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第三章 百年前の英雄
突然の手紙
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「じいちゃん、薪割り終わったぞ!」
「――ああ、ありがとう……」
薪割りを終えたカイと総司が家に入ると、いつもおだやかな表情をしているヘンリーが険しい顔をして二人を出迎えた。その手には、一通の手紙がにぎられている。
ヘンリーのただならぬ雰囲気に、総司とカイはどうしたのだろうと目を見合わせた。
「カイ、ちょっとこっちに来なさい」
「なんだ? どうしたんだよ、じいちゃん」
軽い調子で聞き返しながら、カイがヘンリーに歩み寄る。だが、ヘンリーの表情は変わらず、固いままだった。
「あ、ぼくは部屋にもどりますね……」
「すまないね。ありがとう、ソウジ君」
何となく自分がここにいるべきではないと察し、総司が部屋を出ていく。総司が二階に上がっていったのを見届けて、ヘンリーはカイへ持っていた手紙を差し出した。
「先ほど、お前の父さんから手紙が来た」
「父さんからの手紙! 二か月ぶりだな。何て書いてあったんだよ、じいちゃん。父さんたち、元気なのか?」
父親からの手紙と聞いて、カイが喜びの表情を見せる。
だが、そんなカイとは対照的に、ヘンリーの顔色はどんどん暗くなっていく。
「……どうしたんだよ、じいちゃん」
祖父の表情に、よからぬ気配を感じたのだろう。カイがとまどいながら、ヘンリーに尋ねる。
対してヘンリーは絞り出すような声音で、こう答えた。
「手紙によると……お前の母さんが倒れたそうだ」
「え……?」
母親が倒れた。
ヘンリーから聞かされた思いがけない言葉に、カイの表情が凍りつく。しかし、すぐ我に返り、カイは必死な顔をしてヘンリーにつめ寄る。
「母さんが倒れたってどういうことだよ。母さん、大丈夫なのか?」
「とりあえず、すぐにどうこうということはないようだ。だが、この寒さに加えて、今は何かと物不足だ。病気がどれだけ長引くかわからんし、場合によっては……」
ヘンリーが、窓の外を悲しそうな顔でながめる。言葉にはしなかったが、カイにはヘンリーが言いたいことがわかった。
それほど、カイの母親は危ない状態なのだ。
「だったら……」
「カイ?」
下を向いたカイが、何かをつぶやいた。
ただ、それはあまりにも小さな声だ。何と言ったのか聞き取れず、ヘンリーが眉をひそめて聞き返す。
すると、カイが顔を上げて、大きな声でさけんだ。
「だったら、今からオレが森の魔女を倒してくる! そうすれば、雪もやんで寒くなくなる。行商人も来て、物不足もなくなる。母さんの体調も良くなるかもしれない!」
「バカなことを言うな! お前はまだ子供なんだぞ。それに、騎士団でもダメだったことを、お前一人でどうにかできるわけがないだろう!」
カイに負けない大声で、ヘンリーがどなる。
普段、声を荒らげることのないヘンリーの強い怒声に、カイが驚きの表情を見せた。
しかし、こうなっては売り言葉に買い言葉だ。頭に血を上らせたカイは、すぐさまヘンリーにどなり返した。
「でも、オレはこのまま何もせずにいるなんてできないよ!」
「とにかく、魔女を倒しに行くなんて、やめるんだ。そういうことは、騎士団に――大人に任せておけばいい」
「いやだ! オレは絶対に行くんだ!」
「そんなことはわしが許さん! お前にもしものことがあったら、わしはお前の父さんと母さんに顔向けできん!」
カイが何と言っても、ヘンリーは頑としてゆずらない。
カイを危険な目に合わせたくない。この子だけは、自分が命に代えても守る。
ヘンリーの目からは、そんな思いが痛いほど見て取れた。
(でも、それでもオレは……)
カイにしても、ヘンリーの思いは十分に理解している。ヘンリーは、カイのことを心配して止めてくれているのだ。
しかし、母親の話を聞いた今、カイもだまっていることはできなかった。
「じいちゃんのわからず屋!」
最後にそう言い残し、カイは家から飛び出したのだった。
「――ああ、ありがとう……」
薪割りを終えたカイと総司が家に入ると、いつもおだやかな表情をしているヘンリーが険しい顔をして二人を出迎えた。その手には、一通の手紙がにぎられている。
ヘンリーのただならぬ雰囲気に、総司とカイはどうしたのだろうと目を見合わせた。
「カイ、ちょっとこっちに来なさい」
「なんだ? どうしたんだよ、じいちゃん」
軽い調子で聞き返しながら、カイがヘンリーに歩み寄る。だが、ヘンリーの表情は変わらず、固いままだった。
「あ、ぼくは部屋にもどりますね……」
「すまないね。ありがとう、ソウジ君」
何となく自分がここにいるべきではないと察し、総司が部屋を出ていく。総司が二階に上がっていったのを見届けて、ヘンリーはカイへ持っていた手紙を差し出した。
「先ほど、お前の父さんから手紙が来た」
「父さんからの手紙! 二か月ぶりだな。何て書いてあったんだよ、じいちゃん。父さんたち、元気なのか?」
父親からの手紙と聞いて、カイが喜びの表情を見せる。
だが、そんなカイとは対照的に、ヘンリーの顔色はどんどん暗くなっていく。
「……どうしたんだよ、じいちゃん」
祖父の表情に、よからぬ気配を感じたのだろう。カイがとまどいながら、ヘンリーに尋ねる。
対してヘンリーは絞り出すような声音で、こう答えた。
「手紙によると……お前の母さんが倒れたそうだ」
「え……?」
母親が倒れた。
ヘンリーから聞かされた思いがけない言葉に、カイの表情が凍りつく。しかし、すぐ我に返り、カイは必死な顔をしてヘンリーにつめ寄る。
「母さんが倒れたってどういうことだよ。母さん、大丈夫なのか?」
「とりあえず、すぐにどうこうということはないようだ。だが、この寒さに加えて、今は何かと物不足だ。病気がどれだけ長引くかわからんし、場合によっては……」
ヘンリーが、窓の外を悲しそうな顔でながめる。言葉にはしなかったが、カイにはヘンリーが言いたいことがわかった。
それほど、カイの母親は危ない状態なのだ。
「だったら……」
「カイ?」
下を向いたカイが、何かをつぶやいた。
ただ、それはあまりにも小さな声だ。何と言ったのか聞き取れず、ヘンリーが眉をひそめて聞き返す。
すると、カイが顔を上げて、大きな声でさけんだ。
「だったら、今からオレが森の魔女を倒してくる! そうすれば、雪もやんで寒くなくなる。行商人も来て、物不足もなくなる。母さんの体調も良くなるかもしれない!」
「バカなことを言うな! お前はまだ子供なんだぞ。それに、騎士団でもダメだったことを、お前一人でどうにかできるわけがないだろう!」
カイに負けない大声で、ヘンリーがどなる。
普段、声を荒らげることのないヘンリーの強い怒声に、カイが驚きの表情を見せた。
しかし、こうなっては売り言葉に買い言葉だ。頭に血を上らせたカイは、すぐさまヘンリーにどなり返した。
「でも、オレはこのまま何もせずにいるなんてできないよ!」
「とにかく、魔女を倒しに行くなんて、やめるんだ。そういうことは、騎士団に――大人に任せておけばいい」
「いやだ! オレは絶対に行くんだ!」
「そんなことはわしが許さん! お前にもしものことがあったら、わしはお前の父さんと母さんに顔向けできん!」
カイが何と言っても、ヘンリーは頑としてゆずらない。
カイを危険な目に合わせたくない。この子だけは、自分が命に代えても守る。
ヘンリーの目からは、そんな思いが痛いほど見て取れた。
(でも、それでもオレは……)
カイにしても、ヘンリーの思いは十分に理解している。ヘンリーは、カイのことを心配して止めてくれているのだ。
しかし、母親の話を聞いた今、カイもだまっていることはできなかった。
「じいちゃんのわからず屋!」
最後にそう言い残し、カイは家から飛び出したのだった。
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