白紙の本の物語

日野 祐希

文字の大きさ
上 下
24 / 39
第六章 騎士団の決意

反撃の狼煙

しおりを挟む
「隊長、あなたが今どのようなことを考えて、悩んでおられるかはお察しします。だからこそ、差し出がましいこととは承知で、一つだけ言わせてください。――隊長、どうか御心のままに進んでください」

「デュラン副隊長……。だがな……」

 君たちの命を、いたずらに危険にさらすことはできない。
 エドワードがそう言おうとした瞬間、デュランはそれをさえぎるように言葉を続けた。

「隊長。我々はこの王国とこの国に住む人々を守る騎士です。そこに助けを求める子供たちがいるのならば、手を差し伸べるのが騎士の務めではないですか?」

 デュランがニッと白い歯を見せて笑う。
 辺りを見回せば、そこにいる騎士たちもまた、デュランと同じようにほほ笑んでいる。
 彼らの顔を一人一人見回したエドワードは、自分が思い違いをしていたことを悟った。

「――ああ、そうだな。民の声に耳を傾けられないようでは、騎士失格だ」

 民の声に耳を聞き、民を守る盾となる。
 それが騎士としての本懐だ。
 ここにいる部下たちは、すでにその覚悟を持っている。彼らの覚悟に泥をぬるようなことを、隊長である自分になぜできようか。
 ならば、自分がここでとるべき行動は、ただ一つ。
 心に決めたエドワードは、改めてカイたちに目を向けた。

「わかりました。あなた方の話が本当だったら、取り返しのつかないことになりかねません。この国を守る騎士として、我々もあなた方の力になりましょう」

『ありがとうございます!』

「感謝する」

 三人と一匹が、エドワードや騎士たちに向かってもう一度頭を下げる。
 その顔には、信じてもらえた喜びと安心の色がうかんでいた。

「さて、それでは早速、王都に使いを出しましょう。オーガ討伐のための装備と人員を送ってもらわないとなりませんね」

「あ、それは待ってもらえないでしょうか」

 増援を呼ぼうとするエドワードに、総司がすかさず待ったをかける。

「どういうことですか?」

「先ほども話しましたが、バラムは王都を手下に見張らせています。ここで王都が目立った動きを見せれば、バラムにぼくらの行動がバレてしまうかもしれません」

 そうなれば、バラムは手薄になった王都を直接攻めるかもしれない。
 総司はエドワードに向かって、冷静にそう進言した。

「なるほど。しかし、それではこの村にいる百名ほどの騎士だけで戦わねばなりません。しかも、天然の要塞と化した城を正面から落とすとなると、かなり難しいでしょう。――アルバス殿、城にいるオーガはどのくらいでしょうか?」

「以前、私が確認した限りだと二百体ほどだと思われる。ただ、オーガたちは、力は強いが頭がおそろしく悪い。しっかりとした作戦を立てれば、勝機はあろう」

「それでも、二倍の数を相手にするのはきびしいですね。単純な力比べでは、完全に向こうが上ですし……」

「大丈夫です。ぼくに少し考えがあります」

 自信満々といった口ぶりの総司。
 彼の表情を見て、エドワードも興味がわいたらしい。「自信があるようですね。聞かせてください」と、先をうながした。

「作戦は単純です。まず――」

 雪の上に絵をかきながら、自らが考えた作戦を説明する。
 総司の作戦は、今ある戦力を最大限に活かす、大胆な作戦だった。

「……なるほど。確かに面白い作戦です。ただ、この作戦は君たちも大きな危険が伴います。それでも良いのですか?」

「アルバスもいっしょに来てくれるし、何とかしてみせるさ。オレはメアリと約束したんだ。『必ず娘を助けてやる』って。だから、絶対負けない!」

「バラムは百年前の戦いで右腕を失った。故に、今のヤツには百年前ほどの強さはない。それにこの子たちは、貴殿らが越えられなかったメアリの霧を突破した者たちだ。この子たちなら、必ずやってくれる。どうか貴殿も、この子たちを信用してはくれないだろうか」

 カイの決意に満ちた言葉に、アルバスが賛同する。
 さらに、総司がとどめの一言をエドワードに放った。

「それに、エドワードさんたちなら、必ずぼくらの応援に来てくれるって信じています。だから、きっと大丈夫です」

 総司の言い分に、一瞬あっけにとられた表情をしたエドワード。
 しかし、すぐに彼はいたずらっぽい笑みをうかべ、総司に言葉を返した。

「わかりました。あなた方を信じましょう。そして、我らも騎士のはしくれ。そこまで言われたら、必ず手下のオーガを退治して、みなさんの応援に駆けつけます。――なので、私たちの見せ場も残しておいてくださいね」

 エドワードがウィンクをすると、一同も笑みで応える。こうして、バラムたちへの反撃の狼煙が、静かに上がり始めるのだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

見習い錬金術士ミミリの冒険の記録〜討伐も採集もお任せください!ご依頼達成の報酬は、情報でお願いできますか?〜

うさみち
児童書・童話
【見習い錬金術士とうさぎのぬいぐるみたちが描く、スパイス混じりのゆるふわ冒険!情報収集のために、お仕事のご依頼も承ります!】 「……襲われてる! 助けなきゃ!」  錬成アイテムの採集作業中に訪れた、モンスターに襲われている少年との突然の出会い。  人里離れた山陵の中で、慎ましやかに暮らしていた見習い錬金術士ミミリと彼女の家族、機械人形(オートマタ)とうさぎのぬいぐるみ。彼女たちの運命は、少年との出会いで大きく動き出す。 「俺は、ある人たちから頼まれて預かり物を渡すためにここに来たんだ」  少年から渡された物は、いくつかの錬成アイテムと一枚の手紙。 「……この手紙、私宛てなの?」  少年との出会いをキッカケに、ミミリはある人、あるアイテムを探すために冒険を始めることに。  ――冒険の舞台は、まだ見ぬ世界へ。  新たな地で、右も左もわからないミミリたちの人探し。その方法は……。 「討伐、採集何でもします!ご依頼達成の報酬は、情報でお願いできますか?」  見習い錬金術士ミミリの冒険の記録は、今、ここから綴られ始める。 《この小説の見どころ》 ①可愛いらしい登場人物 見習い錬金術士のゆるふわ少女×しっかり者だけど寂しがり屋の凄腕美少女剣士の機械人形(オートマタ)×ツンデレ魔法使いのうさぎのぬいぐるみ×コシヌカシの少年⁉︎ ②ほのぼのほんわか世界観 可愛いらしいに囲まれ、ゆったり流れる物語。読了後、「ほわっとした気持ち」になってもらいたいをコンセプトに。 ③時々スパイスきいてます! ゆるふわの中に時折現れるスパイシーな展開。そして時々ミステリー。 ④魅力ある錬成アイテム 錬金術士の醍醐味!それは錬成アイテムにあり。魅力あるアイテムを活用して冒険していきます。 ◾️第3章完結!現在第4章執筆中です。 ◾️この小説は小説家になろう、カクヨムでも連載しています。 ◾️作者以外による小説の無断転載を禁止しています。 ◾️挿絵はなんでも書いちゃうヨギリ酔客様からご寄贈いただいたものです。

オオカミ少女と呼ばないで

柳律斗
児童書・童話
「大神くんの頭、オオカミみたいな耳、生えてる……?」 その一言が、私をオオカミ少女にした。 空気を読むことが少し苦手なさくら。人気者の男子、大神くんと接点を持つようになって以降、クラスの女子に目をつけられてしまう。そんな中、あるできごとをきっかけに「空気の色」が見えるように―― 表紙画像はノーコピーライトガール様よりお借りしました。ありがとうございます。

夢の中で人狼ゲーム~負けたら存在消滅するし勝ってもなんかヤバそうなんですが~

世津路 章
児童書・童話
《蒲帆フウキ》は通信簿にも“オオカミ少年”と書かれるほどウソつきな小学生男子。 友達の《東間ホマレ》・《印路ミア》と一緒に、時々担任のこわーい本間先生に怒られつつも、おもしろおかしく暮らしていた。 ある日、駅前で配られていた不思議なカードをもらったフウキたち。それは、夢の中で行われる《バグストマック・ゲーム》への招待状だった。ルールは人狼ゲームだが、勝者はなんでも願いが叶うと聞き、フウキ・ホマレ・ミアは他の参加者と対決することに。 だが、彼らはまだ知らなかった。 ゲームの敗者は、現実から存在が跡形もなく消滅すること――そして勝者ですら、ゲームに潜む呪いから逃れられないことを。 敗退し、この世から消滅した友達を取り戻すため、フウキはゲームマスターに立ち向かう。 果たしてウソつきオオカミ少年は、勝っても負けても詰んでいる人狼ゲームに勝利することができるのだろうか? 8月中、ほぼ毎日更新予定です。 (※他小説サイトに別タイトルで投稿してます)

忠犬ハジッコ

SoftCareer
児童書・童話
もうすぐ天寿を全うするはずだった老犬ハジッコでしたが、飼い主である高校生・澄子の魂が、偶然出会った付喪神(つくもがみ)の「夜桜」に抜き去られてしまいます。 「夜桜」と戦い力尽きたハジッコの魂は、犬の転生神によって、抜け殻になってしまった澄子の身体に転生し、奪われた澄子の魂を取り戻すべく、仲間達の力を借りながら奮闘努力する……というお話です。 ※今まで、オトナ向けの小説ばかり書いておりましたが、  今回は中学生位を読者対象と想定してチャレンジしてみました。  お楽しみいただければうれしいです。

悪魔さまの言うとおり~わたし、執事になります⁉︎~

橘花やよい
児童書・童話
女子中学生・リリイが、入学することになったのは、お嬢さま学校。でもそこは「悪魔」の学校で、「執事として入学してちょうだい」……って、どういうことなの⁉待ち構えるのは、きれいでいじわるな悪魔たち! 友情と魔法と、胸キュンもありの学園ファンタジー。 第2回きずな児童書大賞参加作です。

秘密

阿波野治
児童書・童話
住友みのりは憂うつそうな顔をしている。心配した友人が事情を訊き出そうとすると、みのりはなぜか声を荒らげた。後ろの席からそれを見ていた香坂遥斗は、みのりが抱えている謎を知りたいと思い、彼女に近づこうとする。

リュッ君と僕と

時波ハルカ
児童書・童話
“僕”が目を覚ますと、 そこは見覚えのない、寂れた神社だった。 ボロボロの大きな鳥居のふもとに寝かされていた“僕”は、 自分の名前も、ママとパパの名前も、住んでいたところも、 すっかり忘れてしまっていた。 迷子になった“僕”が泣きながら参道を歩いていると、 崩れかけた拝殿のほうから突然、“僕”に呼びかける声がした。 その声のほうを振り向くと…。 見知らぬ何処かに迷い込んだ、まだ小さな男の子が、 不思議な相方と一緒に協力して、 小さな冒険をするお話です。

化け猫ミッケと黒い天使

ひろみ透夏
児童書・童話
運命の人と出会える逢生橋――。 そんな言い伝えのある橋の上で、化け猫《ミッケ》が出会ったのは、幽霊やお化けが見える小学五年生の少女《黒崎美玲》。 彼女の家に居候したミッケは、やがて美玲の親友《七海萌》や、内気な級友《蜂谷優斗》、怪奇クラブ部長《綾小路薫》らに巻き込まれて、様々な怪奇現象を体験する。 次々と怪奇現象を解決する《美玲》。しかし《七海萌》の暴走により、取り返しのつかない深刻な事態に……。 そこに現れたのは、妖しい能力を持った青年《四聖進》。彼に出会った事で、物語は急展開していく。

処理中です...