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第五章 魔女の正体
黒幕
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「私がこの国に雪をふらせている理由。それは娘を人質に取られて、脅されているからです。ここに留まり、雪をふらせなければ、娘の命はないと言われています」
「娘を……人質に……?」
メアリが明かした理由に、総司が言葉をつまらせる。
目を丸くする総司にうなずき返しながら、メアリは表情をくもらせたまま話を続けた。
「もちろん、どのような理由があろうと、私のしていることは許されざること。それは、よくわかっています。――でも、私には娘を見殺しにすることができなかった」
メアリの頬を涙が伝う。
娘をさらわれた悲しみ、何もできない自分への怒り、王国の人々への罪悪感……。
メアリの涙には、そういった感情が押しこめられているように見える。
その姿を同情しつつも冷静にながめていたカイが、メアリに向かって問いかけた。
「……で、あんたの娘を人質に取ったヤツって、一体誰なんだ?」
「それは、私から話そう」
カイの疑問に答えたのは、メアリのとなりに座っていたアルバスだ。
「お前たちは、この国に伝わる昔話を知っているか?」
「当然だ。オーガたちをぶったおした四英雄の話だろ」
「そうだ。――メアリの娘、アイリスをさらったのは、その話に出てくるオーガの王バラムだ。バラムと手下のオーガたちは百年の時を経て、再びこのケセド王国にもどってきた。これは、バラムによる復讐の一端なのだ」
アルバスの言葉を聞いた三人が、息をのむ。
当然だ。まさか百年前の昔話が今回の事件にからんでくるなんて、予想外もいいところ。まさに寝耳に水というものだ。
「でも、どうしてバラムは回りくどいことを? メアリさんに雪をふらせて、ケセド王国の人々を苦しめるなんて、変です。百年前は直接国を襲っていたのに……」
総司がアルバスに向けて疑問を投げかける。
昔話から得たイメージと今のバラムの行動が、総司の中でどうしてもかみ合わないのだ。
バラムは、人間が苦しむ姿を見るのが好きと聞く。それほど残忍なオーガの王が、表に出ることなく他人を使って復讐を行うだろうか。むしろ自ら率先して暴れまわり、王国の人々が苦しむ姿をその目で見なければ、気がすまないのではないか。
総司には、そう思えて仕方かった。
そんな総司の考えを読み取ってか、アルバスが簡潔に答えを返してきた。
「バラムの復讐は、ケセド王国に対してだけではない。ヤツは、メアリとアイリスにも百年前の恨みをぶつけているのだ」
「ちょっと待ってください。何でバラムは、百年前の恨みをメアリさんたちにぶつけているんですか? バラムの復讐とメアリさんたちに、どんな関係があるっていうんですか!」
葵がバラムの理不尽さに怒りを見せる。
対してアルバスは、感情を押し殺した声でその理由を告げた。
「メアリとアイリスはオーガたちを倒した英雄の一人、大魔女マリアの子孫なのだ。つまり、バラムにとって彼女らは、これ以上ない復讐相手というわけだ」
努めて冷静に話そうとするアルバス。
だが、その言葉の端々から押さえ切れない怒りが見て取れる。バラムの理不尽に怒っているのは、アルバスも同じなのだ。
「バラムは、ケセド王国と英雄たちを逆恨みし、その両方に復讐する方法を考え続けていた。百年もの間、ただひたすらに……。そして、ついにやつは、ここへもどって来た」
心の奥から怒りがわき上がってくるのか、アルバスがさらに顔をゆがめる。彼はそのまま、はき捨てるように言葉を重ねていった。
百年もの間、復讐の方法を考え続けたバラムは一つの妙案を思いついたそうだ。それが英雄の子孫であるメアリを使い、ケセド王国を苦しめるというやり方だった。
ケセド王国が苦しみ末に滅びても良いし、メアリがケセド王国の人間に倒されても良い。バラムにとっては、どちらに転んでも恨みを晴らせる、愉快な遊びというわけだ。
「娘を……人質に……?」
メアリが明かした理由に、総司が言葉をつまらせる。
目を丸くする総司にうなずき返しながら、メアリは表情をくもらせたまま話を続けた。
「もちろん、どのような理由があろうと、私のしていることは許されざること。それは、よくわかっています。――でも、私には娘を見殺しにすることができなかった」
メアリの頬を涙が伝う。
娘をさらわれた悲しみ、何もできない自分への怒り、王国の人々への罪悪感……。
メアリの涙には、そういった感情が押しこめられているように見える。
その姿を同情しつつも冷静にながめていたカイが、メアリに向かって問いかけた。
「……で、あんたの娘を人質に取ったヤツって、一体誰なんだ?」
「それは、私から話そう」
カイの疑問に答えたのは、メアリのとなりに座っていたアルバスだ。
「お前たちは、この国に伝わる昔話を知っているか?」
「当然だ。オーガたちをぶったおした四英雄の話だろ」
「そうだ。――メアリの娘、アイリスをさらったのは、その話に出てくるオーガの王バラムだ。バラムと手下のオーガたちは百年の時を経て、再びこのケセド王国にもどってきた。これは、バラムによる復讐の一端なのだ」
アルバスの言葉を聞いた三人が、息をのむ。
当然だ。まさか百年前の昔話が今回の事件にからんでくるなんて、予想外もいいところ。まさに寝耳に水というものだ。
「でも、どうしてバラムは回りくどいことを? メアリさんに雪をふらせて、ケセド王国の人々を苦しめるなんて、変です。百年前は直接国を襲っていたのに……」
総司がアルバスに向けて疑問を投げかける。
昔話から得たイメージと今のバラムの行動が、総司の中でどうしてもかみ合わないのだ。
バラムは、人間が苦しむ姿を見るのが好きと聞く。それほど残忍なオーガの王が、表に出ることなく他人を使って復讐を行うだろうか。むしろ自ら率先して暴れまわり、王国の人々が苦しむ姿をその目で見なければ、気がすまないのではないか。
総司には、そう思えて仕方かった。
そんな総司の考えを読み取ってか、アルバスが簡潔に答えを返してきた。
「バラムの復讐は、ケセド王国に対してだけではない。ヤツは、メアリとアイリスにも百年前の恨みをぶつけているのだ」
「ちょっと待ってください。何でバラムは、百年前の恨みをメアリさんたちにぶつけているんですか? バラムの復讐とメアリさんたちに、どんな関係があるっていうんですか!」
葵がバラムの理不尽さに怒りを見せる。
対してアルバスは、感情を押し殺した声でその理由を告げた。
「メアリとアイリスはオーガたちを倒した英雄の一人、大魔女マリアの子孫なのだ。つまり、バラムにとって彼女らは、これ以上ない復讐相手というわけだ」
努めて冷静に話そうとするアルバス。
だが、その言葉の端々から押さえ切れない怒りが見て取れる。バラムの理不尽に怒っているのは、アルバスも同じなのだ。
「バラムは、ケセド王国と英雄たちを逆恨みし、その両方に復讐する方法を考え続けていた。百年もの間、ただひたすらに……。そして、ついにやつは、ここへもどって来た」
心の奥から怒りがわき上がってくるのか、アルバスがさらに顔をゆがめる。彼はそのまま、はき捨てるように言葉を重ねていった。
百年もの間、復讐の方法を考え続けたバラムは一つの妙案を思いついたそうだ。それが英雄の子孫であるメアリを使い、ケセド王国を苦しめるというやり方だった。
ケセド王国が苦しみ末に滅びても良いし、メアリがケセド王国の人間に倒されても良い。バラムにとっては、どちらに転んでも恨みを晴らせる、愉快な遊びというわけだ。
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