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第16話
しおりを挟む夜明けが近い。
オッドは戻らない。
巡回もあっていつも帰宅は遅いけど朝帰りはなかった。
胸が苦しい。心拍数は上がっていく。
まさか私の選択が間違っていたの?
経過は異なっても、結局前の時と同じようにオッドの警ら隊とカロン一味との間で戦闘が起こったのだとしたら。
事前の情報がなかったオッドは充分な準備のないまま闘いに臨むことになったかもしれない。
そして、それが結果に影響して……。
不安に胸を引き裂かれそうになった私は、居ても立ってもいられなくなりました。
ヒリング家の屋敷に行こう。
そう思った時。
「ただいま」
オッドが戻ってきた!
ずいぶんと疲れた声。
「まだ起きていたんだね」
玄関に飛んでいった私を見てオッドが言う。
「当たり前よ! 帰ってこないから……」
「ごめん。事件が起こってね」
「……また盗賊団?」
「うん。今度は貿易商の家が襲われたんだ」
私がいれた紅茶を飲んで一息ついたオッドは話し始めます。
「ついにやったよ。ようやく盗賊団を捕まえた」
「えっ!」
「ただ戦闘になって隊員に負傷者が出てしまった。それに……」
盗賊団を捕えたにしてはオッドは沈痛な表情をしています。
「家のご主人は亡くなった。間に合わなかったんだ」
「……そう」
父は死んだんだ。
最初の夢、もしくは最初の人生の時のように。
不思議と私は冷静です。
自分の感情が分からない。
私は父の死をどう思ってるんだろう……。
オッドは盗賊団の収監と、襲われた家の関係者に連絡を取っての聴取でなかなか帰れなかったといいます。
オッドが話してくれた事の成り行きはこうです。
酒場で飲んで夜中に帰宅中だった人が、近所の裕福な貿易商の家の犬がけたたましく吠える声を耳にしました。
それがふいにぷつりと静かになる。その直前に犬の悲鳴のような鳴き声も聞こえた気がする。
不審に思って様子を見に行ったその人は、貿易商の屋敷の庭で犬達が死んでいるのを目にしたのです。
驚いて警ら隊に通報。番所が遠く、時間がかかりました。
知らせを聞いたオッドは隊員達に召集をかけ問題の屋敷に急行。
ちょうど中から出てきた盗賊団と鉢合わせになって戦闘が始まり、何とか鎮圧して一網打尽にしたということです。
そして、家の中を調べたら……。
「ご主人は金庫室で椅子に縛りつけられたまま首を切られて亡くなっていた。……あっ、ごめんね。こんなむごい話をして」
「いいの。それで他のご家族は?」
「住み込みの下女が殺されていたよ……。あとは奥さんと娘さんがいたんだけど」
「うん。その人達は?」
「その、生きながらえたけど、ひどい凌辱を受けていて……二人とももう廃人同様なんだ。医者は回復は難しいと言う」
「へえ……」
「彼女らの話はもう支離滅裂なんだけど、推測するとどうやら隠し部屋に隠れていたらしいね。でも、ご主人が心配で助けを呼びに行こうと出てきてしまったんだ。そのために捕まった」
「……家族愛ね」
「うん。もっと早く現場に行けていたらと本当に悔やまれる」
「オッドは精一杯やったよ」
「ありがとう。あとは共犯者も捕まえなくちゃ」
「共犯者?」
「盗賊団は屋敷の間取り図を持ってたんだよ。少し前に行方をくらました使用人頭がいるんだけど、間取り図に書かれた文字がその男の字に似てるらしい」
「つまりその使用人頭が共犯者?」
「その疑いがある。買収されたかして犯行の手引きをした可能性が高いね」
「そうなんだ」
殺された上に疑われるなんて使用人頭さんもお気の毒。
「ただその間取り図に間違いがあってね。広いお屋敷だから記憶違いがあったんだろう」
「そう。でも犯行には差し支えなかったんだね」
「いや、いつも素早く犯行を終える盗賊団がもたもたしてしまったのはその間違いのせいもありそうだ。その上奥さんと娘さんを見つけて刹那的な欲望に負けてしまった。二人とも美人だったからね。凌辱した上にさらっていこうともしていたよ」
「ふぅん」
「そんなこんなで無駄に時間を使い、僕らが行くまで現場にとどまってしまったわけだね。犯行に慣れてしまい、甘くみてもいたんだろう」
「それで、その被害者の貿易商さんはなんてお名前なの?」
「ヒリングさんだよ」
さあ、ここからが私の一世一代の演技の見せどころ。
「何ですって?! 貿易商のヒリング……?」
私は絶叫しました。
「えっ? そうだよ。どうしたの?」
「私は! ヒリング家の娘、長女なの!」
「えええっ?!」
目をむいて驚くオッド。
私はめまいがしてうずくまるふりをしました。
「ああ……父が……母が……妹が……」
「し、しっかりして! 横になった方がいい」
「私、ささいなことで父とケンカになって、家出してきてしまったの……」
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