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第七章 決戦
バラム
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カイはアルバスの背に乗り、城の中央部へと進んでいた。
城の主であるならば、城の中心にいるはず。カイとアルバスはそう考えたのだ。
途中、城の中に残っていたオーガたちと出くわしたが、これも想定のうち。カイを降ろしたアルバスがオーガたちの中心に突っこみ、ツメと牙で次々と蹴散らす。カイもアルバスのおそろしさにひるんだオーガを、見事な剣さばきで倒した。
そうしてオーガを倒しながら進んだカイたちは、城の中心と思われる部屋にたどり着いた。
高さが三メートル以上ある大きな扉の中からは、まがまがしい気配を感じる。これまで見てきたオーガにはなかった気配だ。
明らかに危険な相手が、この中にいる。カイとアルバスは注意深く近づき、扉を開け放った。
「うわっ! すげぇ広い」
「カイ、見ろ!」
アルバスに言われ、カイが広々とした部屋の奥を見すえる。
そこにはカイが十人並べそうな大きないすに座った、一際大きいオーガがいた。
「バラム……」
アルバスが低くうなる横で、カイが「あいつが……」と息をのむ。
バラムは他のオーガ達と違って灰色の肌をしており、額には長い角が生えていた。
アルバスが言っていた通り、右腕はない。しかし、全身にまとった分厚い筋肉は鎧のようであり、残っている左腕は丸太ほどの太さがある。
何より、バラムが放つ威圧感は、他のオーガの比ではなかった。
「何だ、貴様らは。外で暴れる人間どもの仲間か?」
バラムの低く重い声が、部屋に響く。聞く者に恐怖を与える声だ。
それでもカイは気圧されることなく、剣をバラムに向けながら答えた。
「ああ、そうだ! オレはカイ。ケセド王国とアイリスを救うため、ここまで来た。お前がオーガの王、バラムだな?」
「なるほど。あの魔女の後ろで糸を引いているのが、我と気づいたか。人間どもも、なかなか賢しいものだ。――よかろう。ここまで来たほうびに答えてやる。いかにも、我が名はバラム。偉大なるオーガの王だ。頭が高いぞ、人間」
バラムが尊大に言い放つ。
その返答を聞いたカイは、あろうことか剣を下した。
「そうか。――バラム、オレたちはお前を退治するためにここまで来た。だが、戦う前に少し話がしたい」
「カイ! 何を言っているのだ。こいつは話の通じるようなヤツではない!」
アルバスがカイをたしなめる。
だが、カイはアルバスに向かってゆっくり首をふった。
「すまない、アルバス。一度だけチャンスをくれ。――ソウジとアオイがいたら、きっとこうすると思うんだ」
「くっ! ……わかった、好きにするといい」
カイの強い意志をたたえた目に、アルバスは何も言えなくなってしまう。アルバスは歯がみしながらも、いったん後ろに退いた。
「ほう、我に話を持ちかけるか。よかろう、発言を許す。言ってみるがよい」
いすに座ったまま頬杖をつくバラム。その表情は、まるで余興を楽しんでいるようだ。
けれどカイは、バラムの態度に構わず、話し始めた。
「バラム。アイリスを自由にして、手下と共にこの国から出ていってくれないか。過去の恨みを忘れて、別の土地で生きてくれ」
カイが、まっすぐバラムの目を見据える。
そして、真剣な表情でバラムに手を引くよう訴えた。
「黒幕がお前だとオレたちにばれた時点で、お前の計画は失敗したも同然なんだ。頼む、バラム。今すぐ負けを認めて、ケセド王国から立ち去ってくれ。そして今度こそ、この国や英雄の子孫に手を出さないと約束してくれ」
頼む、とカイが頭を下げる。
すると、カイの言葉に思うところがあったのだろうか。バラムが、何か考えるような素振りを見せた。
「ふむ。――確かに我の計画は失敗したようだな。それに、このままケセド王国と戦を構えるのは、分が悪いかもしれぬ……」
「そうか! それじゃあ……」
バラムが納得してくれたと感じ、カイ表情をほころばせる。
だが……。
「――などと我が言うと思ったのか、おろか者め」
「それは……どういう意味だ」
カイが声を低くして尋ねる。
眉をひそめるカイを見下すように、バラムは高笑いを始めた。
城の主であるならば、城の中心にいるはず。カイとアルバスはそう考えたのだ。
途中、城の中に残っていたオーガたちと出くわしたが、これも想定のうち。カイを降ろしたアルバスがオーガたちの中心に突っこみ、ツメと牙で次々と蹴散らす。カイもアルバスのおそろしさにひるんだオーガを、見事な剣さばきで倒した。
そうしてオーガを倒しながら進んだカイたちは、城の中心と思われる部屋にたどり着いた。
高さが三メートル以上ある大きな扉の中からは、まがまがしい気配を感じる。これまで見てきたオーガにはなかった気配だ。
明らかに危険な相手が、この中にいる。カイとアルバスは注意深く近づき、扉を開け放った。
「うわっ! すげぇ広い」
「カイ、見ろ!」
アルバスに言われ、カイが広々とした部屋の奥を見すえる。
そこにはカイが十人並べそうな大きないすに座った、一際大きいオーガがいた。
「バラム……」
アルバスが低くうなる横で、カイが「あいつが……」と息をのむ。
バラムは他のオーガ達と違って灰色の肌をしており、額には長い角が生えていた。
アルバスが言っていた通り、右腕はない。しかし、全身にまとった分厚い筋肉は鎧のようであり、残っている左腕は丸太ほどの太さがある。
何より、バラムが放つ威圧感は、他のオーガの比ではなかった。
「何だ、貴様らは。外で暴れる人間どもの仲間か?」
バラムの低く重い声が、部屋に響く。聞く者に恐怖を与える声だ。
それでもカイは気圧されることなく、剣をバラムに向けながら答えた。
「ああ、そうだ! オレはカイ。ケセド王国とアイリスを救うため、ここまで来た。お前がオーガの王、バラムだな?」
「なるほど。あの魔女の後ろで糸を引いているのが、我と気づいたか。人間どもも、なかなか賢しいものだ。――よかろう。ここまで来たほうびに答えてやる。いかにも、我が名はバラム。偉大なるオーガの王だ。頭が高いぞ、人間」
バラムが尊大に言い放つ。
その返答を聞いたカイは、あろうことか剣を下した。
「そうか。――バラム、オレたちはお前を退治するためにここまで来た。だが、戦う前に少し話がしたい」
「カイ! 何を言っているのだ。こいつは話の通じるようなヤツではない!」
アルバスがカイをたしなめる。
だが、カイはアルバスに向かってゆっくり首をふった。
「すまない、アルバス。一度だけチャンスをくれ。――ソウジとアオイがいたら、きっとこうすると思うんだ」
「くっ! ……わかった、好きにするといい」
カイの強い意志をたたえた目に、アルバスは何も言えなくなってしまう。アルバスは歯がみしながらも、いったん後ろに退いた。
「ほう、我に話を持ちかけるか。よかろう、発言を許す。言ってみるがよい」
いすに座ったまま頬杖をつくバラム。その表情は、まるで余興を楽しんでいるようだ。
けれどカイは、バラムの態度に構わず、話し始めた。
「バラム。アイリスを自由にして、手下と共にこの国から出ていってくれないか。過去の恨みを忘れて、別の土地で生きてくれ」
カイが、まっすぐバラムの目を見据える。
そして、真剣な表情でバラムに手を引くよう訴えた。
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頼む、とカイが頭を下げる。
すると、カイの言葉に思うところがあったのだろうか。バラムが、何か考えるような素振りを見せた。
「ふむ。――確かに我の計画は失敗したようだな。それに、このままケセド王国と戦を構えるのは、分が悪いかもしれぬ……」
「そうか! それじゃあ……」
バラムが納得してくれたと感じ、カイ表情をほころばせる。
だが……。
「――などと我が言うと思ったのか、おろか者め」
「それは……どういう意味だ」
カイが声を低くして尋ねる。
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