はい、こちら黄泉国立図書館地獄分館です。

日野 祐希

文字の大きさ
上 下
37 / 77
第三話 ~秋~ 獄卒方、読書の秋って知っていますか? ――え? 知らない? なら、私がその身に叩き込んで差し上げます。

準備しましょう。

しおりを挟む
 その後、閻魔様と二時間にわたって話し合い、『今年は読書週間を試験導入してみる』という形に落ち着きました。
 今年はお試しで読書週間を行い、結果如何で来年からは本格導入という形ですね。

 期間は通常の半分で、10月27日から11月3日まで。イベントの参加者は地獄裁判所と事務局内に勤めている獄卒から無作為抽出した300人のみで、一般人や地獄各地で働く獄卒は対象外です。

 私としては、今年から本格導入でまったく問題なかったのですけどね。
 最終的に閻魔様が、「お願いですから、我々に猶予をください!」と床に頭を擦り付け始めたので、仕方なく折れてあげました。時にはうだつの上がらない上司のお願いを聞いてあげるのも、部下の務めですからね。私、部下の鏡です。素敵すぎます。

 ともあれ、読書週間の実施まで残り二週間ほどしかありません。
 私はとまとさん・ちーずさん・ばじるさんに兼定さんと聖良布夢せらふぃむさん、ついでに拉致――いえ、快く同行してくれたタカシさんを巻き込んで、早速準備を始めました。

「さあさあ皆さん、読書週間まで残り二週間。遊んでいる時間はありませんよ。張り切って準備をしましょう!」

「「「お~!」」」

「任せてくださいッス、姐さん! オレ、超ガンバルッスよ!」

「ハハハ。これは腕が鳴りますね」

「ちくしょう。何でオレまで……」「タカシさん、これな~んだ?」「嘘です! オレもやる気満々です! 頼むからその赤黒く汚れた断頭台をしまってください!」

 うんうん♪ 皆さん、やる気があって実によろしい。
 さすがは私が見込んだ、優秀な読書週間実行委員達です。
 どこぞのゴリラな分館長も、このやる気みなぎる皆さんの姿を見習ってほしいものですね。

「それでは皆さん、おはなし会に使う大道具の準備をよろしくお願いしますね。あれが今回のおはなし会を成功させるための鍵になります。一切の手抜かりなく、確実に仕留められるものを作ってください」

「わかってるッスよ、姐さん。必ず期日までに仕上げてみせるッス! オレの本気、見せてやるっスよ!」

「完成した暁には私自らがテスターとなり、隅から隅まで性能チェックいたしますよ。ハアハア……。お任せ下さい!」

「ハハッ! もう何でもいいや。どんな仕事でもやってやらーっ!」

 力こぶを作る聖良布夢さんと爽やかに恍惚の笑みを浮かべる兼定さん。
 タカシさんは何だかヤケクソ気味のテンションではありますが、ちゃんと仕事をするのなら問題ありません。この元不良、割と能力高いですから、そこそこいい仕事をしてくれることでしょう。
 そして、我らが子鬼三兄弟も、『ばっちこ~い!』と可愛い拳を突き上げながら鬨の声を上げていますね。相変わらず、愛くるしい子達です。素晴らしい。

「ええ、期待していますよ。では、後を頼みます」

 彼らにそう言い残し、私はきびすを返します。
 そして、カウンターの横に置いておいたキャリーケースを手に取りました。

(さて、それでは私も張り切って出発しますか!)

 私の仕事は、読書マラソンに参加してもらうスペシャルゲストの招聘です。
 そのために私は、これから単身、アメリカの天国へ飛ぶことになります。
 今回の読書マラソンに、このゲストさんは絶対必須。何としても、先方との交渉を成功させなければなりません。
 私はどんな手を使ってもゲストを供出させるという決意を胸に秘め、地獄分館を後にしました――。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

おねしょ合宿の秘密

カルラ アンジェリ
大衆娯楽
おねしょが治らない10人の中高生の少女10人の治療合宿を通じての友情を描く

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

悪役令嬢のビフォーアフター

すけさん
恋愛
婚約者に断罪され修道院に行く途中に山賊に襲われた悪役令嬢だが、何故か死ぬことはなく、気がつくと断罪から3年前の自分に逆行していた。 腹黒ヒロインと戦う逆行の転生悪役令嬢カナ! とりあえずダイエットしなきゃ! そんな中、 あれ?婚約者も何か昔と態度が違う気がするんだけど・・・ そんな私に新たに出会いが!! 婚約者さん何気に嫉妬してない?

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

アレンジ可シチュボ等のフリー台本集77選

上津英
大衆娯楽
シチュエーションボイス等のフリー台本集です。女性向けで書いていますが、男性向けでの使用も可です。 一人用の短い恋愛系中心。 【利用規約】 ・一人称・語尾・方言・男女逆転などのアレンジはご自由に。 ・シチュボ以外にもASMR・ボイスドラマ・朗読・配信・声劇にどうぞお使いください。 ・個人の使用報告は不要ですが、クレジットの表記はお願い致します。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

処理中です...