はい、こちら黄泉国立図書館地獄分館です。

日野 祐希

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第二話 ~夏~ 地獄にも研修はあるようです。――え? 行き先は、天国?

ちょっと遊んでやりました。

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 その日、閲覧用のテーブルに土足で足を投げ出した聖良布夢せらふぃむさん一味は、朝から下卑た笑い声を図書館内に響かせていました。手下三人と共に学校をサボったと思われる聖良布夢さんは、駄弁る場所としてこの図書館にやってきたのです。

「でさ、あいつマジでムカついたから、シメてやったわけよ。そしたらあいつ、土下座し始めてさ~。『もう勘弁してください』って泣いてやがんの。マジ笑えたから、スマホで写メ取って校門の前に貼り出してやったわ」

「ぎゃははは! 土下座とか、マジありえねぇ~」

「ウケるわ~。ねえねえ、取った写メ見せてよ」

「聖良布夢君、マジ鬼畜だよね~。そこに痺れる、憧れる~。ぎゃははは!」

 判を押したように、中身のない会話。
 彼ら、全員格好は古風な番長スタイルのくせに、内面はとてもチャラいんですよね。おかげで揃いも揃って、小物感が半端ないです。
 あと余談ですが、あの世にもちゃんとスマホやらインターネットがあります。 これがないと死霊達が怒るそうなので、現世から逆輸入したそうです。

 ――とまあ、あの世の情報網事情は横に置いておきまして……。

 さすがに図書館内で大声を出されては、迷惑極まりないですからね。私も早速、行動を開始したわけです。

「アハハ。本当にウケますよね~、あなた達のイカした格好(笑)とオレ強い系の武勇伝。自分の強さを誇示しようとする姿は本当に微笑ましいですよね、滑稽で♪」

「ぬわっ!」

 気配を消して耳元で声を掛けてあげたら、聖良布夢さんはあっさりと椅子から転げ落ちました。
 粋がっていた割には小心者ですね。思っていた通りとはいえ、口ほどにもない。

「あらあら、すみません。まさかマジ鬼畜(笑)な不良の親分が、これくらいのことですっ転ぶとは思いませんでしたので……。――ぷくく」

 私はひっくり返った聖良布夢さんを見下しながら、思いきり嘲笑って差し上げました。
 すると恥辱に震えた彼は、顔を真っ赤にして猛然と立ち上がったのです。

「んだ、てめぇ! あんま調子こいたことしてっと、女でも容赦しねえぞ! ああ?」

 息がかかるような距離で凄んでくる聖良布夢さん。いつの間にか、他の三人も私の左右と背後に立ち、包囲網を形成していました。
 言動・行動ともに不良のテンプレート過ぎて、感動すら覚えてしまいそうですね。

「私はこの図書館の司書ですよ。マナーの悪いあなた達を注意に来ました」

「はあ? 注意? お前が? オレ達に? ――ぷっ! ぎゃははは! 何言ってんの、お前。頭おかしいんじゃねえの!」

 私の言い分を聞いた聖良布夢さんは、大声を上げて笑い始めました。それに釣られ、他の三人もお腹を抱えて笑い始めます。
 ……四方を囲んで馬鹿笑いなどしないでほしいものですね。うるさいことこの上ない。

「今ならまだ、地獄裁判所名物・拷問季節の詰め合わせで済ませてあげますから、さっさとそこで土下座してくださいな。今の時期は何と、江戸時代拷問フェアも実施中です。超お得ですよ」

「バーカ。謝るのはお前だよ。つうか、今更謝っても、許してやらないけど――な!」

 言葉と共に、聖良布夢さんが私の顔をめがけて拳を振るいました。
 私のようなか弱い女性に躊躇なく手を上げるとは、清々しいくらいのクソ野郎ですね。

「宏美さん、危ない! ――あひん!」

「うわっ! なんだこの執事! どっから現れた!」

 ただ、拳は私へ届く前に、突如として湧いて出たシールドにぶち当たりました。
 その隙に、私はどこからともなく取り出した愛用の釘バットで、シールドごと聖良布夢さんを殴り倒します。
 さらに返す刀で、動揺した手下三人の内、私の右手側に立っていた手下Aの股間を、下から抉り込むように打ち据えてやりました。
 相手の弱点をつく。基本ですね。
 同時に私の背後を取っていた手下Bも、閲覧用テーブルの下から現れた子鬼三兄弟に連携卍固めを掛けられ、悶絶してしまいました。

 ――あ、一応言っておきますが、これは暴力ではありませんよ。清楚でお淑やかな私が、暴力なんて野蛮なマネをするはずがありませんからね。
 今のは立派な正当防衛なのです。私はたまたま持っていた釘バットで身を守ろうとし、たまたま彼らをノックアウトしてしまっただけなのです。

 あと、シールド――兼定さんについても助けてもらったお礼ですので、これもやはり暴力ではありません。感謝の印、感謝の印ですよ。大事なことなので二回言いました。

 と、それはさておき……。

「さあ、後はあなただけですよ」

「ひっ! ば、化け物!」

 私が微笑みかけると、残った手下Cはがくがくと震えて後退りました。
 なかなか面白い冗談を言う子ですね。
 おかげで私の繊細なハートは、ズタズタに傷ついてしまいました。
 人を傷つけるような冗談を言う子には――お仕置きが必要ですね。ウフフ……。

「安心してください。すぐに気持ちよくして差し上げますから」

「ひ! ひ! ――ひああああああああああっ!」

 地獄分館内にまるで乙女のような野太い悲鳴が木霊します。
 こうして、聖良布夢さん一味は呆気なく全滅しましたとさ。
 めでたし、めでたし♪
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