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願いごと星団
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栃木県日光市、星空の名所「戦場ヶ原」
標高約千四百メートルにある場所から、見える星空の下で、私は、願いごとを夜空いっぱいの光たちに、届けていた。夏に見える星、いて座は、私の星座だった。周囲からは、風の音や、クビキリギスの鳴き声が聞こえていた。真っ暗な場所に、照らされる星たちの煌めきが、こんな深夜に、一人で大湿原にいる不安さえも、奪いとってくれた。
願いごとなんてものは、いつだって、くだらなくて、でも、努力でどうにかなるものでもなくて――「星のカケラが、降ってきますように」心で唱えた。
「観光スポットで、願いごとですか?」
不意に、後ろから男性の声がした。
「だれ?」「不審者です」
「警察を呼びますね」カバンから、スマートフォンを取り出そうとすると、不審者と名乗る男は、慌てて両手を振ってきた。
「違う、違う」一呼吸置き、「僕は他人の願いを、叶える能力者なんだ」不審者は、何故か自信ありげな表情で、「言わばシェンロンに近い存在かな」怪しすぎる発言、否、虚言に、私はスマートフォンに、110、と押した。「星のカケラ、欲しいんだろ」更に、怪しさが増した発言に、「変態野郎」私は、不審者改め、シェンロンに、そう毒づいた。
スマートフォンを、カバンに戻し、シェンロンに向き直る。「大体ね、君みたいな冴えなさそうな男に、星のカケラなんて取れるわけないでしょう」「冴えなさそうって、それを言うなら、あんただって取れないだろ」
男は、とても悔しそうな顔つきで、反論してきた。星空は、二人のやり取りを、温かい輝きで見守っている。人と話すのなんて、いつ以来だろう。天文学ばかり勉強して、これといって趣味もなく、集団にも属さなかった。極めつけは、星のカケラが欲しい――なんてロマンチシズムな、夢をみはじめている。
すぐに、逃げてもよさそうだったが、突然始まった会話に、飲み込まれてしまった。
「さあ、力を授けよう」男は、両手を広げ、深呼吸をする。「いりません」私は、即答する。「どうして?」不服と言わんばかりに、頬を膨らませる。もちろん、可愛くはない。だけど、その姿に面白くなって、私は冗談を飛ばす。
「じゃあ、やってみてよ。願い、叶えてよ」
どうしよっかなぁ――男は、渋り始めた。
シェンロンのくせに。
三年後
あの日、シェンロンに近い存在と、出会い、願いごとを、叶えてもらった。
叫べ、銀河に叫べ――中二病この上ない、命令に、私は叫んだ。星のカケラよ、降りてこい、と。
星のカケラは、降ってこなかった。
男は、気まずそうに、「そんなすぐには」と
口ごもった。私は、呆れて笑い転げた。
何やってんだろう――
ただ、あの日以降、私の人生は、驚くほど、上手くいった。友達ができた。天文に携わる仕事にも、就職できた。この、日々の楽しさが星のカケラだったのかな。
通勤電車に揺られながら、昔を思い出していた。駅に到着し、ホームへと降りた。
「すみません、これ、落としましたよ」
不意に、後ろから男性の声がした。
「え」戸惑う私の手を取って、――落とし物――を、渡してきた。
それは、半透明の、小さな石のような物だった。「いえ、私のでは」そう、言いかけたところで、男性の姿が見えないことに、気が付いた。手のひらに視線をやると、小さな石は、ピカッと、一瞬だけ、光った。
私は、深呼吸をする、深呼吸をする、息を吸って、吐いて、深呼吸をする。
標高約千四百メートルにある場所から、見える星空の下で、私は、願いごとを夜空いっぱいの光たちに、届けていた。夏に見える星、いて座は、私の星座だった。周囲からは、風の音や、クビキリギスの鳴き声が聞こえていた。真っ暗な場所に、照らされる星たちの煌めきが、こんな深夜に、一人で大湿原にいる不安さえも、奪いとってくれた。
願いごとなんてものは、いつだって、くだらなくて、でも、努力でどうにかなるものでもなくて――「星のカケラが、降ってきますように」心で唱えた。
「観光スポットで、願いごとですか?」
不意に、後ろから男性の声がした。
「だれ?」「不審者です」
「警察を呼びますね」カバンから、スマートフォンを取り出そうとすると、不審者と名乗る男は、慌てて両手を振ってきた。
「違う、違う」一呼吸置き、「僕は他人の願いを、叶える能力者なんだ」不審者は、何故か自信ありげな表情で、「言わばシェンロンに近い存在かな」怪しすぎる発言、否、虚言に、私はスマートフォンに、110、と押した。「星のカケラ、欲しいんだろ」更に、怪しさが増した発言に、「変態野郎」私は、不審者改め、シェンロンに、そう毒づいた。
スマートフォンを、カバンに戻し、シェンロンに向き直る。「大体ね、君みたいな冴えなさそうな男に、星のカケラなんて取れるわけないでしょう」「冴えなさそうって、それを言うなら、あんただって取れないだろ」
男は、とても悔しそうな顔つきで、反論してきた。星空は、二人のやり取りを、温かい輝きで見守っている。人と話すのなんて、いつ以来だろう。天文学ばかり勉強して、これといって趣味もなく、集団にも属さなかった。極めつけは、星のカケラが欲しい――なんてロマンチシズムな、夢をみはじめている。
すぐに、逃げてもよさそうだったが、突然始まった会話に、飲み込まれてしまった。
「さあ、力を授けよう」男は、両手を広げ、深呼吸をする。「いりません」私は、即答する。「どうして?」不服と言わんばかりに、頬を膨らませる。もちろん、可愛くはない。だけど、その姿に面白くなって、私は冗談を飛ばす。
「じゃあ、やってみてよ。願い、叶えてよ」
どうしよっかなぁ――男は、渋り始めた。
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