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第8話

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 逃げる、逃げる。
 しかし、ついに私は腕をつかまれてしまいました。
「カロン! やめて!」
「あ? 何で俺の名を知ってる? どこかで会ったか?」
「いいから離して!」
 逃れようとする私を力任せに押さえ込むカロン。
「へろへろだな。ろくに食ってねぇだろ?」

「おいっ! 何をしている?」
 突然の声に驚き、私達は同時に声が発せられた方を見ました。
 都市警ら隊の制服を着た、静かな目をした整った顔立ちの男性が立っています。
 歳は三十前後でしょうか。

「まずい」
 小さく呟くカロン。
 そして私の手を離し、男性の方に向き直る。
「へっ、何でもねぇよ。ナンパしてフラれたとこさ」
 私の顔を一瞥。
 一瞬の間。
「じゃあな」
 最後にそれだけ言うと、カロンは悠然と歩いて去っていきました。
 警ら隊の男性は黙ってその後ろ姿を見送っています。


「大丈夫かい? ケガはないかね?」
 男性は優しく聞いてきました。長い碧い髪がそよ風になびく。
「は、はい。ありがとうございます……」
 おどおどしながら答える私。
「僕は警ら隊第ニ部隊長のオッド・マルセルという者だ。君は……家は?」
 つらい質問です。
「家は……ありません……」

 オッドは私の顔をじっと見る。
「見かけない顔だし、孤児ではないよね? 家出?」
「いっ、いいえ…………」
 その場しのぎに家出と言うと、色々と細かく調べられてしまいそうです。
 だからといって本当のことを言いたくない。みじめすぎるから。
「分かった。言わなくていい」
 オッドは微笑みます。
「君のような愛らしい子がすさんだ生活をしていると、ハゲタカのようによからぬ連中が群がってくるよ」
「…………」
「よかったら僕の家に住まないかい?」
「えっ?!」
「警ら隊の施設に保護しようかとも思ったけど……いやだろう? 実はあまり環境がよくないしね。僕の家なら一人暮らしだし、気兼ねしなくてすむ。好きなだけいていいよ」
「き、気兼ねはします」
「ん? あっ、それもそうか! 初めて会った見ず知らずの男の家に住むなんてねぇ。いや、申し訳ない」
 オッドは深々と頭を下げました。
「どこかズレてるって、皆に言われるんだ」
 照れくさそうに頭をかく。
「よし! じゃあ女性隊員に頼んで」
「あのっ」
「ん?」
「やっぱり……お邪魔させて下さい」

 厚かましいとは思ったのですが、オッドの招きは何だか一筋の光明のように感じられてきたのです。

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