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最終話 ~冬~ え? 神様方が地獄分館を取り潰そうとしている? ウフフ……。ならば私が、彼らに身の程というものを教えてあげるとしましょう。

勝ちに行きましょう。

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「さて、最後の依頼は……ふむふむ。あらすじだけ覚えている本を読みたいので探してほしい、ですか」

 これは、ド直球なレファレンスが来ましたね。
 多分この依頼が、伊邪那美いざなみ様から私への試練ということなのでしょう。

(私の力を試すための課題……。いいでしょう。この依頼、私が華麗に解いて差し上げます)

 依頼者が覚えていたあらすじを一読して頭へ叩き込み、準備完了。

(さあ、それでは私も行きましょうか)

 ――と、その時です。

「……いい加減にしたまえ!」

「わ~!」

「きゃ~!」

「ほわ~!」

 子鬼三兄弟が、ポンポンポーンと私の足元へ飛んできました。
 彼らが飛んできた方を見れば、久延毘古くえびこ氏がオリンピックの短距離選手並みのダッシュで大会議室から去っていきます。あれはちょっと、追いつけそうにありませんね。

(ううむ……。腐っても商議員のボス猿。やはり最後まで足止めしておくことは不可能でしたか)

 心の中で、一人唸ります。
 まあ、白仙さんチームと閻魔様チームはすでに探索を開始していますし、私もすぐに出発です。加えて、久延毘古氏以外の商議員共は子鬼さん方ががっちりくれています。
 勝利への道筋を立てる時間を十分に稼げたという意味では、上出来といったところでしょう。

(さて、それではまともに勝負するとしましょうかね)

 あのムッツリ商議員長に一番屈辱的なダメージを与えるにはどうすればいいか。
 そんなのは当然、彼お得意のレファレンスで完勝するのが一番です。

 つまり、ここからは下手な妨害工作に時間を割くよりもさっさと依頼をクリアし、勝利確定してしまう方が得策でしょう。
 その上で、息を切らして依頼をこなしてきたあのクサレ商議員長を涼しい顔と拍手で迎え、「久延毘古様、無駄な努力ご苦労様です♪」と心の底から労ってやるのです。 

(ああ……。私に笑顔で出迎えられ、色んな意味で涙する久延毘古氏の表情……。――ふむ。ものすごく見ものですよ、これ!)

 思わず恍惚とした表情になってしまいます。
 ヤバ過ぎますね、涙しながら這いつくばる久延毘古氏。私、その映像を見るだけで、毎日お茶碗三杯はいけそうです。
 今から撮影機材を借りて、フルハイビジョンで録画する準備をした方がいいかもしれません。

(――って、おっといけない。撮影機材の前に、まずはレファレンスですね)

 逸る気持ちを抑え付け、まずは目の前の依頼に集中します。これが終わらないことには、勝利が確定しませんからね。さっさと片付けて、ビデオカメラやら何やらを借りてくることにしましょう。
 さあ、甘美な未来に向かってレッツゴーです!

「とまとさん、ちーずさん、ばじるさん、足止めご苦労様でした。ですが、休んでいる時間はありませんよ。三人とも、まだまだ元気ですか?」

「「「いえ~い!」」」

 ぴょこりと立ち上がった三兄弟が、可愛らしくVサインをしてくれます。この子達、見かけに似合わず体力無尽蔵ですからね。まだまだ元気いっぱいです。

「良いお返事です。それじゃあ私達も本を探しに行きますよ」

「「「お~!」」」

 もはや遠足ムードの子鬼三兄弟を引き連れ、私も遅ればせながら、いまだに阿鼻叫喚の大会議室を後にするのでした。
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