白紙の本の物語

日野 祐希

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第六章 騎士団の決意

出陣

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 騎士団との話し合いを終えた三人は、アルバスと別れてヘンリーの待つ家へと帰った。
 ちなみにアルバスは、村人をこわがらせないよう、森の中で出発の時を待つそうだ。

「お帰り、三人とも。よく無事に帰ってきた」

 ヘンリーの笑顔に迎えられた三人。彼らは久しぶりにヘンリーの温かいご飯を食べながら、今までのこと、これからのことを話した。

「……そうか。では、また三人とも、危険なところに行くのかね」

「うん。だけど、今度も必ず元気に帰ってくるよ、じいちゃん」

 心配そうなヘンリーに、カイが安心させるように言う。

「本当は、そんな危ないことをしてほしくはないのだがな……。まあ、今さら止めはしないさ。それで、いつ旅立つのかな?」

「騎士団の準備が整うまで二日かかるそうだから、三日後の朝ってことになった」

「そうか……。――がんばれよ、三人とも。どうか、この国を救ってくれ」

「おう! 任せとけ!」

 カイがこぶしを握り、力強く返事をする。
 そして、難しい話はここまで。あとは三人の冒険譚に花を咲かせ、夕食の席は和やかに過ぎていくのだった。


          * * *


 夕食を取った後、総司と葵は自分たちの部屋にもどった。
 旅のつかれもあり、早めに寝ることにした二人は、それぞれのベッドにもぐりこむ。
 ランタンの明かりに照らされた室内で、二人はこの物語の終わりについて話していた。

「オーガたちを倒せば、この国は平和になる。この物語もきっとハッピーエンドを迎えられるね」

「うん。でも、バラムを倒すのはきっと大変だ。気を引きしめないと」

 物語の終わりが見えたことに喜ぶ葵のとなりで、総司が気合を入れ直す。

「あ、でもこの戦いに勝ったら、きっとわたしたちは元の世界に帰るんだよね」

 不意に葵がしんみりした声で、ポツリとつぶやく。
 急に葵の様子が変わって、心配になったのだろう。総司が気づかうように葵を見た。

「うん、きっと帰れると思うけど……。どうかしたの、葵?」

「いや、元の世界に帰ったら、もうカイたちに会えないんだなって思って」

 葵がさびしそうに笑う。
 その笑顔を見て、総司もようやく彼女の気持ちがわかった。
 二人にとって、元の世界に帰ることは最大の目標だ。けれど、元の世界に帰るということは、カイたちとの別れを意味している。
 葵は、苦楽をともにしてきた仲間たちとの別れを悲しんでいるのだ。

「アオイはさ、ずっとこの世界にいたいと思っているの?」

「ううん。元の世界に帰りたいと思っているよ。でも……私はこの世界のことも好きになっちゃったから」

 葵がはにかみながら言う。彼女の言いたいことは、総司にも痛いほどよくわかった。

「アオイの気持ち、ぼくにもわかるよ。でもさ、だからこそこの世界を救わなきゃ、って思うんだ。お別れはさびしいけど、最後にはみんな笑っていられるように……」

「ソージ……。うん、そうだね。みんなの笑顔が見られるように、わたしもがんばるよ!」

「うん。がんばろう、アオイ」

 ベッドの中から腕をのばし、コツンとこぶしをぶつけ合う。
 二人は決意を新たにして、眠りについたのだった。


     * * *


 出発までの数日は、あっという間に過ぎていった。
 騎士団との作戦会議。剣や弓の稽古。やりたいこともやるべきことも山ほどあって、気がつけば一日が終わっている。そんな日々だ。
 そして、ついに迎えた出発の朝。
 三人はカイの家の前で、荷物と武器を念入りに確認していた。
 騎士団からカイと同じ長剣をもらった総司は、少しうれしそうにベルトへさしている。
 葵は弓の弦を確かめ、矢の本数を数える。
 そして、カイは総司の短剣をもらい受け、長剣といっしょに腰へ下げていた。

「何度も言うが、無茶はしないようにな。今度も無事に帰ってきておくれ」

 荷物の確認を終えた総司たちに、ヘンリーが声をかける。彼の言葉からは、再び死地におもむく三人を案じる気持ちが伝わってきた。

「もちろんだ、じいちゃん。今度もみんな元気に帰ってくる。だから、オレたちを信じて待っていてくれ」

 心配する祖父を安心させるように、カイはニカッと笑顔を見せる。

「ああ、信じているよ。だからこうして、お前たちを送り出しているんだ。三人とも、行っておいで」

「おう! 行ってくるぜ!」

『行ってきます!』

 ヘンリーに見送られた三人は、村の入り口で騎士団やアルバスと合流した。
 子供たちがアルバスの背に乗っていることもあり、一行はとても早いペースで森を進む。
 そのまま一気に魔法の霧を越えて、さらに進むこと一日。ついにバラムの城が一行の前に姿を現した。

「あれが、バラムの城か……」

 カイがゴクリとのどを鳴らす。
 厚い雲の下、崖に囲まれるようにしてそびえ立つ石の城は、とても不気味だった。

「それじゃあ、ぼくたちは崖の上に向かいます」

「わかった。幸運を祈っているよ」

「ありがとうございます。エドワードさんたちも、がんばってください!」

 総司とエドワードが握手を交わす。両者の顔にうかぶのは、互いへの信頼だ。
 エドワードは三人と一匹の姿が見えなくなるまで見送り、騎士たちに指示を出した。

「さあ、私たちも行くぞ。彼らばかりに頼っていては騎士団の名折れだからな。みんな、気合を入れろ!」

『おう!』

 エドワードの鼓舞に、騎士たちもこぶしを突き上げて応える。
 騎士たちの顔には、自信に満ちた笑みがうかんでいた。

「俺たちは、英雄の意志を受け継ぐ騎士団だ!」

「百年前に先祖たちが受けた借り、百倍にして返してやるさ!」

 英雄から受け継いだ王国を守るという意志を胸に、騎士たちはバラムの城へ向かうのだった。
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