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第1章
バス攻防戦(戦の巻)
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星夜視点
前回のあらすじ☆
自称ヒーローを名乗る変人の正体は本物のヒーローだった。
◇◇◇◇◇
憎たらしい緑の身体に手足にはヒレがある。もしかして魚人ってやつか? ていうかなんで初見で魔物と気づかなかったんだろう? 喋ってたからかな? 天界にやってくる魔物は動物が魔物に変異した奴らばっかだったし、まさか魔物と会話できる日が来るとはなぁ......
謎のヒーローも乗客の避難を終え、遅れて参戦してくれた。これで6対1という状況。これでフルボッコするの確定だがあの魔物はどうしてくるんだろ。
「物量の暴力でこの私が倒されると思っているのだろうが、これは甘い考えだと改める事になるだろう。クククッ......ショータイムといこうか」
「ファーストインパクトーー!」
まなかの不意打ちに近い攻撃を難なくかわし、諸星の背後に手刀が迫っている。
「グァァァーー!? ガハッ!?」
諸星は遥か彼方まで吹っ飛ばされ、血を吐いたあと動かなくなってしまった。あそこまで飛ばされちゃったら生きているのかもよく分からない。そして助けに向かう事が出来ない。
「食らえーー! エアスラッシュ!」
くるとくんが空気ごと切り裂く攻撃をあの魔物にやっていく......それを受け流す魔物の図。
「ヤバイ防御性能だ......強さ自体はあの化け物ゴリラと同じくらいだろうけど、ゴリラとは違って判断力とかちゃんと持ってそうだから奴の方が手強そうだ。でも俺は一年前とは強さが大分違う。なんとか善戦はできるはずだ......」
謎のヒーローはというと何故かまたバスの中にいた。まさか逃げ遅れの乗客がいるのか? いやでもヒーローが全員回収したはず......何をしているんだろう?
「うわぁぁぁ!?」
「うおっ!?」
くるとくんが吹っ飛ばされてきた。なんとかキャッチしたが、もうくるとくんは戦えないだろうな。右肩の傷が深い。もう右腕に力は入らないだろう。くるとくんを安全な場所に置いて、俺は前線に向かう。
まなかは機会を狙って最後の特攻を仕掛けようとしていて、星歌は木の上にのぼっていてくるとくんに回復魔法を使っていた。戦える人は俺しかいないと悟った俺は緑色の魔物に注意が向くようにこう言った。
「なかなかヤバイ強さの持ち主のようだな、魔物運転手。名前があるのなら聞いて起きたい。初めて人型魔物に遭遇した記念だ」
その質問に対して魔物はこう答えた。
「私の名前か? 面白い冥途の土産にでも教えてやる。私の名はアナライザ。名乗ったからにはあなたの名を教えるのは礼儀ってものでしょう......」
「俺は星野星夜だ」
「そうか。やはりセンスのカケラの無い名だな」
こんな事を言ったのち、アナライザは初めて聞く人だと凄く衝撃的な事だと思うことをほざいてきて精神に揺さぶりをかけてきた。
「ところで星夜よ。私達魔物は何を捕食対象としているかは分かりますかな? まあ普段から魔物討伐をしてそうな方々ですし今更感ありますがね。さて私はついさっきいろんな運動をこなして腹が減っています。これが何を意味するかはお分かりですね」
俺はすぐさま臨戦態勢に入った。アナライザも構えをして俺の攻撃を迎え撃とうとしている。
「フンっ!」
アナライザが俺の身体に手刀を振りかだして来たのをなんとかかわし、アナライザに反撃の一発を食らわした。しかしアナライザはそれを手刀で受け止め、両者後ろに下がる。
大剣を持っている左手がビリビリ痺れている。なかなかに重たい手刀を振ってくるし、しかもその手刀で俺の一撃が止められてしまったという事実。さてはてどうしたもんかね......
アナライザが急に距離を詰めてきてパンチと蹴りの連撃が俺を襲ってくる。これを攻防一体大剣でなんとか受け流すことには成功した。しかも渾身のカウンターをアイツに当てる事にも成功。だが奴には傷にもなってないようだ。アナライザは俺から後ろ側に離れた後、こんな事を言い始める。
「まだまだこの程度ではないだろう星夜。もっと本気を出しな」
そうだ。本格的に戦闘が始まる前にどうしてもアナライザに聞きたい事があったんだ。
「本気を出す前に1つだけ聞いてもいいか?」
「......1つだけならいいぞ」
「何故俺がバスに乗ろうとした時ことごとくバスを走らせたんだ? 人型魔物のお前が運転手をやっていたのはもうツッコまない事にしてもだ。俺が何かしたか?」
俺はお前を凄く恨んでいる。アナライザのせいで俺は血を吐くまでバスを追いかける羽目になってしまったからだ。バスに乗り遅れたのは俺の過失とはいえ、初対面でこの仕打ちは無いだろう。
「......フッ。私は今凄く機嫌がいいから特別に教えてやろう。私は裏で人間の肉を食いながらも表面上では人間に寄生しながら生活していました。今は本物の身体を空気にさらけ出しているが、案外居心地が良さそうだしコイツにでも寄生してやりましょうかね......」
寄生とか......つくづくとんでもない奴だな。そういえばあのヒーローバスに戻っていたけどもしかして、このアナライザ寄生虫のせいなのかもしれない。アナライザの話は続く。
「私は人間狩りの他に趣味がありました。それは煽り運転です。ちなみにあなたには『煽り手段Aバスに乗れない』をやりましたね。人間どもの負の感情が美味でした」
この話を聞いて分かった事がある。俺達の本来の目的は『異世界で暴れ回っているチート能力者をなんとかしてほしい』なんだけど、コイツはチート能力者らの前情報よりも性格が終わっている事だ。奴が本格的にこの世界を支配しだす前にコイツを倒さないといけなさそうだ。
でも倒すってどうする......? てかさっきからまなかが木の影で何かを準備している。呪文を唱えているのか?
「全ての力の源よ 夜を支配する一閃の煉獄よ 我に全権を与えたまえ まだだ......まだ溜めれる......」
まなかが放とうとしている魔法は、もしも俺に当たったら多分骨すら残らないだろう。だが当たらなければ意味は無いのだ。幸いな事に奴は気づいていないけど、俺の刃が奴に届くかどうかは分からない今、まなかに賭けるのはまだ時期が早い気がする。
「話は終わりだ星夜。不意打ちでやられないあたり、お前は骨がありそうだ。どっちが生き残るかの決戦をするぞ!」
みんなを見てみると、諸星は気を失ったまま、くるとくんはなんとか起き上がってはいるが万全な状態ではない。星夜はくるとくんを回復するのにだいぶ魔力が持ってかれているだろう。俺は静かに覚悟を決めた。大剣を持つ手に力が入る。
「オラァ! 真空かかと落とし!」
ジャンプ1番、アナライザに真上から斬りかかりに行った。奴には腕に剣がめり込む程度にしか切れない。まるで岩を切ってるかのように硬い。腕を切るのを諦めた俺はアナライザの身体を使って一回転。
「腹が隙だらけだぞ! 海竜弾丸突き!」
この隙を逃さなかったアナライザは強烈な掌底を俺の身体に食らわしてきた。これをなんとか剣の先で受けて直撃は免れたものの、それでも胃を抉ってくるような痛みに襲われる。
「やったな......この野郎ーー!」
痛みをなんとかこらえ、再度奴に攻撃を仕掛けに行く。だが、アナライザの姿がどこにもいない......いや待て、諸星と同じように不意打ち狙いをしているのか?
「タイフーングレートソード!」
大剣を全力回転したら、やはり後ろにアナライザがいた。だが、たしかに食らっているはずなのにまるで効いていない。その時、俺はただでさえ度重なる疲労が重なっていたのに、その状態で普段でも重たい大剣を全力で振り回したもんだから、腕の握力が限界を超え、大剣を遠くに飛ばしてしまった。
「チクショォォォ! まだ終わらない。こんな所で俺は死んでなるものかーー!」
「無駄な足掻きよ。万全な状態でも私を斬れないあなたじゃ、どうあがいても勝ち目なんてないでしょうに......つくづく人間は愚かな生命体だ......」
なんとか逃げ回りながら、ここから勝つ方法を探ってみる。俺の攻撃はとてもじゃないけど奴に届かないだろう。その反面、奴の攻撃によって着々と追い込まれている。そんな鬼ごっこに1人の少年が割りこんできた。その名は......
「よくもこのアリババ•イルゼ•クルトの身体に傷をつけ、人々を恐怖に陥れてくれたね。この僕に今まで傷をつけた奴は副隊長先輩しかいなかった......よくもやってくれたな緑の生命体......」
「お、お前......もう大丈夫なのか......?」
一応肩の止血と回復はしているようだが、もうこの傷じゃあ腕に力が入らないだろう。
「ほう......あなたは少し前に倒したはず。もしや誰かが何処かに隠れて暗躍しているんじゃないか。それはそれでいい。まだまだこの戦いを楽しめるって事ですからね~」
コイツは本当の意味で化け物だ。確かに人数さ差はあるはずなのに、アナライザは息切れひとつもしていない。全員で戦っても奴の実力差は覆せないとでも言うのか......
それだとくるとくんも戦いに加わったとしても戦況は変わらないだろう。俺は奴に聞こえないような小声でくるとくんに話しかけた。
「くるとくん、やめておけ......その傷じゃあ剣を振るだけで傷が開くぞ......」
するとくるとくんはまるで何かを決意しているような声で俺にこう言った。
「先輩......ここは僕が時間を稼ぎます。その間に奴を倒す方法を考えてください......」
「そ、そんなことは......」
「大丈夫。それにみんな生き残るために、僕も生き残るためにはこれしか方法が無いと思うんです。先輩は多少頭はおかしいけど、統帥能力はあるので僕よりも生き残らなければいけない人材なのです。とにかく、生きて会いましょう」
俺はくるとが行くのを止める事が出来なかった。程なくして身体中の筋肉が痙攣を起こし、その場から一歩も動けなくなってしまう。
「これに比べたらまだまだ俺も頑張れるよな? 満身創痍にも程があるだろ。とにかくなんか木の上に歌ちゃんがいるから、星夜を担いで行ってみるか」
いきなり誰かに身体を担がれて、どこかに運ばれてしまっている俺の図。抵抗しようにも指一本も動かす事が出来ないので、なすすべなしの状態だ。
「ほい、新たな患者様を木の上に置きに来てやったぞ。そんじゃ星夜を頼んだ歌ちゃん。てなわけで俺様は意識を失った分取り戻しに向かうとしようか」
諸星はいつのまにか目覚めていて、死んではいなかった。それはよかったんだけど、怪我人の扱い雑じゃないかい? いやまあ......俺にはもうツッコむ力も残されてすらいないから、もうこれに関しては何も言うまい。
「うんしょよいしょ。戦いが終わった気がしたので僕は出てきました!」
「グフゥ......!?」
星歌の服がモゾモゾ動いたと思ったら、急に精霊が俺の顔に飛びこんできた。この戦場に場違いレベルの精霊が舞い降りる。
「すみません。少々失礼な事を言いますけど、なんで星夜さんはこんなに怪我をしているんですか? 全身切傷打撲、肋骨が2本折れ、両足肉離れ、僕が避難していた時に何が起きていたんでしょう?」
まさかのコイツは俺達が死闘を繰り広げていた最中に、比較的安全な場所にいる星歌の服の中に隠れていやがったのだ。いやまあ確かにこの小さな身体じゃ戦えないだろうけども......
「魔力的にもう回復魔法を使えないのかな......? そうだ、あなたも星夜の治療を手伝ってほしいな。そしたら怪我もなんとかなる程度まで回復させることが出来るかもしれない」
「わかりました。展開はよく分からないですけど手伝います」
星歌達が回復してくれている間に戦況を見てみよう。とは思ってみたけど、あの謎のヒーローはどこ行きやがったんだ? 戦闘になる前には俺達と共闘の雰囲気を出していたのに、いざ始まってみれば結局何もしていないという。どこにいるんだろう......あっ!
「なぜか人間に土をかけて埋めている。そのあと石を置いた......これって墓か? バスの中に死者が......」
そういえばアナライザは人間に寄生する寄生虫だったな。それじゃもしかして......おっと!? ヒーローが木の影で出方を伺うような素振りを見せている。
「ハッハッハ! 最初に潰れるのは誰だろうなーー!」
確かにくるとくんは肩に重傷を負っていて、諸星は背中に大きな傷があるという、いつ潰れてもおかしくはない状況だ。
「俺はお前に眼中なんてねぇよ......俺達には本当の戦いがこの先待っているからな。その過程で今はお前が邪魔だ」
諸星は気丈に振る舞っているが、やはり実力差が激しいのか徐々に押されてきている。やっぱりこの上級魔物を倒すには強烈な一撃を叩き込むしかないだろう。
「我が力の奔流に望むは崩壊なり、並ぶ者は崩壊なり、無我の境地に平定なり」
まなかの一撃で決めるしか無い。
◇◇◇◇◇◇◇
終の巻に続く
前回のあらすじ☆
自称ヒーローを名乗る変人の正体は本物のヒーローだった。
◇◇◇◇◇
憎たらしい緑の身体に手足にはヒレがある。もしかして魚人ってやつか? ていうかなんで初見で魔物と気づかなかったんだろう? 喋ってたからかな? 天界にやってくる魔物は動物が魔物に変異した奴らばっかだったし、まさか魔物と会話できる日が来るとはなぁ......
謎のヒーローも乗客の避難を終え、遅れて参戦してくれた。これで6対1という状況。これでフルボッコするの確定だがあの魔物はどうしてくるんだろ。
「物量の暴力でこの私が倒されると思っているのだろうが、これは甘い考えだと改める事になるだろう。クククッ......ショータイムといこうか」
「ファーストインパクトーー!」
まなかの不意打ちに近い攻撃を難なくかわし、諸星の背後に手刀が迫っている。
「グァァァーー!? ガハッ!?」
諸星は遥か彼方まで吹っ飛ばされ、血を吐いたあと動かなくなってしまった。あそこまで飛ばされちゃったら生きているのかもよく分からない。そして助けに向かう事が出来ない。
「食らえーー! エアスラッシュ!」
くるとくんが空気ごと切り裂く攻撃をあの魔物にやっていく......それを受け流す魔物の図。
「ヤバイ防御性能だ......強さ自体はあの化け物ゴリラと同じくらいだろうけど、ゴリラとは違って判断力とかちゃんと持ってそうだから奴の方が手強そうだ。でも俺は一年前とは強さが大分違う。なんとか善戦はできるはずだ......」
謎のヒーローはというと何故かまたバスの中にいた。まさか逃げ遅れの乗客がいるのか? いやでもヒーローが全員回収したはず......何をしているんだろう?
「うわぁぁぁ!?」
「うおっ!?」
くるとくんが吹っ飛ばされてきた。なんとかキャッチしたが、もうくるとくんは戦えないだろうな。右肩の傷が深い。もう右腕に力は入らないだろう。くるとくんを安全な場所に置いて、俺は前線に向かう。
まなかは機会を狙って最後の特攻を仕掛けようとしていて、星歌は木の上にのぼっていてくるとくんに回復魔法を使っていた。戦える人は俺しかいないと悟った俺は緑色の魔物に注意が向くようにこう言った。
「なかなかヤバイ強さの持ち主のようだな、魔物運転手。名前があるのなら聞いて起きたい。初めて人型魔物に遭遇した記念だ」
その質問に対して魔物はこう答えた。
「私の名前か? 面白い冥途の土産にでも教えてやる。私の名はアナライザ。名乗ったからにはあなたの名を教えるのは礼儀ってものでしょう......」
「俺は星野星夜だ」
「そうか。やはりセンスのカケラの無い名だな」
こんな事を言ったのち、アナライザは初めて聞く人だと凄く衝撃的な事だと思うことをほざいてきて精神に揺さぶりをかけてきた。
「ところで星夜よ。私達魔物は何を捕食対象としているかは分かりますかな? まあ普段から魔物討伐をしてそうな方々ですし今更感ありますがね。さて私はついさっきいろんな運動をこなして腹が減っています。これが何を意味するかはお分かりですね」
俺はすぐさま臨戦態勢に入った。アナライザも構えをして俺の攻撃を迎え撃とうとしている。
「フンっ!」
アナライザが俺の身体に手刀を振りかだして来たのをなんとかかわし、アナライザに反撃の一発を食らわした。しかしアナライザはそれを手刀で受け止め、両者後ろに下がる。
大剣を持っている左手がビリビリ痺れている。なかなかに重たい手刀を振ってくるし、しかもその手刀で俺の一撃が止められてしまったという事実。さてはてどうしたもんかね......
アナライザが急に距離を詰めてきてパンチと蹴りの連撃が俺を襲ってくる。これを攻防一体大剣でなんとか受け流すことには成功した。しかも渾身のカウンターをアイツに当てる事にも成功。だが奴には傷にもなってないようだ。アナライザは俺から後ろ側に離れた後、こんな事を言い始める。
「まだまだこの程度ではないだろう星夜。もっと本気を出しな」
そうだ。本格的に戦闘が始まる前にどうしてもアナライザに聞きたい事があったんだ。
「本気を出す前に1つだけ聞いてもいいか?」
「......1つだけならいいぞ」
「何故俺がバスに乗ろうとした時ことごとくバスを走らせたんだ? 人型魔物のお前が運転手をやっていたのはもうツッコまない事にしてもだ。俺が何かしたか?」
俺はお前を凄く恨んでいる。アナライザのせいで俺は血を吐くまでバスを追いかける羽目になってしまったからだ。バスに乗り遅れたのは俺の過失とはいえ、初対面でこの仕打ちは無いだろう。
「......フッ。私は今凄く機嫌がいいから特別に教えてやろう。私は裏で人間の肉を食いながらも表面上では人間に寄生しながら生活していました。今は本物の身体を空気にさらけ出しているが、案外居心地が良さそうだしコイツにでも寄生してやりましょうかね......」
寄生とか......つくづくとんでもない奴だな。そういえばあのヒーローバスに戻っていたけどもしかして、このアナライザ寄生虫のせいなのかもしれない。アナライザの話は続く。
「私は人間狩りの他に趣味がありました。それは煽り運転です。ちなみにあなたには『煽り手段Aバスに乗れない』をやりましたね。人間どもの負の感情が美味でした」
この話を聞いて分かった事がある。俺達の本来の目的は『異世界で暴れ回っているチート能力者をなんとかしてほしい』なんだけど、コイツはチート能力者らの前情報よりも性格が終わっている事だ。奴が本格的にこの世界を支配しだす前にコイツを倒さないといけなさそうだ。
でも倒すってどうする......? てかさっきからまなかが木の影で何かを準備している。呪文を唱えているのか?
「全ての力の源よ 夜を支配する一閃の煉獄よ 我に全権を与えたまえ まだだ......まだ溜めれる......」
まなかが放とうとしている魔法は、もしも俺に当たったら多分骨すら残らないだろう。だが当たらなければ意味は無いのだ。幸いな事に奴は気づいていないけど、俺の刃が奴に届くかどうかは分からない今、まなかに賭けるのはまだ時期が早い気がする。
「話は終わりだ星夜。不意打ちでやられないあたり、お前は骨がありそうだ。どっちが生き残るかの決戦をするぞ!」
みんなを見てみると、諸星は気を失ったまま、くるとくんはなんとか起き上がってはいるが万全な状態ではない。星夜はくるとくんを回復するのにだいぶ魔力が持ってかれているだろう。俺は静かに覚悟を決めた。大剣を持つ手に力が入る。
「オラァ! 真空かかと落とし!」
ジャンプ1番、アナライザに真上から斬りかかりに行った。奴には腕に剣がめり込む程度にしか切れない。まるで岩を切ってるかのように硬い。腕を切るのを諦めた俺はアナライザの身体を使って一回転。
「腹が隙だらけだぞ! 海竜弾丸突き!」
この隙を逃さなかったアナライザは強烈な掌底を俺の身体に食らわしてきた。これをなんとか剣の先で受けて直撃は免れたものの、それでも胃を抉ってくるような痛みに襲われる。
「やったな......この野郎ーー!」
痛みをなんとかこらえ、再度奴に攻撃を仕掛けに行く。だが、アナライザの姿がどこにもいない......いや待て、諸星と同じように不意打ち狙いをしているのか?
「タイフーングレートソード!」
大剣を全力回転したら、やはり後ろにアナライザがいた。だが、たしかに食らっているはずなのにまるで効いていない。その時、俺はただでさえ度重なる疲労が重なっていたのに、その状態で普段でも重たい大剣を全力で振り回したもんだから、腕の握力が限界を超え、大剣を遠くに飛ばしてしまった。
「チクショォォォ! まだ終わらない。こんな所で俺は死んでなるものかーー!」
「無駄な足掻きよ。万全な状態でも私を斬れないあなたじゃ、どうあがいても勝ち目なんてないでしょうに......つくづく人間は愚かな生命体だ......」
なんとか逃げ回りながら、ここから勝つ方法を探ってみる。俺の攻撃はとてもじゃないけど奴に届かないだろう。その反面、奴の攻撃によって着々と追い込まれている。そんな鬼ごっこに1人の少年が割りこんできた。その名は......
「よくもこのアリババ•イルゼ•クルトの身体に傷をつけ、人々を恐怖に陥れてくれたね。この僕に今まで傷をつけた奴は副隊長先輩しかいなかった......よくもやってくれたな緑の生命体......」
「お、お前......もう大丈夫なのか......?」
一応肩の止血と回復はしているようだが、もうこの傷じゃあ腕に力が入らないだろう。
「ほう......あなたは少し前に倒したはず。もしや誰かが何処かに隠れて暗躍しているんじゃないか。それはそれでいい。まだまだこの戦いを楽しめるって事ですからね~」
コイツは本当の意味で化け物だ。確かに人数さ差はあるはずなのに、アナライザは息切れひとつもしていない。全員で戦っても奴の実力差は覆せないとでも言うのか......
それだとくるとくんも戦いに加わったとしても戦況は変わらないだろう。俺は奴に聞こえないような小声でくるとくんに話しかけた。
「くるとくん、やめておけ......その傷じゃあ剣を振るだけで傷が開くぞ......」
するとくるとくんはまるで何かを決意しているような声で俺にこう言った。
「先輩......ここは僕が時間を稼ぎます。その間に奴を倒す方法を考えてください......」
「そ、そんなことは......」
「大丈夫。それにみんな生き残るために、僕も生き残るためにはこれしか方法が無いと思うんです。先輩は多少頭はおかしいけど、統帥能力はあるので僕よりも生き残らなければいけない人材なのです。とにかく、生きて会いましょう」
俺はくるとが行くのを止める事が出来なかった。程なくして身体中の筋肉が痙攣を起こし、その場から一歩も動けなくなってしまう。
「これに比べたらまだまだ俺も頑張れるよな? 満身創痍にも程があるだろ。とにかくなんか木の上に歌ちゃんがいるから、星夜を担いで行ってみるか」
いきなり誰かに身体を担がれて、どこかに運ばれてしまっている俺の図。抵抗しようにも指一本も動かす事が出来ないので、なすすべなしの状態だ。
「ほい、新たな患者様を木の上に置きに来てやったぞ。そんじゃ星夜を頼んだ歌ちゃん。てなわけで俺様は意識を失った分取り戻しに向かうとしようか」
諸星はいつのまにか目覚めていて、死んではいなかった。それはよかったんだけど、怪我人の扱い雑じゃないかい? いやまあ......俺にはもうツッコむ力も残されてすらいないから、もうこれに関しては何も言うまい。
「うんしょよいしょ。戦いが終わった気がしたので僕は出てきました!」
「グフゥ......!?」
星歌の服がモゾモゾ動いたと思ったら、急に精霊が俺の顔に飛びこんできた。この戦場に場違いレベルの精霊が舞い降りる。
「すみません。少々失礼な事を言いますけど、なんで星夜さんはこんなに怪我をしているんですか? 全身切傷打撲、肋骨が2本折れ、両足肉離れ、僕が避難していた時に何が起きていたんでしょう?」
まさかのコイツは俺達が死闘を繰り広げていた最中に、比較的安全な場所にいる星歌の服の中に隠れていやがったのだ。いやまあ確かにこの小さな身体じゃ戦えないだろうけども......
「魔力的にもう回復魔法を使えないのかな......? そうだ、あなたも星夜の治療を手伝ってほしいな。そしたら怪我もなんとかなる程度まで回復させることが出来るかもしれない」
「わかりました。展開はよく分からないですけど手伝います」
星歌達が回復してくれている間に戦況を見てみよう。とは思ってみたけど、あの謎のヒーローはどこ行きやがったんだ? 戦闘になる前には俺達と共闘の雰囲気を出していたのに、いざ始まってみれば結局何もしていないという。どこにいるんだろう......あっ!
「なぜか人間に土をかけて埋めている。そのあと石を置いた......これって墓か? バスの中に死者が......」
そういえばアナライザは人間に寄生する寄生虫だったな。それじゃもしかして......おっと!? ヒーローが木の影で出方を伺うような素振りを見せている。
「ハッハッハ! 最初に潰れるのは誰だろうなーー!」
確かにくるとくんは肩に重傷を負っていて、諸星は背中に大きな傷があるという、いつ潰れてもおかしくはない状況だ。
「俺はお前に眼中なんてねぇよ......俺達には本当の戦いがこの先待っているからな。その過程で今はお前が邪魔だ」
諸星は気丈に振る舞っているが、やはり実力差が激しいのか徐々に押されてきている。やっぱりこの上級魔物を倒すには強烈な一撃を叩き込むしかないだろう。
「我が力の奔流に望むは崩壊なり、並ぶ者は崩壊なり、無我の境地に平定なり」
まなかの一撃で決めるしか無い。
◇◇◇◇◇◇◇
終の巻に続く
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