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最終話 ~冬~ え? 神様方が地獄分館を取り潰そうとしている? ウフフ……。ならば私が、彼らに身の程というものを教えてあげるとしましょう。
何が目的でしょう。
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久延毘古氏のあまりにも予想外な発言に、その場にいた全員が揃って首を傾げました。
さすがの伊邪那美様も、大きなお目々をパチクリさせています。
「……ああ、すまん。――久延毘古、どういうことか聞かせてもらっても良いかのう。お前のことじゃから、宏美に同情して、というわけではあるまい」
「無論です。私はそのような情けを掛けるほど、甘くありません」
能天気モードから真面目モードへと表情を変え(最初からそうすればいいのに……)、伊邪那美様が無表情の久延毘古氏に問いかけます。それに便乗するように、私も疑いの眼差しを鉄面皮へ向けました。
正直に言って、この性悪インテリが素直に負けを認めるなんて、気持ち悪いことこの上ありません。人を見たら詐欺師と思えと言いますからね。
この狸オヤジ、何か腹の底で企んでいるのではないでしょうか。
(ただ……取り巻き達の様子が少しおかしいですね)
彼の周りで商議員の豚共は「久延毘古様、一体何を……」とか言って、みっともなく慌てています。この慌て様は、絶対に演技ではありません。猫被り――いえ、演技のプロである私が言うのだから、間違いないです。
ということは、久延毘古氏の敗北宣言も罠というわけではないのでしょうか?
むむむ……。余計に久延毘古氏の目的がわからなくなってきました。本当に何がしたいのでしょうか、このイカレポンチ。
「同情ではないと言うのなら、一体どういうつもりじゃ? 何をもって、自らの負けを認める?」
言葉数少ない久延毘古氏に、伊邪那美様はその真意を問い質します。
「別に大したことではありません。――私は依頼を遂行することができなかった。だから負けを認めただけのことです」
「遂行できなかった? 妙なことを言うのう。お主はちゃんと依頼の本を調べ上げたではないか」
久延毘古氏の淡々とした回答に、伊邪那美様がきょとんとした様子で首を傾げます。
(…………。……ああ、なるほど。そういうことですか)
私には彼が何で負けを認めたのか、何となくわかってきましたよ。
どうやらこのオッサン、どこまでも完璧主義な上に超プライドが高いようです。
「今回の依頼は調べた上で『本を利用者に提供する』というものでした。つまり、今回の依頼は現物を持って来て初めて正解と言えます。本館に一冊しかないその本を確保できず、資料を調べ上げるだけに終わった私は……依頼を十分に果たしたと言えないでしょう」
理路整然と理由を述べ、最後に「協力してくれた商議員諸兄には申し訳ないが、私はレファレンスに置いて一切の妥協を認めたくありません」と付け加える久延毘古氏。
やっぱりというか、何というか……。この神様は本当に四面四角で融通の利かない堅物ですね。そんなこと、黙っておけばいいものを……。
ですが――フフフ……。いいですよ、久延毘古氏。その若干ドン引きする程のレファレンス愛を、もっとぶちまけなさい。そして、そのまま伊邪那美様を説き伏せるのです!
フレー、フレー、久・延・毘・古!
ああ……。つい数分前まではあの堅物ぶりが憎たらしくて仕方ありませんでしたが、今この瞬間に限れば実に素晴らしいですね。堅物、最高!
さあ、伊邪那美様。この頑固一徹な石頭――いえ、高潔で気高い神様の意見を聞き入れ、今回の勝負のケリをつけてしまいましょう!
「なるほどのう。まあ、当事者であるお前がそうまで言うなら、止めるのも野暮というものじゃろうな……。――うむ! 相分かった」
おお! 伊邪那美様が拍子抜けするぐらいあっさりと、首を縦に振りました。
この女神様、やっぱり単純です。
直情径行、バンザイ!
これは決着と私の勝利の時がきましたか?
さすがの伊邪那美様も、大きなお目々をパチクリさせています。
「……ああ、すまん。――久延毘古、どういうことか聞かせてもらっても良いかのう。お前のことじゃから、宏美に同情して、というわけではあるまい」
「無論です。私はそのような情けを掛けるほど、甘くありません」
能天気モードから真面目モードへと表情を変え(最初からそうすればいいのに……)、伊邪那美様が無表情の久延毘古氏に問いかけます。それに便乗するように、私も疑いの眼差しを鉄面皮へ向けました。
正直に言って、この性悪インテリが素直に負けを認めるなんて、気持ち悪いことこの上ありません。人を見たら詐欺師と思えと言いますからね。
この狸オヤジ、何か腹の底で企んでいるのではないでしょうか。
(ただ……取り巻き達の様子が少しおかしいですね)
彼の周りで商議員の豚共は「久延毘古様、一体何を……」とか言って、みっともなく慌てています。この慌て様は、絶対に演技ではありません。猫被り――いえ、演技のプロである私が言うのだから、間違いないです。
ということは、久延毘古氏の敗北宣言も罠というわけではないのでしょうか?
むむむ……。余計に久延毘古氏の目的がわからなくなってきました。本当に何がしたいのでしょうか、このイカレポンチ。
「同情ではないと言うのなら、一体どういうつもりじゃ? 何をもって、自らの負けを認める?」
言葉数少ない久延毘古氏に、伊邪那美様はその真意を問い質します。
「別に大したことではありません。――私は依頼を遂行することができなかった。だから負けを認めただけのことです」
「遂行できなかった? 妙なことを言うのう。お主はちゃんと依頼の本を調べ上げたではないか」
久延毘古氏の淡々とした回答に、伊邪那美様がきょとんとした様子で首を傾げます。
(…………。……ああ、なるほど。そういうことですか)
私には彼が何で負けを認めたのか、何となくわかってきましたよ。
どうやらこのオッサン、どこまでも完璧主義な上に超プライドが高いようです。
「今回の依頼は調べた上で『本を利用者に提供する』というものでした。つまり、今回の依頼は現物を持って来て初めて正解と言えます。本館に一冊しかないその本を確保できず、資料を調べ上げるだけに終わった私は……依頼を十分に果たしたと言えないでしょう」
理路整然と理由を述べ、最後に「協力してくれた商議員諸兄には申し訳ないが、私はレファレンスに置いて一切の妥協を認めたくありません」と付け加える久延毘古氏。
やっぱりというか、何というか……。この神様は本当に四面四角で融通の利かない堅物ですね。そんなこと、黙っておけばいいものを……。
ですが――フフフ……。いいですよ、久延毘古氏。その若干ドン引きする程のレファレンス愛を、もっとぶちまけなさい。そして、そのまま伊邪那美様を説き伏せるのです!
フレー、フレー、久・延・毘・古!
ああ……。つい数分前まではあの堅物ぶりが憎たらしくて仕方ありませんでしたが、今この瞬間に限れば実に素晴らしいですね。堅物、最高!
さあ、伊邪那美様。この頑固一徹な石頭――いえ、高潔で気高い神様の意見を聞き入れ、今回の勝負のケリをつけてしまいましょう!
「なるほどのう。まあ、当事者であるお前がそうまで言うなら、止めるのも野暮というものじゃろうな……。――うむ! 相分かった」
おお! 伊邪那美様が拍子抜けするぐらいあっさりと、首を縦に振りました。
この女神様、やっぱり単純です。
直情径行、バンザイ!
これは決着と私の勝利の時がきましたか?
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