白紙の本の物語

日野 祐希

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第八章 新たな英雄

また会おう

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「ええと、ぼくたちの話、信じてくれるの?」

「当然だろ。まあ、確か途方もない話だけど、お前たちがそう言うなら信じるさ」

 とまどいながら聞く総司に、カイがあっけらかんと答えた。
 いつもと変わらない調子のカイに、総司と葵は目を白黒させる。
 するとカイは、戸惑う二人へ自分の思うところをありのままに告げた。

「いいか? 例えこの世界の誰もがお前たちの話を信じなかったとしても、オレは信じる。共に戦い、共に笑った仲間の言葉を疑ったりしない。――みんなもそうだろ!」

 ニカッと笑ったカイが、ヘンリーたちの方をふり返った。

「ああ、カイの言う通りだ。それに、どこから来た人であろうとも、君たちがいい子であることに変わりないよ」

「短いつき合いとはいえ、私もお前たちの人柄はよくわかっているつもりだ。お前たちの目を見れば、先ほどの話が真実であるとすぐにわかるさ。疑うわけがない」

「ええ。あなた方がそう言うのであれば、それがきっと真実なのでしょう」

 ヘンリー、アルバス、メアリが迷いなく肯定する。みんなの信頼から出る言葉に、総司と葵は胸がジーンと温かくなった。

「ありがとう、みんな。ぼくたちの話を信じてくれて。それと、今まで黙っていてごめん」

「あはは、そんなこと気にするなよ」

 あやまる総司を、カイが笑って許す。
 文字通り、まったく気にしていないのだろう。まったくもってカイらしい。

「でも、何でいきなりそのことを話す気になったんだ?」

「バラムを倒したことで、ぼくたちがこの世界にいる理由はなくなった。だからぼくたちは、もう元の世界に帰るんだ」

「それで、昨日の夜にソージと話し合ったの。みんなに本当のことを話そうって。そして、ちゃんとみんなにお礼とお別れを言おうって」

 突然のお別れ。今日ここに呼ばれた理由を知り、カイたちが息を飲む。
 みんなが言葉をなくす中、総司はヘンリーの方を見た。

「ヘンリーさん、ぼくたちのことを温かく迎えてくれてありがとうございました。ヘンリーさんが作ってくれたスープの味、一生忘れません」

「いやいや、わしも楽しかったよ。君たちが来てから家がにぎやかになって、久しぶりに充実した日々だった。ありがとう、二人とも。元気でな」

 ヘンリーはこれまでの日々をなつかしむように、しわだらけの顔をほころばせる。
 続いて、今度は葵がメアリとアルバスの方を向いた。

「メアリさん、アルバスさん、お世話になりました。お二人のおかげで、わたしたちは今回の事件の真実にたどり着くことができました」

「いいえ。お世話になったのは、私たちの方です。あなた方には、どれだけ感謝しても足りません。本当にありがとうございました」

「アオイ、ソウジ……。お前たちがいなければ、私は今も他人を頼ることができずにいただろう。お前たちとの出会いで、私も変わることができた。ありがとう」

 メアリとアルバスは別れを惜しむ様子で、改めて二人に感謝の言葉を述べる。
 そして、総司と葵はそろって、カイとアイリスへと向き直った。

「ぼく、カイと友達になれて、本当にうれしかった。この世界で最初に会えたのがカイで、本当に良かった」

「オレもだ。旅に出る時、『いっしょに行く』って言ってもらえて、それに『大切な友達だ』って言ってもらえて、すげぇうれしかった」

 カイと総司がしっかりと握手をする。
 その横では、今にも泣き出しそうなアイリスが葵に抱きついていた。葵も、そんなアイリスの頭をやさしくなでている。

「アイリスもありがとう。本当はもっとたくさんの話ししたかったけど、残念……。村のみんなと仲良くね」

「はい……。アオイさんもお元気で……」

「うん、ありがとう。アイリス、大好きだよ」

 最後にギュッと抱きしめ、葵がアイリスから離れる。
 それぞれへの別れも済み、総司と葵が改めてその場にいるみんなを見回した。

「ぼく、この世界に来られて、本当によかった。みんなと出会えて、色んな冒険をして、大変だったけど、すごく楽しかった」

「わたしも! 怖いこともあったけど、みんなと出会えて、みんなといっしょに笑い合えて、本当にうれしかった。だから……、」

『大切な思い出をくれて、本当にありがとうございました!』

 総司と葵は目に涙をうかべながら、しかし笑顔でみんなにお礼を言う。
 すると、それに合わせたかのように、二人の体が白い光に包まれ始めた。
 元の世界に帰る時がやってきたのだ。

「色々もらったのは、オレの方だ。お前たちといっしょだったから、この国に平和を取りもどすことができた。大切なことも学べた!」

「私もお二人が助けに来てくれた時、本当にうれしかったです。もっとお二人と仲良しになって、いっぱいお話ししたかったです!」

 カイとアイリスが、光に包まれた二人へ思いの丈をぶつける。

「お前たちのこと、忘れないぜ。ソウジ、アオイ、絶対また会おうな!」

「さよならは言いません。また会えるって信じています!」

 最初に会った時と同じ人なつっこい笑顔のカイと、今にもこぼれ落ちそうな涙を必死にこらえるアイリス。対照的な表情ながら、二人とも再会を信じる言葉を送る。
 その間にも、総司とアオイを包む光は強くなっていった。

「ぼくも絶対忘れない。みんな、元気でね!」

「わたしも! みんな、きっとまた会いましょう!」

 思いは総司と葵も同じだ。二人も再会を誓う言葉をカイとアイリスに返す。
 そして、ついに時間が来たようだ。総司と葵の視界は完全に光に包まれた。
 みんな、本当にありがとう。大好きだよ。
 総司と葵が強く思ったところで、二人の意識は途切れたのだった。
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