白紙の本の物語

日野 祐希

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第二章 雪の国

これからのこと

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 食事を終えて部屋にもどった総司と葵。
 窓の外は、すっかり真っ暗だ。二人は明かりをつけたランプを間に置いて、今後のことを話し合っていた。

「やっぱりぼくは、ここがあの白紙の本の中だと思うんだ」

「うん。わたしもそう思う。でもそれなら、わたしたちはちゃんと元の世界に帰れるの? もしかしたらわたしたち、このまま……」

 ここが本の中の世界だということは、二人とも何となく理解していた。
 だが、それがわかったところで、帰り方がわかるわけではない。昼間は色々あって深く考えずにいられたが、こうやって落ち着いてしまうと恐怖が先に立つ。
 このまま家に帰れないのではないか。そんな不安が見え隠れする表情で、葵はうつむく。

「大丈夫だよ、葵。ぼくたちはきっと帰れるよ」

「どうしてそんなことが言えるの?」

「ぼくたちがこの世界に来る前に聞こえた、あの声。あれがきっとヒントなんだ」

「あの声って、あの頭の中に聞こえてきた、『物語をつむぎ直して』ってやつ?」

 首をかしげた葵に、総司がコクリとうなずく。彼はそのまま「ぼく、ちょっと考えていたんだけどさ……」と話を切り出した。

「あの本は、何らかの理由で自分の物語を忘れちゃったんじゃないかな。だから、自分の物語を思い出すために、ぼくらを物語の世界に招いた」

「そうね。そうかもしれない。でも、それがどうしたの?」

「だったらさ、この本が物語を思い出したら、ぼくらはこの世界に入らなくなる。そしたら、ぼくらも元の世界に戻れるんじゃないかな」

 そう言って、総司が葵にほほ笑む。
 知らない世界に放りこまれて、総司だって内心では心細い。しかし、それでも総司は葵を安心させるように笑うのだ。
 自分たちは一人きりじゃない。二人ならきっと乗りこえられる。そう葵に伝えるように。

「ソージ……。うん、そうね。二人できっと帰りましょう」

 そして、総司が笑顔に託した思いは、葵にもしっかり伝わったようだ。葵の顔から、少しだけ不安の色が消えた。

「でね、ぼくはやっぱり、カイが何かカギをにぎっていると思うんだ。ぼくたちとカイが出合ったのは、きっと偶然じゃない。だから、もう少し様子を見てみるべきだと思う」

「なるほど……。うん、そうね。わたしもソージの意見に賛成」

「よし! これからの方針も決まったことだし、今日はもう寝よう。色々あって、今日はつかれたよ」

 これからどうするか決まったことで、緊張の糸が解けたのだろう。総司が「ふぁ~」と大きなあくびをした。

「あはは。私も眠たいかも。――それにしても、ソージと同じ部屋で寝るのって、すごく久しぶりだね」

「小学校の低学年くらいまでは、よくお互いの家に泊まったりしていたけどね」

「最近は、そういうこともしなくなったもんね。そう考えると、こういうのも林間学校みたいでなんか楽しいかも」

 ベッドに入った葵が、ニッコリと笑う。不安が薄らいで、葵もいつもの調子がもどってきたようだ。

「そうだね。せっかく本の中に来たんだ。楽しんでいこう。――さてと、それじゃあ明かりを消すよ」

「うん、わかった。おやすみ、ソージ。」

「おやすみ、アオイ」

 ランプの明かりを消し、総司も布団の中へもぐりこむ。
 完全につかれ切っていた二人は、すぐに深い眠りへと落ちていったのだった。
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