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第五章 魔女の正体
狼
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「きゃあああああああああっ!」
来た道の先から聞こえたのは、女の子の悲鳴だった。
「今の悲鳴……」
「アオイに何かあったんだ。急ごう、カイ!」
顔を見合わせた総司とカイが、きびすを返した。
森を矢のように抜け、総司とカイは原っぱを目指す。途中、木の枝で腕や頬を切りながらも、二人はスピードを落とすことなく原っぱに飛び出した。
「なっ!」
「これは……」
開けた視界の先、カイと総司が見たのは恐るべき光景だった。
なんと熊よりも大きな白い狼が、葵に襲いかかっていたのだ。狼はあおむけに倒れた葵の上に前足を置き、葵が起き上がれないようにしている。
「アオイを離せ!」
カイが剣を抜いて、狼の方に向けながら近づいて行く。総司もふところから短刀を取り出し、カイに続いた。
すると……。
「落ち着け。私は、お前たちに危害を加えるつもりはない」
カイと総司を青い目で見据えた狼が、重々しい口調で人の言葉を発した。
「お、狼がしゃべった」
総司がぼう然とした様子でつぶやく。カイもまさかの事態に、目を丸くしていた。
狼が口を利くなど、予想外の出来事だ。おどろきのあまり、二人の足が自然と止まった。
「そうだ、それでいい。……いいか、人間の子供たちよ。今すぐ、ここから立ち去るのだ。そうすれば、この娘も返すし、お前たちにも危害を加えないことを約束しよう」
「お前は一体何者だ! 魔女の仲間か!」
我に返ったカイが、剣を向けたまま、狼に問いつめる。その目には、強い敵意がうかんでいた。
対して、狼は冷静だ。理知的な青い瞳に猛るカイの姿を映しながら、狼は一つうなずく。
「いかにも。私は、お前たちが魔女と呼ぶ者の古き友だ」
「それなら、お前の言う通りにすることはできない。アオイを助けて、オレたちは魔女を倒しに行く。――この国の人々と、オレの母さんを助けるために!」
カイが母のことを口にした瞬間、わずかだが狼の表情が辛そうにゆがむ。
しかし、その表情はすぐに消え去った。代わりに狼は、牙をむいた怒りの表情をカイと総司に向ける。
「そうか、私の言うことが聞けぬか……。ならば、お前たちを今ここで食い殺してくれるわ!」
「そんなことさせねぇ! お前なんか、オレが退治してやる!」
狼へ言い返しながら、カイは右手一本で持っていた剣に左手をそえた。彼は足にも力をこめ、いつでも突っこめるような構えを取る。
一方、狼もわずかに前傾姿勢となってカイの攻撃に備えている。
カイと狼の間で、張りつめるような緊張感が満ちていく。
そして、一人と一匹の緊張がピークに達した瞬間……。
「いくぞ!」
カイがかけ声とともに、地面をけった。剣を振りかぶり、狼へ先制攻撃を仕掛ける。
――だが。
「カイ、待って!」
その刹那、葵の声がその動きを止めた。機先をそらされたカイが立ち止まったことで、両者の間にあった緊張の糸がわずかにゆるむ。
「何で止めるんだ、アオイ!」
「カイ、落ち着いて! ここは、わたしに任せて!」
カイの方を見て、葵が真剣な声音で告げる。
葵には、何か考えがあるのだろう。
彼女の言葉を信じたカイは、狼を警戒しつつも飛び出す構えを解いた。
カイが剣を下げるのを確認し、葵は踏み敷かれたまま狼を見上げた。
「狼さん、どうしてあなたはわたしたちをすぐに倒さないで、追い返そうとするの? このまま帰したら、大人たちをたくさん連れてくるかもしれないのに」
真っ直ぐに狼の青い目を見つめ、アオイが問いかける。
すると、黙ってことの成り行きを見守っていた狼が、口を開いた。
来た道の先から聞こえたのは、女の子の悲鳴だった。
「今の悲鳴……」
「アオイに何かあったんだ。急ごう、カイ!」
顔を見合わせた総司とカイが、きびすを返した。
森を矢のように抜け、総司とカイは原っぱを目指す。途中、木の枝で腕や頬を切りながらも、二人はスピードを落とすことなく原っぱに飛び出した。
「なっ!」
「これは……」
開けた視界の先、カイと総司が見たのは恐るべき光景だった。
なんと熊よりも大きな白い狼が、葵に襲いかかっていたのだ。狼はあおむけに倒れた葵の上に前足を置き、葵が起き上がれないようにしている。
「アオイを離せ!」
カイが剣を抜いて、狼の方に向けながら近づいて行く。総司もふところから短刀を取り出し、カイに続いた。
すると……。
「落ち着け。私は、お前たちに危害を加えるつもりはない」
カイと総司を青い目で見据えた狼が、重々しい口調で人の言葉を発した。
「お、狼がしゃべった」
総司がぼう然とした様子でつぶやく。カイもまさかの事態に、目を丸くしていた。
狼が口を利くなど、予想外の出来事だ。おどろきのあまり、二人の足が自然と止まった。
「そうだ、それでいい。……いいか、人間の子供たちよ。今すぐ、ここから立ち去るのだ。そうすれば、この娘も返すし、お前たちにも危害を加えないことを約束しよう」
「お前は一体何者だ! 魔女の仲間か!」
我に返ったカイが、剣を向けたまま、狼に問いつめる。その目には、強い敵意がうかんでいた。
対して、狼は冷静だ。理知的な青い瞳に猛るカイの姿を映しながら、狼は一つうなずく。
「いかにも。私は、お前たちが魔女と呼ぶ者の古き友だ」
「それなら、お前の言う通りにすることはできない。アオイを助けて、オレたちは魔女を倒しに行く。――この国の人々と、オレの母さんを助けるために!」
カイが母のことを口にした瞬間、わずかだが狼の表情が辛そうにゆがむ。
しかし、その表情はすぐに消え去った。代わりに狼は、牙をむいた怒りの表情をカイと総司に向ける。
「そうか、私の言うことが聞けぬか……。ならば、お前たちを今ここで食い殺してくれるわ!」
「そんなことさせねぇ! お前なんか、オレが退治してやる!」
狼へ言い返しながら、カイは右手一本で持っていた剣に左手をそえた。彼は足にも力をこめ、いつでも突っこめるような構えを取る。
一方、狼もわずかに前傾姿勢となってカイの攻撃に備えている。
カイと狼の間で、張りつめるような緊張感が満ちていく。
そして、一人と一匹の緊張がピークに達した瞬間……。
「いくぞ!」
カイがかけ声とともに、地面をけった。剣を振りかぶり、狼へ先制攻撃を仕掛ける。
――だが。
「カイ、待って!」
その刹那、葵の声がその動きを止めた。機先をそらされたカイが立ち止まったことで、両者の間にあった緊張の糸がわずかにゆるむ。
「何で止めるんだ、アオイ!」
「カイ、落ち着いて! ここは、わたしに任せて!」
カイの方を見て、葵が真剣な声音で告げる。
葵には、何か考えがあるのだろう。
彼女の言葉を信じたカイは、狼を警戒しつつも飛び出す構えを解いた。
カイが剣を下げるのを確認し、葵は踏み敷かれたまま狼を見上げた。
「狼さん、どうしてあなたはわたしたちをすぐに倒さないで、追い返そうとするの? このまま帰したら、大人たちをたくさん連れてくるかもしれないのに」
真っ直ぐに狼の青い目を見つめ、アオイが問いかける。
すると、黙ってことの成り行きを見守っていた狼が、口を開いた。
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