――あと、じいさん。いい加減、食うのやめろ。俺たちの分がなくなっているじゃないか。
まあ、仕方ない。
セシリアもワクワクした顔してるし、ここは保護者として付き合ってやるとしますか。
正直に言えば、俺もこの世界をもっと見てみたいしな。
んじゃ、そういうことで――。
「はあ……。まあ、乗り掛かった舟だからな。――この依頼、何でも屋『万桜堂』がきっちりと承りました」
「おお、ありがとうございます。では、出発は明後日の朝ということでお願いしますじゃ」
「ありがとうございます、お二人とも。道中、どうぞよろしくお願いいたします」
じいさんとナーシアさんが揃って頭を下げる。
改まって頼まれると、なんかこう、照れくさいものがあるな。
何はともあれ、これで何でも屋『万桜堂』も本格始動ってわけだ。
張り切って仕事をこなすとしますか!
目の前の山のように盛られたスパゲッティっぽい食べ物をフォークで巻き巻きしながら、じいさんの依頼を復唱する。
するとじいさんは、俺以上に麺を巻き巻きしながら頷いた。
「その通りですじゃ。もぐもぐ。実は儂、ここから三日日ほど北へ行ったスコット村という村の村長の弟でしてな。もぐもぐ。今は穀物の収穫時期なのですが、人手が足りなくて困っていると泣きつかれておりますのじゃ。もぐもぐ」
立派な白い髭にソースをべったりつけながら、じいさんが言う。
どうでもいいがじいさんよ、あんた、おごりだと思ってまったく遠慮しねえな。
隣で孫――例の美少女町娘ちゃんのことだ――がハラハラしてるぞ。
「もぐもぐ……。ですが、儂もこの体たらく。腕は枯れ枝のようで腰痛もひどい。おかげで食も細くなって、とてもじゃないが手伝いに行けそうにないのですじゃ」
いや、そんだけの食欲があれば十分じゃないでしょうか。
つうか、パスタを思いっきりびよーんと伸ばして、腰思いっきりピーンとなっていますが。
パスタを一キログラム近く高速巻き巻きしてもビクともしない頑丈な腕をお持ちのように見えますが。
じいさん、十分戦力になると思いますよ。
今すぐお兄さんのところへ駆けつけてあげたらどうですか?
「で、とりあえずこのナーシアを手伝いとして向かわせることにしたわけですが……。もぐもぐ。それでも人手は足りない上、年頃の娘一人での旅は危険がともないますでな。護衛も兼ねて、何でも屋さんに同行していただきたいのですじゃ。もぐもぐ」
何でも屋さんは魔法も達者でいらっしゃるようなので、人出としても百人力ですしな~、もぐもぐ……と、じいさん。
ほうほう。
まあ作物の収穫の方はどうでも良いとして、つまりこの仕事を受けたら、ナーシアさんと旅ができると!
それは俺にとってビックチャンスなのでは?
共に旅する男女。危険と隣り合わせの中で育まれる愛……。
――いける!
「よいのか、御老人。この男と旅など、お孫さんに危険を張り付かせておくようなものじゃぞ」
黙れロリ邪神。
あと、そのジト目は止めろ。
俺が何をしたというのだ。何かするのはこれからだ。
「そこは大丈夫ですじゃ。もぐもぐ。こんな見た目ですが、この子は各種武術のたしなみがありますからのう」
「昨年、ヴァン王国の武術大会で優勝しました。てへっ♪」
恥ずかしそうにほっぺたに手を当ててはにかむナーシアさん。
「と、このようにキングベア(←大きな熊型のモンスター。普通の人間なら頭からおいしくいただかれる)くらいなら一撃で屠ることができます。龍種ともなるとさすがに若干てこずりますが、暴漢数人くらいなら目じゃありませんですじゃ。もぐもぐ」
……………………。
ガクガクブルブル……。
やっべー、震えが止まんねえ。
俺、今までどんだけ危ない橋渡ってたんだよ。
よく生きてたな、俺。
「どうしたのじゃ、武者震いか」
ニヤリと笑って俺を見上げるセシリア。
ちくしょう。
こいつ、わかっていて聞いてきやがる。
つうか、じいさんよ。
その子、護衛なんて要らないじゃないですか。
むしろ、俺たちが守ってもらう側じゃないですかね、それ。
「ま、まあ、話はわかりました。――で、依頼料のお話なのですけど……」
なんか恋が急速に終わってしまった気がしたので、話を仕事に戻す。
フッ……。
やはり男は女よりも仕事だぜ。仕事こそ我が人生。
決して負け惜しみじゃないぞ。
「おうおう、かっこつけおってからに」
いちいちうるせえよ、ポンコツ邪神。
俺の顔色から心読むなと何度言えばわかる。
「依頼料なのですが、儂が用意できるのはこのくらいが精一杯なのですじゃ。もぐもぐ」
じいさんが小さな巾着袋を取り出す。
中を改めさせてもらったら、1000ゴルドってところか。
今の一回の公演で稼げる金額の3~4倍くらいって感じだな。
正直、何でも屋の相場ってもんはわからんが、今の俺たちにとってはなかなかの大金。即断で受けてしまいたいところではある。
ただ……。
「あと、村に滞在する期間の食事はすべて用意するように伝えますじゃ。どうか引き受けてもらえんですじゃろか。もぐもぐ」
「うーん……」
悩む俺。
今はパフォーマンスでうまく稼げているからな。ここを離れるのは避けたいというのが本音。
一度ここを離れて、次戻って来た時に同じように稼げる保証はないからな。
でも、せっかくの何でも屋の客第一号だ。何とかしてやりたいという思いもある。
さてはて、どうしたものか……。
――と、その時だ。
「うむ、よかろう。その依頼、わらわたちが引き受けようぞ」
セシリアがニパァと笑って依頼を受けちまった。
そういやこいつ、ここに飽きたとか言っていたしな。
渡りに船が付いたとか、そんな風に思ったんだろう。
「おお、受けてくださいますか。ありがたや、ありがたや~。もぐもぐ」
じいさんもうれしそうにセシリアを拝み始めちまった。
こりゃもう、引っこみ付かねえな。
――あと、じいさん。いい加減、食うのやめろ。俺たちの分がなくなっているじゃないか。
まあ、仕方ない。
セシリアもワクワクした顔してるし、ここは保護者として付き合ってやるとしますか。
正直に言えば、俺もこの世界をもっと見てみたいしな。
んじゃ、そういうことで――。
「はあ……。まあ、乗り掛かった舟だからな。――この依頼、何でも屋『万桜堂』がきっちりと承りました」
「おお、ありがとうございます。では、出発は明後日の朝ということでお願いしますじゃ」
「ありがとうございます、お二人とも。道中、どうぞよろしくお願いいたします」
じいさんとナーシアさんが揃って頭を下げる。
改まって頼まれると、なんかこう、照れくさいものがあるな。
何はともあれ、これで何でも屋『万桜堂』も本格始動ってわけだ。
張り切って仕事をこなすとしますか!
0
お気に入りに追加
58
あなたにおすすめの小説

親友と婚約者に裏切られ仕事も家も失い自暴自棄になって放置されたダンジョンで暮らしてみたら可愛らしいモンスターと快適な暮らしが待ってました
空地大乃
ファンタジー
ダンジョンが当たり前になった世界。風間は平凡な会社員として日々を暮らしていたが、ある日見に覚えのないミスを犯し会社をクビになってしまう。その上親友だった男も彼女を奪われ婚約破棄までされてしまった。世の中が嫌になった風間は自暴自棄になり山に向かうがそこで誰からも見捨てられた放置ダンジョンを見つけてしまう。どことなく親近感を覚えた風間はダンジョンで暮らしてみることにするが、そこにはとても可愛らしいモンスターが隠れ住んでいた。ひょんなことでモンスターに懐かれた風間は様々なモンスターと暮らしダンジョン内でのスローライフを満喫していくことになるのだった。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。
大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった!
でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、
他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう!
主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!?
はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!?
いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。
色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。
*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
*カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。
異世界転生雑学無双譚 〜転生したのにスキルとか貰えなかったのですが〜
芍薬甘草湯
ファンタジー
エドガーはマルディア王国王都の五爵家の三男坊。幼い頃から神童天才と評されていたが七歳で前世の知識に目覚め、図書館に引き篭もる事に。
そして時は流れて十二歳になったエドガー。祝福の儀にてスキルを得られなかったエドガーは流刑者の村へ追放となるのだった。
【カクヨムにも投稿してます】

人生初めての旅先が異世界でした!? ~ 元の世界へ帰る方法探して異世界めぐり、家に帰るまでが旅行です。~(仮)
葵セナ
ファンタジー
主人公 39歳フリーターが、初めての旅行に行こうと家を出たら何故か森の中?
管理神(神様)のミスで、異世界転移し見知らぬ森の中に…
不思議と持っていた一枚の紙を読み、元の世界に帰る方法を探して、異世界での冒険の始まり。
曖昧で、都合の良い魔法とスキルでを使い、異世界での冒険旅行? いったいどうなる!
ありがちな異世界物語と思いますが、暖かい目で見てやってください。
初めての作品なので誤字 脱字などおかしな所が出て来るかと思いますが、御容赦ください。(気が付けば修正していきます。)
ステータスも何処かで見たことあるような、似たり寄ったりの表示になっているかと思いますがどうか御容赦ください。よろしくお願いします。
冤罪で殺された聖女、生まれ変わって自由に生きる
みおな
恋愛
聖女。
女神から選ばれし、世界にたった一人の存在。
本来なら、誰からも尊ばれ大切に扱われる存在である聖女ルディアは、婚約者である王太子から冤罪をかけられ処刑されてしまう。
愛し子の死に、女神はルディアの時間を巻き戻す。
記憶を持ったまま聖女認定の前に戻ったルディアは、聖女にならず自由に生きる道を選択する。
こわいかおの獣人騎士が、仕事大好きトリマーに秒で堕とされた結果
てへぺろ
恋愛
仕事大好きトリマーである黒木優子(クロキ)が召喚されたのは、毛並みの手入れが行き届いていない、犬系獣人たちの国だった。
とりあえず、護衛兼監視役として来たのは、ハスキー系獣人であるルーサー。不機嫌そうににらんでくるものの、ハスキー大好きなクロキにはそんなの関係なかった。
「とりあえずブラッシングさせてくれません?」
毎日、獣人たちのお手入れに精を出しては、ルーサーを(犬的に)愛でる日々。
そのうち、ルーサーはクロキを女性として意識するようになるものの、クロキは彼を犬としかみていなくて……。
※獣人のケモ度が高い世界での恋愛話ですが、ケモナー向けではないです。ズーフィリア向けでもないです。
中途半端な俺が異世界で全部覚えました
黒田さん信者
ファンタジー
「中途半端でも勝てるんだぜ、努力さえすればな」
才能無しの烙印を持つ主人公、ネリアがひょんな事で手に入れた異世界を巡れる魔導書で、各異世界で修行をする! 魔法、魔術、魔技、オーラ、気、などの力を得るために。他にも存在する異世界の力を手に入れ、才能なしの最強を目指す!
「あいにく俺は究極の一を持ち合わせてないもんでな、だから最強の百で対抗させてもらうぜ!」
世界と世界を超える超異世界ファンタジー!

スマートシステムで異世界革命
小川悟
ファンタジー
/// 毎日19時に投稿する予定です。 ///
★☆★ システム開発の天才!異世界転移して魔法陣構築で生産チート! ★☆★
新道亘《シンドウアタル》は、自分でも気が付かないうちにボッチ人生を歩み始めていた。
それならボッチ卒業の為に、現実世界のしがらみを全て捨て、新たな人生を歩もうとしたら、異世界女神と事故で現実世界のすべてを捨て、やり直すことになってしまった。
異世界に行くために、新たなスキルを神々と作ったら、とんでもなく生産チートなスキルが出来上がる。
スマフォのような便利なスキルで異世界に生産革命を起こします!
序章(全5話)異世界転移までの神々とのお話しです
第1章(全12話+1話)転生した場所での検証と訓練
第2章(全13話+1話)滞在先の街と出会い
第3章(全44話+4話)遺産活用と結婚
第4章(全17話)ダンジョン探索
第5章(執筆中)公的ギルド?
※第3章以降は少し内容が過激になってきます。
上記はあくまで予定です。
カクヨムでも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる