白紙の本の物語

日野 祐希

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第八章 新たな英雄

新たな英雄

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 再会を果たした魔女の親子とアルバス、そして総司たち三人は、騎士団と共に王都へ向かった。これまでに起こったことを、国王に直接伝えるためだ。
 王都にたどり着いた一行は、休む間もなく、国王との謁見にのぞんだ。

「私がこの国にしたことは、許されることではありません。どのような罰でも受け入れる覚悟です」

「ただ見ていることしかできなかった私も同罪です。メアリと共に、いかなる罰でも受けましょう」

 年老いた国王の前でひざまずき、すべての真実を伝えたメアリとアルバス。彼女らは自らの罪を認め、審判の時を待つ。
 そのかたわらで、目に涙をためたまま国王を見つめるアイリス。
 自分のせいで家族が裁かれる辛さ。また一人になることへの恐怖……。
 国王を見つめる瞳には、すべての悲しみがつまっているように思えた。

「……そなたたちの話はわかった。では、そなたたちに罪を償うための罰を与えよう」

 国王の声が謁見の間にひびき、その場にいる全員の視線が集まる。
 ついに判決が下る。全員が声もなく見守る中、国王はおごそかにメアリたちへの罰を告げた。

「メアリ、アルバス……。そなたたちは、もう二度とアイリスの手を離してはならぬ。ずっとそばにいてやれ。――それが、そなたらに与える罰である」

 与えられた罰に驚き、顔を上げるメアリとアルバス。
 その視線の先では、国王がおだやかにほほ笑んでいた。

「しかし、それでは……」

「母が子を思うのは当然のこと。すべては仕方がないこと。そなたらは、自らの罪を心から悔いている。償いは、それだけで十分だ」

 メアリの言葉をさえぎり、国王が彼女たちをやさしく諭す。
 そして、母親と同じく目を丸くしたアイリスを見やり、愉快そうにこう言った。

「それに、アイリスはこの国を救った英雄だ。このくらいの褒美が与えても、誰も文句を言うまいて」

「ありがとうございます、国王様」

「感謝いたします」

 メアリとアルバスの感謝の言葉に、国王は笑みを深める。
 そして、国王はその場にいる者たちを見回しながら高らかに宣言した。

「この話は、これでお終いだ。今は国が救われたことと、新たな英雄の誕生を祝おうではないか。すぐに祭を行うぞ。国民達にも知らせるのだ」

『はい!』

 王の命令を受けて、大臣達が意気揚々と謁見の間を出ていく。
 ケセド王国にとって、久しぶりの明るいイベントだ。
 祭りは三日にわたって続き、国民にも久しぶりに笑顔がもどったのだった。


     * * *


 国王への謁見に祭のパレード、その他もろもろ……。カイは国を救った英雄として、たくさんの仕事をこなさねばならなかった。正に目も回るような忙しさだ。
 おかげで彼が両親のもとを訪ねることができたのは、祭りが終わって三日後のことだった。

「父さん、母さん!」

 逸る気持ちを抑え切れず、カイが王都にある両親の仮住まいへ飛びこむ。
 そんな彼を迎えたのは、ベッドの上で上半身を起こした母とその横に立つ父だった。

「いらっしゃい、カイ」

「母さん、体の方は大丈夫なのか?」

「ええ。雪もやんで、暖かくなってきたからかしら。ここ数日で、大分体が楽になってきたわ」

 ニコニコと力こぶを作ってみせる母親。
 ほほ笑む母親を前にして、カイは満面の笑顔を見せた。

「そうか。あはは、良かった……」

「王都中あなたたちの話で持ちきりよ。私もお父さんから話を聞かせてもらったわ。それに、おじいちゃんからも手紙が来た。――カイ、私のために頑張ってくれたのね。ありがとう。私はあなたの母親であることを誇りに思うわ」

 母親はカイの頭にやさしく手を置く。
 しかし、最後に「でも、もう無茶はしないようにね」と、少し心配そうに釘を刺した。

「えへへ、努力するよ。――でも、約束はできないな。だって、オレはいつかアスランを越える英雄になるんだから」

 ただし、カイは母の心配などどこ吹く風。いたずらをする時のような笑顔で、母の顔を見返す。
 その頭を、今度はカイの父親がなでた。

「ハハハ。アスランを越えるか。さすがはオレの息子だ。大きく出たな。まあ、好きなようにやってみるといいさ」

「まったく、あなたはまたそんなこと言って」

 能天気な父に、母が苦言をもらす。
 しかし、父親もカイと同様、反省した様子はない。
 その証拠に――、

「夢は大きな方がいいじゃないか。それに、カイはもう王国を救った英雄の一人だ。意外と、本当にアスランを越えてしまうかもしれないぞ」

 なんて無責任なことを言い出す始末だ。カイの無鉄砲さは、明らかに父親譲りである。
 そろいもそろってやんちゃな親子に、母親はやれやれとため息をつくのだった。

「まあいいわ。ただし、アスランを目指すのもいいけど、体を壊さないようにね。それと、おじいちゃんに迷惑をかけちゃダメよ」

「うん。わかったよ、母さん」

 いたずらっ子の笑顔をうかべたまま、カイが大きくうなずく。
 その日、久しぶりに両親と再会したカイの顔から、笑顔が消えることはなかった。
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