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第七章 決戦
バラムの弱点
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「カイ、アルバスさん! 今の内にこっちへ!」
「サンキュー、ソウジ」
手招きする総司に、カイがうなずく。
アルバスとカイはバラムの横をすり抜けて、無事に総司たちと合流した。
「アルバス!」
「アイリス、無事だったのだな……」
アイリスが、もどってきたアルバスの首に抱きつく。
元気そうなアイリスを見て、アルバスが安心した様子で目を細めた。
「ソウジ、アオイ。君たちも無事でよかった。アイリスを助けてくれて、本当にありがとう」
「ぼくはちょっと危なかったですけど……。アオイがいたおかげで、みんな無事にここまで来られました」
お礼を言うアルバスに、はずかしそうな口調で答えた総司。葵もどこか照れた様子だ。
「それよりも、ぼくたちの方こそ、間に合ってよかった」
「本当にナイスタイミングだったぜ。あいつの肌、鉄みたいにかたくてさ。じいちゃんの剣も折られちまって、お前たちが来てくれなかったら危なかった」
そう言って、カイが折れた剣を見せる。
すると、総司はすぐさま自分の長剣をカイへ差し出した。
「命が無事なら大丈夫さ。ヘンリーさんだって、剣よりカイの方が大事に決まっているよ。それに、剣ならここにもう一本ある。ぼくでは上手に使えないし、カイが使ってよ」
「おう! ありがとな、ソウジ。助かるぜ!」
総司から剣を受け取り、カイがニッコリと笑う。
「ねえ、ソージ。今まで読んだ本の中で、オーガの弱点とか見たことないの?」
「うーん……。さすがに、オーガの弱点は読んだことないよ。――だけど、ちょっと気になることはある」
腕を組んだ総司を、みんなが見つめる。総司のひらめきに、全員が期待しているのだ。
みんなを代表して、カイが総司に先をうながす。
「何だよ、気になることって」
「さっき、アオイがバラムに矢を放った時のことだよ。バラムはおおげさに驚きながら矢をよけた。だけど、カイの話によれば、バラムの肌は鉄のようにかたいはず。そんな驚くことはないはずなんだ」
総司がカイの方を見ながら言うと、葵も同意を示した。
「確かにそうよね。鉄のようにかたいなら、私の矢なんてはじいちゃうはずだし」
「うん。それでちょっと考えてみたんだけど、あの時、バラムは頭の角をかばっていた。つまり、あの角はバラムにとって、絶対守らなきゃいけない大事なものなんじゃないかな」
「なるほどな。そうなると、あの角はバラムの弱点かもしれねぇってわけだ」
カイがいたずらっ子のように笑いながら手を打つ。
対して総司も、自信あり気な顔でカイを見た。
「弱点かどうかは、ぼくもわからない。だけど、ねらってみる価値はあるはずだ」
「さすがソージ! こういう時のひらめきは、天下一品ね」
「だけど、一つ問題があるぞ。角を攻撃するなら、どうにかしてアイツの動きを止めなきゃならない」
パチパチと拍手をしながら喜ぶ葵の横で、カイが困ったという顔をする。
バラムに手も足も出なかったカイには、その難しさがよくわかるのだ。
すると、一人の少女がカイの前に進み出た。
「あの!」
カイを真正面から見つめたアイリスが、突然大きな声を上げる。そして、両手を胸の前でにぎりしめ、勢いこんでこう言った。
「バラムの動きを止める役、私に任せてくれませんか? 私が、魔法でなんとかします!」
「お前にできるのか、アイリス。これは戦いの行方を決める大役だ。失敗は許されないのだぞ」
「わかっています、アルバス。でも、ここで何もできなければ、ご先祖様にもケセド王国の皆さんにも会わせる顔がありません。だから……私にやらせてください」
アイリスは強い決意の光を宿した瞳で、アルバスを見る。
それだけで、アルバスは彼女の決意の強さを感じ取ったのだろう。
「――わかった。私の命、お前に預ける。頼んだぞ、アイリス」
アルバスは信頼を持って、自らの命をアイリスに委ねた。
アルバスにほほ笑み返したアイリスは、続いてカイ、総司、葵の方へ向き直る。
「皆さん、お願いします。私を信じてください」
「もちろんだ。お前の魔法のすごさはさっき見せてもらったからな。任せたぜ、アイリス」
カイがアイリスの肩をポンポンと叩く。
その後ろでは、総司と葵も力強くうなずいている。
みんなが自分を信じ、命を預けてくれている。その喜びに、アイリスの笑顔がはじけた。
「ありがとうございます! ――ただ、この魔法は少し時間がかかるんです。みなさん、大変かとは思いますが、時間をかせいでもらえませんか?」
「任せとけ! アルバス、きついだろうが、もうひとっ走り頼めるか?」
「私を誰だと思っているのだ。このアルバス、まだまだへばったりはしないぞ」
「よっしゃあ! じゃあ、いっしょにがんばろうぜ!」
総司から預かった剣を抜き、カイが再びアルバスの背に飛び乗る。
「アイリスとアオイは、さっきは助けてくれてありがとう。ソウジもヒントをくれて、助かったぜ」
カイがアルバスの背の上で、総司と葵、アイリスへ感謝の言葉を述べる。
仲間たちから受け取ったバトンを手に、カイは勇ましく顔を上げた。
「次は、オレたちががんばる番だ。そうだろ、アルバス!」
「ああ、その通りだ!」
カイとアルバスが、部屋の奥に立つバラムを見すえる。
バラムはようやく目が見えるようになってきたのだろう。血走った目で、カイたちをにらみつけていた。
「貴様ら……。絶対に許さんぞ……」
左腕で顔をおさえながら、バラムが低い声でうなる。
かくすことのないその怒りは、確かな圧力となってカイたちにぶつかる。
「オレたちは、お前に負けるわけにはいかないんだ。お前の憎しみ、ここで断ち切ってやる!」
「ぬかせ! 虫けらがいきがりおって」
カイも威風堂々と、バラムをにらみ返す。
バラムとカイの視線が重なり、大広間が一瞬、静まり返る。
高まった緊張の中、先に動いたのは――カイを乗せたアルバスだった。
「サンキュー、ソウジ」
手招きする総司に、カイがうなずく。
アルバスとカイはバラムの横をすり抜けて、無事に総司たちと合流した。
「アルバス!」
「アイリス、無事だったのだな……」
アイリスが、もどってきたアルバスの首に抱きつく。
元気そうなアイリスを見て、アルバスが安心した様子で目を細めた。
「ソウジ、アオイ。君たちも無事でよかった。アイリスを助けてくれて、本当にありがとう」
「ぼくはちょっと危なかったですけど……。アオイがいたおかげで、みんな無事にここまで来られました」
お礼を言うアルバスに、はずかしそうな口調で答えた総司。葵もどこか照れた様子だ。
「それよりも、ぼくたちの方こそ、間に合ってよかった」
「本当にナイスタイミングだったぜ。あいつの肌、鉄みたいにかたくてさ。じいちゃんの剣も折られちまって、お前たちが来てくれなかったら危なかった」
そう言って、カイが折れた剣を見せる。
すると、総司はすぐさま自分の長剣をカイへ差し出した。
「命が無事なら大丈夫さ。ヘンリーさんだって、剣よりカイの方が大事に決まっているよ。それに、剣ならここにもう一本ある。ぼくでは上手に使えないし、カイが使ってよ」
「おう! ありがとな、ソウジ。助かるぜ!」
総司から剣を受け取り、カイがニッコリと笑う。
「ねえ、ソージ。今まで読んだ本の中で、オーガの弱点とか見たことないの?」
「うーん……。さすがに、オーガの弱点は読んだことないよ。――だけど、ちょっと気になることはある」
腕を組んだ総司を、みんなが見つめる。総司のひらめきに、全員が期待しているのだ。
みんなを代表して、カイが総司に先をうながす。
「何だよ、気になることって」
「さっき、アオイがバラムに矢を放った時のことだよ。バラムはおおげさに驚きながら矢をよけた。だけど、カイの話によれば、バラムの肌は鉄のようにかたいはず。そんな驚くことはないはずなんだ」
総司がカイの方を見ながら言うと、葵も同意を示した。
「確かにそうよね。鉄のようにかたいなら、私の矢なんてはじいちゃうはずだし」
「うん。それでちょっと考えてみたんだけど、あの時、バラムは頭の角をかばっていた。つまり、あの角はバラムにとって、絶対守らなきゃいけない大事なものなんじゃないかな」
「なるほどな。そうなると、あの角はバラムの弱点かもしれねぇってわけだ」
カイがいたずらっ子のように笑いながら手を打つ。
対して総司も、自信あり気な顔でカイを見た。
「弱点かどうかは、ぼくもわからない。だけど、ねらってみる価値はあるはずだ」
「さすがソージ! こういう時のひらめきは、天下一品ね」
「だけど、一つ問題があるぞ。角を攻撃するなら、どうにかしてアイツの動きを止めなきゃならない」
パチパチと拍手をしながら喜ぶ葵の横で、カイが困ったという顔をする。
バラムに手も足も出なかったカイには、その難しさがよくわかるのだ。
すると、一人の少女がカイの前に進み出た。
「あの!」
カイを真正面から見つめたアイリスが、突然大きな声を上げる。そして、両手を胸の前でにぎりしめ、勢いこんでこう言った。
「バラムの動きを止める役、私に任せてくれませんか? 私が、魔法でなんとかします!」
「お前にできるのか、アイリス。これは戦いの行方を決める大役だ。失敗は許されないのだぞ」
「わかっています、アルバス。でも、ここで何もできなければ、ご先祖様にもケセド王国の皆さんにも会わせる顔がありません。だから……私にやらせてください」
アイリスは強い決意の光を宿した瞳で、アルバスを見る。
それだけで、アルバスは彼女の決意の強さを感じ取ったのだろう。
「――わかった。私の命、お前に預ける。頼んだぞ、アイリス」
アルバスは信頼を持って、自らの命をアイリスに委ねた。
アルバスにほほ笑み返したアイリスは、続いてカイ、総司、葵の方へ向き直る。
「皆さん、お願いします。私を信じてください」
「もちろんだ。お前の魔法のすごさはさっき見せてもらったからな。任せたぜ、アイリス」
カイがアイリスの肩をポンポンと叩く。
その後ろでは、総司と葵も力強くうなずいている。
みんなが自分を信じ、命を預けてくれている。その喜びに、アイリスの笑顔がはじけた。
「ありがとうございます! ――ただ、この魔法は少し時間がかかるんです。みなさん、大変かとは思いますが、時間をかせいでもらえませんか?」
「任せとけ! アルバス、きついだろうが、もうひとっ走り頼めるか?」
「私を誰だと思っているのだ。このアルバス、まだまだへばったりはしないぞ」
「よっしゃあ! じゃあ、いっしょにがんばろうぜ!」
総司から預かった剣を抜き、カイが再びアルバスの背に飛び乗る。
「アイリスとアオイは、さっきは助けてくれてありがとう。ソウジもヒントをくれて、助かったぜ」
カイがアルバスの背の上で、総司と葵、アイリスへ感謝の言葉を述べる。
仲間たちから受け取ったバトンを手に、カイは勇ましく顔を上げた。
「次は、オレたちががんばる番だ。そうだろ、アルバス!」
「ああ、その通りだ!」
カイとアルバスが、部屋の奥に立つバラムを見すえる。
バラムはようやく目が見えるようになってきたのだろう。血走った目で、カイたちをにらみつけていた。
「貴様ら……。絶対に許さんぞ……」
左腕で顔をおさえながら、バラムが低い声でうなる。
かくすことのないその怒りは、確かな圧力となってカイたちにぶつかる。
「オレたちは、お前に負けるわけにはいかないんだ。お前の憎しみ、ここで断ち切ってやる!」
「ぬかせ! 虫けらがいきがりおって」
カイも威風堂々と、バラムをにらみ返す。
バラムとカイの視線が重なり、大広間が一瞬、静まり返る。
高まった緊張の中、先に動いたのは――カイを乗せたアルバスだった。
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