40 / 77
第三話 ~秋~ 獄卒方、読書の秋って知っていますか? ――え? 知らない? なら、私がその身に叩き込んで差し上げます。
おはなし会を始めましょう。
しおりを挟む
10月27日。読書週間の一日目。
「これより黄泉国立図書館地獄分館主催の読書週間企画、おはなし会を始めます」
――パチパチパチ……。
おはなし会の会場、地獄裁判所の多目的室にまばらな拍手が響きました。
読書週間の前半、27日から31日までの平日五日間は、おはなし会の開催期間となっています。この期間は終業後に毎日、おはなし会を開く予定です。
以前も話した通り、地獄の住人はとことん本と縁遠い生活を送っていますからね。いきなり「本を読め!」と言っても、読書の下地がない彼らにそれは無理な話です。せいぜい本を枕にして、居眠りし始めるのが関の山でしょう。時々、聖良布夢さんもやっていますし。
そこで、このおはなし会の出番です。自分で本を読めない人でも、おはなしを聞くことならできますからね。――ええ、できるはずです。私、獄卒の皆さんを信じています。あなた達は、やればできる子です。……裏切らないでくださいね、私の期待。
まあ、仮に「できない」と言われても聞かせますけど……。そのために、実行委員の皆さんにあれやこれや準備してもらったのですからね♪
――と、それは置いといて……。
要するにこのおはなし会は、獄卒方が本や物語と触れ合う機会を作ることが目的なのです。正に千里の道も一歩からですね。
できないなんて諦めずに、小さなことからコツコツ積み上げる。大事なことです。私は天才肌なので、こんな面倒くさい努力をしたことはありませんが。
本日の参加者は、大体六十人。無作為抽出された職員の、およそ五分の一です。
兼定さんや元不良コンビと同じ人間タイプ、とまとさん達と同じ子鬼タイプ、他にもステレオタイプの赤鬼・青鬼など、色んな鬼が一堂に会しています。おかげで会場は、鬼の博覧会といった様相ですね。ある意味、壮観です。
ちなみに今回の読書週間へ参加することになった職員は、この五日間のどこかで必ず一回、おはなし会に来てもらう予定です。
なお、おはなし会の欠席は許されません。というか、許しません。万が一サボりが発覚した日には……ウフフフフ……。
――おっと、いけない。
今は、おはなし会に集中しなければいけませんね。
私は、本日の参加者である社蓄の皆さんへ、最高の営業スマイルでふわりと微笑みかけました。
「今回のおはなし会で朗読するのは、『こぶとり爺さん』『泣いた赤鬼』『恐山のおどり鬼』の三作品です。皆さんに親しみを持ってもらえるよう、鬼が登場する作品をチョイスしました。最後まで楽しんでくださいね」
再び、パチパチパチ、とまばらな拍手が起こります。
なお、拍手をしてくれているのは、もっぱら子鬼タイプの鬼さん達です。うちの子鬼三兄弟もそうですが、子鬼さん方は素直ないい子が多いようですね。今回のおはなし会も積極的に参加してくれています。
(だというのに……)
首をめぐらせ、子鬼さん方以外に目を向けます。
他の鬼さん達は仕事終わりに妙な催しに付き合わされて、テンションダウン状態といったところなのでしょうか。大人しく椅子には座っていますが、全員心底つまらなそうな顔をしています。
フフフ。私を前にしていい度胸していますね、この社蓄ども。
まあいいです。終わる頃には、涙を流しながら拍手喝采させてやります。
「では、『こぶとり爺さん』から始めましょうか。――昔々、あるところに……」
民話集を片手に、私はよく通る素敵なソプラノボイスで朗読を始めました。
「これより黄泉国立図書館地獄分館主催の読書週間企画、おはなし会を始めます」
――パチパチパチ……。
おはなし会の会場、地獄裁判所の多目的室にまばらな拍手が響きました。
読書週間の前半、27日から31日までの平日五日間は、おはなし会の開催期間となっています。この期間は終業後に毎日、おはなし会を開く予定です。
以前も話した通り、地獄の住人はとことん本と縁遠い生活を送っていますからね。いきなり「本を読め!」と言っても、読書の下地がない彼らにそれは無理な話です。せいぜい本を枕にして、居眠りし始めるのが関の山でしょう。時々、聖良布夢さんもやっていますし。
そこで、このおはなし会の出番です。自分で本を読めない人でも、おはなしを聞くことならできますからね。――ええ、できるはずです。私、獄卒の皆さんを信じています。あなた達は、やればできる子です。……裏切らないでくださいね、私の期待。
まあ、仮に「できない」と言われても聞かせますけど……。そのために、実行委員の皆さんにあれやこれや準備してもらったのですからね♪
――と、それは置いといて……。
要するにこのおはなし会は、獄卒方が本や物語と触れ合う機会を作ることが目的なのです。正に千里の道も一歩からですね。
できないなんて諦めずに、小さなことからコツコツ積み上げる。大事なことです。私は天才肌なので、こんな面倒くさい努力をしたことはありませんが。
本日の参加者は、大体六十人。無作為抽出された職員の、およそ五分の一です。
兼定さんや元不良コンビと同じ人間タイプ、とまとさん達と同じ子鬼タイプ、他にもステレオタイプの赤鬼・青鬼など、色んな鬼が一堂に会しています。おかげで会場は、鬼の博覧会といった様相ですね。ある意味、壮観です。
ちなみに今回の読書週間へ参加することになった職員は、この五日間のどこかで必ず一回、おはなし会に来てもらう予定です。
なお、おはなし会の欠席は許されません。というか、許しません。万が一サボりが発覚した日には……ウフフフフ……。
――おっと、いけない。
今は、おはなし会に集中しなければいけませんね。
私は、本日の参加者である社蓄の皆さんへ、最高の営業スマイルでふわりと微笑みかけました。
「今回のおはなし会で朗読するのは、『こぶとり爺さん』『泣いた赤鬼』『恐山のおどり鬼』の三作品です。皆さんに親しみを持ってもらえるよう、鬼が登場する作品をチョイスしました。最後まで楽しんでくださいね」
再び、パチパチパチ、とまばらな拍手が起こります。
なお、拍手をしてくれているのは、もっぱら子鬼タイプの鬼さん達です。うちの子鬼三兄弟もそうですが、子鬼さん方は素直ないい子が多いようですね。今回のおはなし会も積極的に参加してくれています。
(だというのに……)
首をめぐらせ、子鬼さん方以外に目を向けます。
他の鬼さん達は仕事終わりに妙な催しに付き合わされて、テンションダウン状態といったところなのでしょうか。大人しく椅子には座っていますが、全員心底つまらなそうな顔をしています。
フフフ。私を前にしていい度胸していますね、この社蓄ども。
まあいいです。終わる頃には、涙を流しながら拍手喝采させてやります。
「では、『こぶとり爺さん』から始めましょうか。――昔々、あるところに……」
民話集を片手に、私はよく通る素敵なソプラノボイスで朗読を始めました。
0
お気に入りに追加
134
あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。



アレンジ可シチュボ等のフリー台本集77選
上津英
大衆娯楽
シチュエーションボイス等のフリー台本集です。女性向けで書いていますが、男性向けでの使用も可です。
一人用の短い恋愛系中心。
【利用規約】
・一人称・語尾・方言・男女逆転などのアレンジはご自由に。
・シチュボ以外にもASMR・ボイスドラマ・朗読・配信・声劇にどうぞお使いください。
・個人の使用報告は不要ですが、クレジットの表記はお願い致します。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる