はい、こちら黄泉国立図書館地獄分館です。

日野 祐希

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第二話 ~夏~ 地獄にも研修はあるようです。――え? 行き先は、天国?

誠意と愛情あるお説教です。

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 で、記念すべき最初のターゲットとなったのは、一番入口の近くにいた方です。面倒なので鬼Aさんと呼称しましょう。
 私の愛すべき部下・子鬼三兄弟の連携ジャーマンを食らった彼は、潰れたカエルのようなくぐもった悲鳴を上げました。

「「「だ~いせ~こ~!」」」

 ブリッジ体勢になった鬼Aさんの下から這い出て、とまとさん・ちーずさん・ばじるさんがハイタッチを交わして喜びます。
 皆さん、大変よくできました。グッジョブです。

 しかし、三人による今の一撃はただのジャブ――挨拶でしかありません。ここからが、本当に心のこもったお説教です。

 というわけで……。

「ぐふっ!」

 思いの強さを物理的な質量に変え、彼にぶつけてみました。
具体的に言うと、ブリッジ状態になった彼の股間へ砲丸玉(一般男子用、約七キロ)を落としました。弱点を責めるのは……以下略。

 私の思いが色々なところに染み入ったのでしょうね。鬼Aさんはすっかり大人しくなりました。泡吹いて白目になっていますが、これが彼なりの反省手段なのでしょう。善きかな、善きかな。

 ――って、おや? 何だか周りが静かですね……。

「「「……………………」」」

 どうしたのかと思って周囲を見回してみたら、この場にいる全員が目を丸くして、口をあんぐりと開けていました。
 どうやら我々の華麗な説法に、開いた口が塞がらなくなってしまったようです。

「……ハッ! て、てめぇ、ヤスオに何しやがる!」

 最初に回復したのは、鬼Aさんの隣にいた長髪の鬼Bさん(仮名)でした。
 なるほど。さっきの鬼Aさんの名前は、ヤスオさんというのですか。おそらく元服前の幼名(?)なのでしょうが、何だかがっかりするくらい普通の名前ですね。聖良布夢せらふぃむさんの時のようなインパクトは皆無です。

 まあ、名前の件は置いておくとしまして……。
 今はあの世一の名保護司として、彼の質問に答えるとしましょう。

「うーん、何をしたのかと聞かれれば、そうですね……。一言で言えば、『言葉のキャッチボール』でしょうか。誠意と愛情あるお説教というやつですよ♪」

「ちょっと待て! これのどこが『言葉のキャッチボール』だ! 思いっきり、デッドボールじゃねえか! 誠意どころか悪意しか見えねえよ!」

 懇切丁寧に応えてあげたら、何が気に入らなかったのか、鬼Bさんが噛みついてきました。
 キャンキャンうるさいですね。
 私のどこに悪意があるというのでしょうか、このチンピラ。
 いい加減なことを言うのは、よしてもらいたいものです。

「よく見てくださいな。ほら、ここ。ちゃんと砲丸に、『図書館では静かにしてください!』って書いてあります。バッチリ説得です!」

「そこはちゃんと口で言えよ! 大体、何で砲丸なんだよ。キャッチボールなら、せめて野球ボールを使え!」

「私がこのお説教にかける思いの強さを、『質量』という形で表現してみました」

「だから! 何で表現方法がことごとく物理的なんだよ!」

 この鬼Bさん、私が何か言う度に的確なツッコミを返してきますね。芸人体質なのでしょうか。若干ウザいです。
 と、私が呆れ気味の視線を鬼Bさんに向けた時です。帽子をかぶった鬼Cさんが、鬼Bさんの肩に手を置きました。

「おい、落ちつけよ、タカシ」

「あ? 何だよ、シゲキ! ヤスオがやられたのに、黙ってろって言うのか!」

「んなこと言ってねえよ。だが、よく見ろ。多分こいつら、獄高ごくこう聖良布夢せらふぃむ一派を再起不能にした奴らだぜ」

「な! こいつらがあの『漆黒の堕天使』を……」

 おや? この方々、聖良布夢さんのお知合いですか。世間というのは本当に狭いものですね。
 あと聖良布夢さん、知り合いに『漆黒の堕天使』なんて呼ばせていたのですね。これはちょっと、憐れになるくらいイタ過ぎますよ。私、次に彼と会ったら、思わずドン引きしてしまうかもしれません。

「へっ! つまりこいつらを倒せば、地獄にオレ等の敵はないってことだよな、シゲキ」

「そういうこったな。――おい、ケンジ、マサシ」

「おうともよ!」

「任せとけや!」

 五人組の中でもとりわけガタイの良かった残りの二人――ええとケンジさんとマサシさんですか? が、バキバキと拳を鳴らしながら他二人の前に出ました。
 見た目通り、この二人は一味の荒事担当というところなのでしょう。これでもかという程、やる気満々です。

 ウフフ。『飛んで火にいる夏の虫』とはこのことですね……。
 さあ、ショータイムの始まりです♪
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