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魔法学校の魔法は飾り 3

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「さて、俺と君たちは初対面であるというのに、もうこんなにも仲良くなってしまったからざっくばらんにいこう。俺のことはどれくらい知ってる?――ドル君」
「はい!」

ドルが模範のような起立をする。

「ザザ先生は、世界初の他属性魔法行使の方法を発見された偉大な人物と伺っております。そして、行政改革ギルドという国家公務員の地位を活用し、その手法を広く世間に周知すべく魔法学校を設立した――そのように聞き及んでおります」

朗々としたよく通る声が響く。彼はリーダー向きだなと思いつつ、ザザはその言葉を受けた。

「偉大かどうかはさておき、概ねその通り。俺は現在も行政改革ギルドに所属している。行政改革ギルドってのは、世間のチンケなルールを改革して残業時間を減らす、休日を増やす、業務の生産性を上げるといった取組をしているんだ。次はじゃあ、そうだな……ユーロさん」
「はい」

落ち着いた美人がすくっと立ち上がる。令嬢然とした凛と光る佇まいが彼女を一層美しく魅せており、周りの男どもがこぞって鼻の下を伸ばした。ザザは彼ら男どもに多少同情しつつ、ユーロに質問を続ける。

「そんな俺が、どうして唐突に魔法学校にやってきて、どうして唐突にお金の授業をするなんて言い出したのでしょうか?」
「分かりませんわ」

即答。考える素振りすら無し。

「そんなことより、男性の口説き方でも教えて差し上げましょうか。あ、先生は男性だから女性の口説き方の方が良いのかしら?大丈夫ですよ、私はどちらも得意ですから」
「ユーロさん、クセが強い!」

悲鳴を上げるザザ。意外なキャラクターだった、彼女は令嬢じゃないのか……。
男女問わない人間の口説き方はそれはそれで聞いてみたい気もするが、彼の仕事は授業をすることであって、授業を聞くことではない。

「口説き方はまた今度ね。じゃあ……ジンミンゲンさんはどうかな?お金の授業をする理由、分かる?」
「うむ」

ジンミンゲンと呼ばれた男性が戸惑いながら立ち上がる。丸顔で細目の彼だが、それにしては人懐っこい印象を受けた。彼の着ているシャツに”チャーハン”と書かれているからだろうか。

「我はアレが原因だと思う。老後2000万バルク問題だな。将来的にお金が足りなくなるから、若い内から準備をしてほしいという国からのメッセージなのだと受け取った。ザザ先生は国営ギルドの人間であるしな」
「ジンミンゲンさんは良いね、ちゃんとしてる。それも理由の1つだね。最近の試算では“55万バルクの資産があれば良い”なんて計算結果も出てるくらいだけど、将来のことは誰にも分からないよね。もしかしたら2000万バルクなんて嘘っぱちで、実は3000万バルクが必要なのかもしれない。俺たちの平均寿命はどんどん延びているし、80歳で死ぬ時代は終わって人生100年時代が来るかもしれないし、人生150年時代が来るかもしれない。だから、今のうちから準備をしておこうということだね。ジンミンゲンさんは素晴らしい!」

ザザがジンミンゲンを絶賛する。まんざらでもないのか、彼は少し恥ずかしそうにしながら着席した。それを見て、ザザが「でも」と言葉を続ける。

「それじゃあ満点はあげられない。他にも重要な理由があるんだけど分かる人はいるかな? ……さっきからすげぇ答えたくて仕方ない人がいるから、そろそろ当ててあげようか」

そわそわという効果音が目の前からずっと聞こえてくるのに耐えられなくなったザザ。彼は教室の最前列に陣取る女性を見て苦笑いし、彼女を指名した。
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