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第六章 騎士団の決意
反撃の狼煙
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「隊長、あなたが今どのようなことを考えて、悩んでおられるかはお察しします。だからこそ、差し出がましいこととは承知で、一つだけ言わせてください。――隊長、どうか御心のままに進んでください」
「デュラン副隊長……。だがな……」
君たちの命を、いたずらに危険にさらすことはできない。
エドワードがそう言おうとした瞬間、デュランはそれをさえぎるように言葉を続けた。
「隊長。我々はこの王国とこの国に住む人々を守る騎士です。そこに助けを求める子供たちがいるのならば、手を差し伸べるのが騎士の務めではないですか?」
デュランがニッと白い歯を見せて笑う。
辺りを見回せば、そこにいる騎士たちもまた、デュランと同じようにほほ笑んでいる。
彼らの顔を一人一人見回したエドワードは、自分が思い違いをしていたことを悟った。
「――ああ、そうだな。民の声に耳を傾けられないようでは、騎士失格だ」
民の声に耳を聞き、民を守る盾となる。
それが騎士としての本懐だ。
ここにいる部下たちは、すでにその覚悟を持っている。彼らの覚悟に泥をぬるようなことを、隊長である自分になぜできようか。
ならば、自分がここでとるべき行動は、ただ一つ。
心に決めたエドワードは、改めてカイたちに目を向けた。
「わかりました。あなた方の話が本当だったら、取り返しのつかないことになりかねません。この国を守る騎士として、我々もあなた方の力になりましょう」
『ありがとうございます!』
「感謝する」
三人と一匹が、エドワードや騎士たちに向かってもう一度頭を下げる。
その顔には、信じてもらえた喜びと安心の色がうかんでいた。
「さて、それでは早速、王都に使いを出しましょう。オーガ討伐のための装備と人員を送ってもらわないとなりませんね」
「あ、それは待ってもらえないでしょうか」
増援を呼ぼうとするエドワードに、総司がすかさず待ったをかける。
「どういうことですか?」
「先ほども話しましたが、バラムは王都を手下に見張らせています。ここで王都が目立った動きを見せれば、バラムにぼくらの行動がバレてしまうかもしれません」
そうなれば、バラムは手薄になった王都を直接攻めるかもしれない。
総司はエドワードに向かって、冷静にそう進言した。
「なるほど。しかし、それではこの村にいる百名ほどの騎士だけで戦わねばなりません。しかも、天然の要塞と化した城を正面から落とすとなると、かなり難しいでしょう。――アルバス殿、城にいるオーガはどのくらいでしょうか?」
「以前、私が確認した限りだと二百体ほどだと思われる。ただ、オーガたちは、力は強いが頭がおそろしく悪い。しっかりとした作戦を立てれば、勝機はあろう」
「それでも、二倍の数を相手にするのはきびしいですね。単純な力比べでは、完全に向こうが上ですし……」
「大丈夫です。ぼくに少し考えがあります」
自信満々といった口ぶりの総司。
彼の表情を見て、エドワードも興味がわいたらしい。「自信があるようですね。聞かせてください」と、先をうながした。
「作戦は単純です。まず――」
雪の上に絵をかきながら、自らが考えた作戦を説明する。
総司の作戦は、今ある戦力を最大限に活かす、大胆な作戦だった。
「……なるほど。確かに面白い作戦です。ただ、この作戦は君たちも大きな危険が伴います。それでも良いのですか?」
「アルバスもいっしょに来てくれるし、何とかしてみせるさ。オレはメアリと約束したんだ。『必ず娘を助けてやる』って。だから、絶対負けない!」
「バラムは百年前の戦いで右腕を失った。故に、今のヤツには百年前ほどの強さはない。それにこの子たちは、貴殿らが越えられなかったメアリの霧を突破した者たちだ。この子たちなら、必ずやってくれる。どうか貴殿も、この子たちを信用してはくれないだろうか」
カイの決意に満ちた言葉に、アルバスが賛同する。
さらに、総司がとどめの一言をエドワードに放った。
「それに、エドワードさんたちなら、必ずぼくらの応援に来てくれるって信じています。だから、きっと大丈夫です」
総司の言い分に、一瞬あっけにとられた表情をしたエドワード。
しかし、すぐに彼はいたずらっぽい笑みをうかべ、総司に言葉を返した。
「わかりました。あなた方を信じましょう。そして、我らも騎士のはしくれ。そこまで言われたら、必ず手下のオーガを退治して、みなさんの応援に駆けつけます。――なので、私たちの見せ場も残しておいてくださいね」
エドワードがウィンクをすると、一同も笑みで応える。こうして、バラムたちへの反撃の狼煙が、静かに上がり始めるのだった。
「デュラン副隊長……。だがな……」
君たちの命を、いたずらに危険にさらすことはできない。
エドワードがそう言おうとした瞬間、デュランはそれをさえぎるように言葉を続けた。
「隊長。我々はこの王国とこの国に住む人々を守る騎士です。そこに助けを求める子供たちがいるのならば、手を差し伸べるのが騎士の務めではないですか?」
デュランがニッと白い歯を見せて笑う。
辺りを見回せば、そこにいる騎士たちもまた、デュランと同じようにほほ笑んでいる。
彼らの顔を一人一人見回したエドワードは、自分が思い違いをしていたことを悟った。
「――ああ、そうだな。民の声に耳を傾けられないようでは、騎士失格だ」
民の声に耳を聞き、民を守る盾となる。
それが騎士としての本懐だ。
ここにいる部下たちは、すでにその覚悟を持っている。彼らの覚悟に泥をぬるようなことを、隊長である自分になぜできようか。
ならば、自分がここでとるべき行動は、ただ一つ。
心に決めたエドワードは、改めてカイたちに目を向けた。
「わかりました。あなた方の話が本当だったら、取り返しのつかないことになりかねません。この国を守る騎士として、我々もあなた方の力になりましょう」
『ありがとうございます!』
「感謝する」
三人と一匹が、エドワードや騎士たちに向かってもう一度頭を下げる。
その顔には、信じてもらえた喜びと安心の色がうかんでいた。
「さて、それでは早速、王都に使いを出しましょう。オーガ討伐のための装備と人員を送ってもらわないとなりませんね」
「あ、それは待ってもらえないでしょうか」
増援を呼ぼうとするエドワードに、総司がすかさず待ったをかける。
「どういうことですか?」
「先ほども話しましたが、バラムは王都を手下に見張らせています。ここで王都が目立った動きを見せれば、バラムにぼくらの行動がバレてしまうかもしれません」
そうなれば、バラムは手薄になった王都を直接攻めるかもしれない。
総司はエドワードに向かって、冷静にそう進言した。
「なるほど。しかし、それではこの村にいる百名ほどの騎士だけで戦わねばなりません。しかも、天然の要塞と化した城を正面から落とすとなると、かなり難しいでしょう。――アルバス殿、城にいるオーガはどのくらいでしょうか?」
「以前、私が確認した限りだと二百体ほどだと思われる。ただ、オーガたちは、力は強いが頭がおそろしく悪い。しっかりとした作戦を立てれば、勝機はあろう」
「それでも、二倍の数を相手にするのはきびしいですね。単純な力比べでは、完全に向こうが上ですし……」
「大丈夫です。ぼくに少し考えがあります」
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彼の表情を見て、エドワードも興味がわいたらしい。「自信があるようですね。聞かせてください」と、先をうながした。
「作戦は単純です。まず――」
雪の上に絵をかきながら、自らが考えた作戦を説明する。
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「……なるほど。確かに面白い作戦です。ただ、この作戦は君たちも大きな危険が伴います。それでも良いのですか?」
「アルバスもいっしょに来てくれるし、何とかしてみせるさ。オレはメアリと約束したんだ。『必ず娘を助けてやる』って。だから、絶対負けない!」
「バラムは百年前の戦いで右腕を失った。故に、今のヤツには百年前ほどの強さはない。それにこの子たちは、貴殿らが越えられなかったメアリの霧を突破した者たちだ。この子たちなら、必ずやってくれる。どうか貴殿も、この子たちを信用してはくれないだろうか」
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さらに、総司がとどめの一言をエドワードに放った。
「それに、エドワードさんたちなら、必ずぼくらの応援に来てくれるって信じています。だから、きっと大丈夫です」
総司の言い分に、一瞬あっけにとられた表情をしたエドワード。
しかし、すぐに彼はいたずらっぽい笑みをうかべ、総司に言葉を返した。
「わかりました。あなた方を信じましょう。そして、我らも騎士のはしくれ。そこまで言われたら、必ず手下のオーガを退治して、みなさんの応援に駆けつけます。――なので、私たちの見せ場も残しておいてくださいね」
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