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第17話
しおりを挟む私がヒリング家の長女であることは遠方に住んでいた親族によってすぐに証明されました。
母とミアは心の病院に入って、おそらくもう出てくることはありません。
結果、父の遺産はすべて私が相続することになったのです。
父の仕事の方は部下の人が引き継ぐことになりました。
様々な手続きなど、あれこれ細かく世話を焼いてくれたのはもちろんオッドです。
ひととおり落ち着いたある日、私はオッドを夜の散歩に誘いました。
ロマンチックな雰囲気の中で言いたいことがあったからです。
涼しいそよ風が吹く川沿いの道。
私は空を見上げ言いました。
「満月が綺麗だね」
オッドは静かに微笑みうなずきます。
「うん……」
「オッド、まだ気にしてるの?」
「えっ! そ、それは……だって僕は君の家族を助けることが……」
「だからそれはどうしようもない運命だったのよ。私だってオッドに出会わなければ屋敷に戻って母達と同じ運命をたどっていたかもしれない」
本当は屋敷になんて戻れやしなかったんですけど。
「確かにその点は本当に運がよかったと思っているよ。君が無事でここにいてくれることは何よりも……」
「オッド」
「ん?」
「私、いくら何でもそろそろ自分の家に帰らなければならないのは分かってるよ」
「うん……そうだね」
「でも、父が殺された屋敷に一人で住むなんて……いや……」
「その気持ちももちろん分かる」
「だから…………」
私はオッドに抱きつきました。
「ずっと一緒にいさせて」
言ってしまった。
胸はドキドキ、張り裂けそう。
私は目の端にほのかな明かりを感じました。
ゆっくりと顔を向ける。
目の前にあの妖精がいる。
発光しながらふわふわと宙に揺らめいています。
「どう? 今度は幸せかい?」
この子はたぶん、私の感情の激しい高ぶりに反応して出てきているように感じます。
もちろん見えるのは私だけ。
オッドにはその姿も声も認識できていないようです。
私は考える。
今、私は幸せなのか。
三度目のやり直し。本当にこうするしかなかったのか。
私は自分の心の闇に気づいていました。
もしも高利貸しが襲われる前に、私がオッドにそのことを告げていたら?
言えば追い詰められるなんて自己欺瞞。
夢で見たでも、どこかでたまたま計画を話しているのを小耳に挟んだでもいい。
うまく話せばオッドは半信半疑でも事件を防ぐ行動を取ってくれたでしょう。
その結果、高利貸しは助かりカロン達盗賊団はその時点で壊滅したかもしれない。
そうしたら次のヒリング家は無傷で済みます。
私もヒリング家に関わることなく、とりあえずはオッドとの生活を続けていられた。
誰も不幸にならない。
でも、この人生で私はそうしなかった。
それは私が……家族に対して……。
私は今、これで本当に幸せなのか。
やり直しは、たぶんまたできる。
「ねぇ、今度は幸せなの?」
再度妖精に聞かれました。
その時。
オッドの両腕が私の背中に回る。
「そうだね。……ずっと一緒にいよう」
待ち望んだ言葉。
ああ!
私の願いに応えてくれた!!
私は妖精の顔をじっと見つめました。
そして、ゆっくりと、首を縦に振る。
「そうかい! よかった! ようやく約束を果たせたね」
妖精は明るく微笑みました。
「じゃあ、これで終わりだ。お幸せにね!」
妖精の姿が薄くなっていきます。
すうっ、と。
不思議な明かりが消える。
「バイバ~イ!!」
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