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第三章 セイラン王国編

謎の少年

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ーーー怒鳴り合う声と足音が響く。


まだ喧騒は遠くに聞こえて、こちらに向かってくる様子はない。
ミリーナが階上に意識を向け気を取られていると、突然後ろからドサッと何かが倒れる音がした。
慌てて振り返ると、そこには俯いたまま檻を出てくる一人の少年が。

その少年の異様な様子に、ミリーナの背筋に冷や汗が流れる。
子供達の側にはシロちゃんが護衛として居たはずだ。それなのに、少年はで出てきた。


一瞬、精神干渉で操られているのかと思ったが、捕まっていた子供達の鎖は全部外し、誰も首輪などしていなかった事を思い出す。
そもそもあんな少年、

ジリジリと近付いてくる少年から目を逸らせず、息をするのも忘れて身動きすらできないミリーナ。
漸く吐き出せた声は、震えていた。

「⋯あなたは⋯⋯何者なの?」

そんなミリーナに、少年は淡々とした感情のこもらない声を放った。

「君に用はないから。ちょっと眠ってて。」

「なにっ⋯⋯を⋯⋯⋯」

顔を上げた少年と目が合った瞬間ミリーナの身体がビクリと動かなくなり、意識が遠のいていく。
その場にドサリと倒れたミリーナを冷めた目で見つめる少年は、バタバタとこちらに向かう足音に気付きスっとその場から姿を消した。



✻****



その頃二人の魔道士と対峙していたルークとクリスは、あっさりと制圧していた。

「魔道士って言うから少し警戒してたが⋯こんなもんか?」

「いや、それはルークさんだからですよ⋯」

ルークの言葉に、クリスは微苦笑しながら答える。
天才魔道士と名高いジーニアと遜色ない魔法の腕を持っているルークにとっては、他国の魔道士など見習い程度のものだろう。

「さて、こいつらには色々と聞きたいことがあるからな。自害防止魔法は施してるし、魔法を使えないようにしている。このまま王宮の獣騎士団に預けるか。」


他の制圧も順調に進んでいるみたいで、こちらにも連絡係の獣騎士がきて状況を報告してくれた。
そこに慌てたように別の獣騎士がやって来た。

「ルークさん大変ですっ!」

呼びに来た獣騎士が言うには、子供達の保護に向かっていたシロちゃんと女性が一人倒れているという。

「まさかっ、アイリに何かあったのか!?」

急いで現場に向かうと、そこには意識のないミリーナを抱き上げ立ち尽くすアレクと、その奥の檻には保護された子供達がいて、近くに倒れているシロちゃんの側でアイリが寄り添って泣いていた。
ミリーナもシロちゃんも、眠るようにして倒れていたと言う。


「一体⋯何があったんだ?」

ルークの呟きに、一か所に固まっていた子供達の中から猫耳の少年が口を開いた。

「僕⋯見てました。」

その猫耳少年が話すには、捕まっていた自分達の鎖を外してくれた後シロちゃんを護衛に残し、ミリーナは檻を出て階上の様子を伺っていた。
すると突然一人の少年がシロちゃんに近付き、目を覆うように手を翳すとシロちゃんがバタリと倒れてしまったという。
突然の事に子供達も驚愕していると、その少年は何も言わずに檻を出ていった。

「僕達も何が起こったか分からなくて⋯でも、僕達の中にあんな奴いなかった。獣人ではなかったし、黒髪で黒目の容姿なんて珍しくて絶対覚えているはずだから。その後、檻の外でミリーナさんの声が聞こえて⋯そしたら男の子が『君に用はない。眠ってて』って言ってたのが聞こえたんだ。」

「確かにミリーナともう一人の気配はあったが、俺が駆けつけた時には、倒れたミリーナしか居なかった。ここに来るまでにそんな少年は見ていないし、この部屋以外に他に隠れる場所もない。それに、嘘はついてなさそうだしこいつら全員が証人だからな。」

少年の言葉に続いて、アレクが低い声で淡々と話す。普段と違うその様子に、ルークもアレクの腕の中でただ眠ったように横たわるミリーナを見た。

「ヒック⋯ルークしゃんっ⋯シロちゃん、名前呼んでも⋯っ、おきにゃいの⋯」

しゃっくりを我慢しながら目を真っ赤にして訴えるアイリの姿に、胸が痛む。

「ここの後始末は獣騎士に任せて、俺達は王宮に向かおう。一度リューン帝国側向こうのメンバーとも合流した方が良さそうだな。」

獣騎士にシークへの伝言を頼み、ルーク達はミリーナとシロちゃんを連れて先に王宮に戻った。


「えっ!?ミリーナさんと、シロちゃんが?」

「おいっ、どうしたんだ?」

「何かあったの?」

シークは、たった今ルークに伝言を頼まれた獣騎士から聞いた話をデュランとリオに伝えると、二人は驚愕して直ぐに王宮に戻ろうと言ってくれた。
その様子を見ていた救出した冒険者たちが、背中を押してくれる。

「あとは俺達に任せておけ。お前達の仲間の一大事なんだろ?助けてもらった恩はちゃんと返す。」

「あぁ、こっちももうすぐ終わる。早く行ってあげな。」

その言葉にシークは微かに笑って「ありがとう」と伝えると、リオとデュランを連れて王宮へと戻った。



アイリの影魔法で先に王宮の控室へと移動したルーク達は、直ぐにラオール王に事情を説明し、ここにリューン帝国側にいるメンバーも全員呼び寄せる許可を貰った。
王宮で合流してミリーナとシロちゃんの状態を知ったシークはショックを受けていたが、直ぐにジーニアの元に移動し、リューン帝国側にいた全員を連れて再びセイラン王国の王宮に現れた。


早速二人の状態を調べていたジーニアだが、その表情は浮かない。

「これは⋯闇魔法のようですな。しかし、シーク以外にここまでの使い手がいたとは⋯」

ジーニアの言葉に、周りも驚きを隠せない。シークとアイリ以外にも希少な闇属性を持つ人物がいるというのか?

「僕達では、魔法を解くことはできないですか?」

シークの言葉に、ジーニアはゆっくりと首を振る。

「闇属性の魔法に関してはまだ分からないことが多い。下手に刺激すると、このまま目覚めない可能性もある⋯」

「そんな⋯」

ベッドに寝かされているミリーナと、クッションで作られたベッドに眠るシロちゃんを、誰もが絶望的な気持ちで見つめるしか出来ない。

そんな重苦しい空気の中、クリスが徐に口を開く。

「⋯もしかしたら、エルフの里に『闇属性』に詳しい人物がいるかもしれません。それこそ長寿で魔法に長けている種族ですので。しかし、皆さんも知っての通りエルフは偏屈で頑固で変わり者です。」

そんな事を言っているクリスもエルフでは⋯等とここでは誰も突っ込まなかった。

「里に近付くことすら危険で、確実に話が聞けるとも限りません。が、それでも⋯⋯案内することはできます。」

どうしますか?とのクリスの言葉に、誰も反対する者などこの場にいなかった。
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