一般盾使いの冒険記

まちゃかり

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第1章 旅路

1-15 波乱は明日に

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 あったけえ......この温泉。疲労回復、肩腰筋肉痛、さらに肌にもいいというね。さすが水の都だ。唯一の欠点は女風呂完全隔離されてて覗きに行けないぐらいか。

「おっ! お前さんは」

「あっ! ダースさん」

 疾風丸一味のダースさんが屈強な筋肉を見せつけて入ってきた。あと全身傷跡だらけだ。冒険者家業がどれほど厳しいかこの人を見てたら分かるだろう。

「ふう......やっぱ身体中に染み込むわ。ええだろこの温泉」

「そうですねぇ......」

 ダースさんとたわいのない話をして俺は一足先に温泉をでる。まさかこの街では会うことは無いだろうと思っていたが、案外この街も狭いんだろうな。

 温泉を抜けた後みんながいるギルドに向かう。観光の街なだけあって夜の街も人々が集まり賑わっている。

「風の噂で聞いたんだけどね。エリック様とユウキ様がこの街のどこかで休息を取ってるらしいよ」

「へ~。そうなんだ」

 えっ? すれ違い様に重大なことを聞いた気がしたけど、えっ? ユウキ......勇者ユウキ様。お前たちもこの街に来てしまったのか......?

「ユウキ様が言ってたらしいんだけど明日とある人物に会うためにわざわざ寄りにやって来てやったと」

「へ~。わざわざ会いに行くって相当凄い人なんだろうね」

 これって、俺じゃね? エリートもといエリックに明日呼び出し食らってるけどまさか......? いやそうに違いない。なんでってエリックもわざわざ俺に会う義理も使命も無い。

 今わかることは、今の俺のまま会ってしまったらきっと無条件に罵倒されてしまうだろう。ならエリートとさっさと会って逃げるように街を出たほうが良さそう。

 なんならエリックに会わない選択肢もあるけどアイツ変に権力があるから断りにくい。こっちには権力者のよつばがいるとはいえ断ったら何してくるか......永久国外追放は何がなんでも避けなきゃいかん。

「明日どうすればいいんだ......」

 こうしてこの難題に頭を抱えたままギルドに着くと、同じく頭を抱えているマールとそのそばて微妙な空気になっているよつばアリィが佇んでいた。

 これは......穏やかじゃないわ。この雰囲気を察すると大方予想はつく。

「えっと......今日は楽しかった?」

 開幕一投俺が話題を投げかけてみる。あ~これは意気消沈しててとてもじゃないけど話せる状況じゃなさそう。よつばはよつばで大分疲れててそうだし。

 すると何かを察してくれたのか、今まで静観していたアリィさんが今までの流れをわかりやすい説明で俺に教えてくれたのだ。なんか、君には頭が上がりません。

「マールさんは頑張って追いかけたんだけど、あの盗賊達は曲がりなりにもプロ。途中で見失ってしまったらしい」

「結局1時間ぐらい追いかけたんですの。今度からあの方達は国際指名手配でもしておく必要がありますわね」

「そうそう。私の仲間達にも一応報告しとかないと」

 やっぱり......何か友情らしきものがアイツらの中で芽生えてきてやがる。

 一通り今日起きたことを話してくれたアリィさんは仲間達の元に戻らなくちゃいけない時間になったらしく、別れの挨拶もほどほどにギルドを去っていった。

「アリィさんはお姉さんみたいな人でしたの。きっと仲間達も優しい人達なんでしょうね」

 よつばがしみじみと語っているのを尻目に俺は俺で別の人物を探していた。そうガドラが未だにここに来ていないのだ。

「そういえばここに来いとは言ったけどちゃんと来てるかな?」

 ギルド内をキョロキョロしているガドラがいることに今更ながらに気がついた。俺は手を挙げてアピールしてみるとガドラも気がついたようで、ズンズンと近づいて来た。

「この方が仲間募集してきた候補組の1人ですわねハルト。ならわたくし直々に選別して差し上げますわ! あなたのお名前は?」

「ガドラだ!」

 ガドラは一瞬聞いてないっすよ!? という顔をこっちに向けて来たが、これは俺も知らん。

 このガドラという屈強な体つきをしている男。こいつの身体には薄いながら竜の血が入っているようで、つまりリザードマンらしい。まあそれがなんになるのかよくわからんが、とにかくリザードマンという言葉の響がかっこいい。

「いいですわ! いやいいでしょう! こんなん一発採用ですの!」

 よしよしいい調子だ! 意気消沈しているマールは論外としてよつばには好印象を与えているぞ! その調子で趣味とか答えて無事に終わってほしい。

「俺の趣味は......罵倒されるのと、敵の攻撃を一身に受けることと、あとは......」

 ......はい?

「待て待て待てぇぇぇい!?」

 よつばの面接を強制終了させて、俺はガドラに軽く尋問を行う。

「ああ......もしかしてお前は、Mなのか?」

「はい。恥ずかしながら......」

 よし、こいつはだめなタイプだ。入れる以前の問題じゃねえか! そもそも敵の攻撃を一身に受ける仕事は俺の専売特許なんだよ! 俺のアイデンティティを奪わせないためにこいつを入れさせたらダメだ!

 するとさっきまでずっと無言だったマールがいいんじゃないといいはじめた。例えガドラがMな性格だったとしても、そもそもこのパーティーメンバーは変な人達しかいないし僕に比べたら安いものだと。この人半分自暴自棄になってないか?

 頼む、最後の綱はよつば様だ! ここはガツンと言ってガドラを諦めさせてくれ......

「採用、ですの!」

「なんでだぁぁぁぁぁ!?」


        ◇


 こうして解せぬ展開でガドラ加入となったわけだけど、次の話題はモリヤミについてだった。

「ついに明日モリヤミに向けて出発進行か~。エルフ村のみんな元気に待ってくれてるかな~はぁ......」

「私的には魔術壁魔街に行きたいですわね。明日が楽しみですの!」

 何その街俺は知らない。

 明日か......そうだ。

「明日も用ができたから少し出発するの待っててほしい。昼ぐらいには戻ってくるからその間に必要な事すましといて」

 みんなは突然な申し出に少し不思議な感情を見せたが、仕方ないと言って一定の理解を示してくれた。さらにお願いしたいことが一つ。

「確か君のジュンティルはさ、馬車引けるんだよね?」

「おうよ」

「なら馬車に荷物を詰め込んで明日すぐにでも出られるようにしておいてほしい。頼む」

 明日何が起きるかわからんからな。先に手を打っておく。いざとなったらいつでも逃げれるようにね。使えるものは使っておかないと。

 するとガドラは少し興味深いことを口にしだした。

「モリヤミって本当に無政府か? 確か実権を握っているのは首都、魔術壁魔街、あと一つこの街の名前は忘れたと三竦みと聞いたんだけど」

 これには俺も答えれない。こればかりは実際に行ってみないと俺もよくわからないなぁ。とりあえず決定事項なのは、また頼みの綱は故郷を持つマールになりそうなことぐらい。

 そうだ、マールといえば占い婆さんが指摘していたあれを修正する本を買ってきたのをすっかり忘れてた。今からでも渡しておこう。

「そうだ。今日さこの本買ったんだけどマールにあげるよ」

 今はいらないと一蹴されたが......仕方ないか。あとはよつばに任せて俺は暗闇の外に出る。

 はてさて明日はどんな日になってしまうんだろうか......

◇◇◇◇◇
次回に続く
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