6 / 23
魔法学校の魔法は飾り 5
しおりを挟む
「え!?ど、どうした!?みんないきなり暗い顔になって!」
”いや、お金の勉強をする理由が酷すぎて……”とは本人を前にして誰も言えなかった。だが、エンを除いた生徒の誰しもがそれを思い、口角を引き攣らせるしか選択肢がなかった。ザザは、そんな生徒たちを不思議そうな顔で見る。
「んんん???もしかして、みんなは貧乏な奴らを見下したくないのか?俺たち人間の大大大好きな差別だぜ?」
「お、お言葉ですが先生」
ドルだ。なるほど、彼は正義感の強そうな顔をしている。ザザの言葉に耐えきれなくなったのか、その大きな体を誇示するように立ち上がる。
「人を見下すために勉強するとは、いささか倫理的に問題があると思われます」
「お、ドルさんは良いこと言うねえ。確かに、倫理的にはダメかもしれんね。差別しちゃいけないって言いたいんだろ?でもな」
ザザは一度言葉を切って窓から空を見る。今日はいい天気だ。快晴で雲一つない。こんな日は、生徒たちに世間のことを教えるのにちょうどいい。
「差別ってのは、この大日本帝国でも世界全体でもずっと続く問題さ。人間皆平等に生きていきましょうなんて、どこの馬の骨が考えた嘘っぱちだ?いいか、差別ってのはぜぇっっっっっっったいになくなりはしない。人間は自分より劣るものと比べる事が大好きで、自分より劣るものがいると死ぬ程安心するからさ。だからお前らだって、クラス内カーストなんて言葉を使ってるんだろう?皆平等なら、お前らはカーストなんか気にしなくて良いじゃねーか。いつでも、クラスで一番のブサイクがクラスで一番の美人さんに話しかけて仲良くなっていいんだぞ。でもそれをしないのは、無意識にしろ意識的にしろ、誰かが誰かと比較をして上なり下なりに見てるからだよ」
「そ、それはその通りかもしれませんが……」
「ドルさん。俺はね、進んで差別をしろって言ってるんじゃないんだ。ただな。お前らがお金の勉強をして、若くして多くの資産を手にした時に、”お前らが差別をすることで”心のゆとりができることを期待しているんだよ」
「心の、ゆとり……」
「ああ。例えば、後述するFIRE……経済的に早期に自立して社会人として働かなくても良い程の資産を形成出来た時、お前にイヤなことばっかり言う上司とドルさんの間には、まさしく天と地程の差がある。方や悠々自適に老後を送れるドルさんと、方や死ぬまで会社の奴隷となるかジジイになって安く買い叩かれても働かないといけない上司……。な?全く比較にならないだろ?上司にざまあみろと唾を吐きかけたって、お前の財産は少しも揺るぎはしない。その財産を集めたという事実は、お前の自信そのものだ。何を言われようが『でも俺はコイツより金持ってるもんな。へっ!この貧乏人が!』と、気にせず仕事ができるようになる。人間は自分より下の人間がいると安心するし、強気に出ることができるからな。”えた、ひにん”とか習ったろ?差別は、人間の大きなモチベーションになるんだ」
「しかし……」
「納得できないのも理解できるぜ。でも、同時に納得してる自分もいるだろ?言葉では差別はダメだなんだと言いながら、結局人間ってのは差別をしたがるものなんだよ。……いいじゃねーか別に、貧乏人を見下したってよ。俺は貴様より金を持ってるぜ、ざまあみろこの鼻くそ野郎!でいいじゃねーか。結局人生は一回きりだろ。何不自由ない生活のためにお金を稼いで、皆がジジイババアになってもあくせく働いてる時に、悠々自適にカステラでも食いながら指差して笑ってやろうぜ!俺は、そんな余生を最高に楽しみにしてるんだ!」
目をキラキラさせながらザザが語る。とても教師の発言とは到底思えないが、しかし彼の言葉には妙な説得力があった。先程までは反論していたドルもすっかり沈黙してしまった。
ドルだけではない。減らず口を叩いていたユーロも、お金の勉強をする理由の1つを答えたジンミンゲンも、みんなみんな一様に口を閉ざした。口には出せないが分かっているのだ、人間は人間を見下してこそ人間足らしめるのだと。唯一終始ニッコニコだったエンだけが『早くお金の知識をつけてクソジジイとクソババアを鼻で笑いたいな!』と喜び勇んでいる。彼女はまた特殊かもしれない。
まあいい。いかにお金が大事で、その勉強のモチベーションを保つのがいかに大変か分かるだろう。そうして困難にぶち当たった時、人間は差別を経て困難を乗り越えていくのだ。ザザはこれからの彼らの心がどうなっていくのかを楽しみに、止まっていた授業を再開した。
”いや、お金の勉強をする理由が酷すぎて……”とは本人を前にして誰も言えなかった。だが、エンを除いた生徒の誰しもがそれを思い、口角を引き攣らせるしか選択肢がなかった。ザザは、そんな生徒たちを不思議そうな顔で見る。
「んんん???もしかして、みんなは貧乏な奴らを見下したくないのか?俺たち人間の大大大好きな差別だぜ?」
「お、お言葉ですが先生」
ドルだ。なるほど、彼は正義感の強そうな顔をしている。ザザの言葉に耐えきれなくなったのか、その大きな体を誇示するように立ち上がる。
「人を見下すために勉強するとは、いささか倫理的に問題があると思われます」
「お、ドルさんは良いこと言うねえ。確かに、倫理的にはダメかもしれんね。差別しちゃいけないって言いたいんだろ?でもな」
ザザは一度言葉を切って窓から空を見る。今日はいい天気だ。快晴で雲一つない。こんな日は、生徒たちに世間のことを教えるのにちょうどいい。
「差別ってのは、この大日本帝国でも世界全体でもずっと続く問題さ。人間皆平等に生きていきましょうなんて、どこの馬の骨が考えた嘘っぱちだ?いいか、差別ってのはぜぇっっっっっっったいになくなりはしない。人間は自分より劣るものと比べる事が大好きで、自分より劣るものがいると死ぬ程安心するからさ。だからお前らだって、クラス内カーストなんて言葉を使ってるんだろう?皆平等なら、お前らはカーストなんか気にしなくて良いじゃねーか。いつでも、クラスで一番のブサイクがクラスで一番の美人さんに話しかけて仲良くなっていいんだぞ。でもそれをしないのは、無意識にしろ意識的にしろ、誰かが誰かと比較をして上なり下なりに見てるからだよ」
「そ、それはその通りかもしれませんが……」
「ドルさん。俺はね、進んで差別をしろって言ってるんじゃないんだ。ただな。お前らがお金の勉強をして、若くして多くの資産を手にした時に、”お前らが差別をすることで”心のゆとりができることを期待しているんだよ」
「心の、ゆとり……」
「ああ。例えば、後述するFIRE……経済的に早期に自立して社会人として働かなくても良い程の資産を形成出来た時、お前にイヤなことばっかり言う上司とドルさんの間には、まさしく天と地程の差がある。方や悠々自適に老後を送れるドルさんと、方や死ぬまで会社の奴隷となるかジジイになって安く買い叩かれても働かないといけない上司……。な?全く比較にならないだろ?上司にざまあみろと唾を吐きかけたって、お前の財産は少しも揺るぎはしない。その財産を集めたという事実は、お前の自信そのものだ。何を言われようが『でも俺はコイツより金持ってるもんな。へっ!この貧乏人が!』と、気にせず仕事ができるようになる。人間は自分より下の人間がいると安心するし、強気に出ることができるからな。”えた、ひにん”とか習ったろ?差別は、人間の大きなモチベーションになるんだ」
「しかし……」
「納得できないのも理解できるぜ。でも、同時に納得してる自分もいるだろ?言葉では差別はダメだなんだと言いながら、結局人間ってのは差別をしたがるものなんだよ。……いいじゃねーか別に、貧乏人を見下したってよ。俺は貴様より金を持ってるぜ、ざまあみろこの鼻くそ野郎!でいいじゃねーか。結局人生は一回きりだろ。何不自由ない生活のためにお金を稼いで、皆がジジイババアになってもあくせく働いてる時に、悠々自適にカステラでも食いながら指差して笑ってやろうぜ!俺は、そんな余生を最高に楽しみにしてるんだ!」
目をキラキラさせながらザザが語る。とても教師の発言とは到底思えないが、しかし彼の言葉には妙な説得力があった。先程までは反論していたドルもすっかり沈黙してしまった。
ドルだけではない。減らず口を叩いていたユーロも、お金の勉強をする理由の1つを答えたジンミンゲンも、みんなみんな一様に口を閉ざした。口には出せないが分かっているのだ、人間は人間を見下してこそ人間足らしめるのだと。唯一終始ニッコニコだったエンだけが『早くお金の知識をつけてクソジジイとクソババアを鼻で笑いたいな!』と喜び勇んでいる。彼女はまた特殊かもしれない。
まあいい。いかにお金が大事で、その勉強のモチベーションを保つのがいかに大変か分かるだろう。そうして困難にぶち当たった時、人間は差別を経て困難を乗り越えていくのだ。ザザはこれからの彼らの心がどうなっていくのかを楽しみに、止まっていた授業を再開した。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。
アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。
両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。
両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。
テッドには、妹が3人いる。
両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。
このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。
そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。
その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。
両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。
両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…
両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが…
母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。
今日も依頼をこなして、家に帰るんだ!
この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。
お楽しみくださいね!
HOTランキング20位になりました。
皆さん、有り難う御座います。

転生しても山あり谷あり!
tukisirokou
ファンタジー
「転生前も山あり谷ありの人生だったのに転生しても山あり谷ありの人生なんて!!」
兎にも角にも今世は
“おばあちゃんになったら縁側で日向ぼっこしながら猫とたわむる!”
を最終目標に主人公が行く先々の困難を負けずに頑張る物語・・・?
スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?
山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。
2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。
異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。
唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる