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番外編
チョコを巡る仁義なき戦い 後編
しおりを挟む「あぃっ!どーぞー♪」
まずアイリ達がやって来たのは獣人パーティーが滞在している宿だ。
一緒にミリーナとラビとララがいる。
ルイザとリオは先に自分達の宿へと戻った。
「待ってたぞ、アイリ。」
「わざわざ届けにきてくれて、ありがとうございます。」
デュランとウルドが出迎え、早速アイリからチョコを受け取る。
後から来たグランは素っ気なくしつつもきちんとお礼を言って受け取り、ルイも照れながら喜んでいた。
「私達のもあるわよ~♪」
「それぞれの顔を描いてみたんだよ。」
ラビとララは二人で一生懸命にクッキーに皆の似顔絵を描いていた。
それぞれの特徴を捉えた中々の出来栄えで、皆自分の似顔絵クッキーをどこから食べようかと思案している。
そこで思い切って一口で食べたデュランは次の瞬間、顔色を変えたかと思うと呻きながら獣化した。
「ぐあっ⋯⋯ギャウンッ、ギャウッーーー!!」
悶え苦しんでいるデュランの様子に、口に入れようとしていた他のメンバーの手が止まった。
「⋯ラビ、ララ。これに何を入れたんです?」
スッと目を細めたウルドに睨まれ、慌てる二人。
「えっ!?材料は皆のと一緒だよ?」
「そーよ!私達がしたのは絵を描いたぐらいよ!」
その言葉にピクッと耳を動かすと、クッキーに描かれた似顔絵をより鮮やかに色付けているチョコの色に注目した。
「⋯この色。何を混ぜました?」
「えっ?確か赤いのがトウガラシってやつで、緑がワサビだったかしら?」
「流石に皆の色は無かったから、この二色とチョコの黒で描いたんだよ。」
「可愛いでしょ♪」と無邪気に言う二人に悪意はなく、ただ純粋に綺麗だと思う色で描いただけだった。
「ハァ⋯他の皆さんは食べないように。これは見て楽しみましょう。デュランのようになりますから。」
尊い犠牲者を出したことで、ラビとララのクッキーは観賞用となった。
「デュランしゃん、おみじゅでしゅ。」
「ゴクッ、ゴクッ、ゴクッ⋯⋯ぷはぁ。(死ぬかと思った)」
アイリの魔法のお水のお陰で、痺れていた舌も喉の焼け付くような痛みも緩和され、漸く人型に戻ったデュラン。
「お前ら⋯少しはアイリを見習え!俺を心配してくれたのはアイリだけだぞ!!」
仲間に見捨てられ犠牲者となったデュランは涙目でお怒りだ。
「でも、アイリちゃんに介抱されて喜んでたじゃない。」
「ゔっ⋯⋯」
ラビに言い返され、言葉に詰まるデュラン。
結局デュラン達は、アイリから貰ったチョコだけを大事に大事に頂いた。
ラビとララは、これ以上二人のチョコ被害を出さないようにとウルドに捕まってしまい、残念ながらその場でお別れした。
その頃ルークは⋯
「何っ!?アイリが特別なチョコと言っただと?」
大人しく家で待つよう言われていたが、待ちきれずにギルドまで迎えに来た時に丁度ギルド内に残っていた冒険者と職員の話を聞いてしまったのだ。
「特別⋯きっと俺のに違いないが、念の為確認しておかなければ。」
ルークはアイリがチョコを配りに行くと言っていたデュラン達の元へ向かった。
「⋯アイリの特別チョコ?う~ん。特に皆変わりなかったと思うが?」
「アイリちゃんも特に何も言ってませんでしたしね。」
「そうか。(こいつらには渡してないな)」
デュランとウルドの証言を得て、ルークは次にクリス達の元へ向かった。
その頃アイリは、クリス達にチョコを配っていた。
「あぃっ、これはクリスしゃん。こっちはタモしゃん。リヒトしゃんのはあんまり甘くないのにちたの。」
一人一人に手渡しながら、リヒトにはルイザと一緒に作った甘さ控えめのチョコを渡す。
「ありがとうアイリ。」
無表情がデフォルトのクリスが微笑を浮かべてアイリを撫でる。
タモも「ありがとうございます」といつものニコニコの笑みを浮かべてお礼を言う。
「アイリ、気を配ってくれてありがとな。アイリの手作りか。大事に食べるよ。」
リヒトはアイリに「お礼だ」と可愛くラッピングされた小袋を渡してきた。
「なぁに~?あけていいでしゅか?」
リヒトが頷いてくれたので、アイリは小袋を開けた。中に入っていたのはピンクと白のレースが重なった可愛いリボンの髪留めだった。
「アイリにも何か渡したくてな。まぁ、選んだのはルイザなんだが⋯。」
誰もが恐れる見た目の大男であるリヒトだが、流石の番持ち。ルイザに選んで貰ったと言うが、一番女性に対しての心配りが出来ている。
「ありがと~リヒトしゃん!だいじにしゅるね。」
満面の笑顔でリヒトに抱き着いて喜びを表現するアイリに、来年こそは自分も何かお礼を用意しよう、とクリスは固く心に誓った。
その場でルイザに髪をアレンジしてもらい、早速リボンの髪留めを付けたアイリはご機嫌でルーク達が待つ(はずの)家へ向かった。
その道程、ミリーナは少しだけソワソワしていた。実は皆に渡すチョコクッキーとは別に、少しお酒を効かせたトリュフを用意していたのだ。
(普段お酒飲むからアレンジしただけで⋯別に皆が言うような特別じゃないし⋯うん。大丈夫。)
ミリーナが誰に言うでもない言い訳を繰り返している内に、いつの間にか家に着いた。
「ただいま~!」
「お帰り、アイリちゃん。」
「嬢ちゃんもミリーナもお疲れさん。」
「あれ?ルークしゃんは~?」
どうしてもアイリに付いていくと聞かなかったルークを、何とか説得して家で待機させていた筈なのだが、どこにも見当たらない。
と言うのも、ルークが町へ出てアイリと彷徨くと、ルークにチョコを渡したい女性陣ももれなく付いて回る事になる。
そしてルークと同じパーティーとなったアレクとサニアもそれぞれタイプは異なるが人気者なのだ。
なのでこの日は皆してルークとアイリの家に待機し、チョコの受取場所を1カ所にすることにした。
「止めたんだがねぇ⋯」
「アイリが心配だからって、ギルドに行っちゃった⋯」
ジーニアとシークが奥の部屋から現れる。チョコを渡すからと家に来てもらっていたのだ。
「全く。そのうち帰ってくるでしょうし、先に皆さんに渡しちゃいましょう、アイリちゃん。」
「んーと、コレはルークしゃんのだから⋯あぃっ、どーぞー!」
「私からはクッキーです。どうぞ。」
その頃ルークは、クリス達の所に来てデュランにしたのと同じ様な質問をしていた。
「特別と言えば⋯リヒトの分は甘さ控えめだと、他と違いましたね。」
「でも、私と一緒に作って同じ物を渡してるから⋯アイリちゃんの特別とは違うんじゃない?」
「そうか⋯(まぁ、リヒトは番持ちだし⋯ギリギリセーフだな)」
「それよりも、アイリもう家についてると思うけど、ルークさん帰らなくていいのか?」
「!?」
リオの言葉に、ルークは家まで飛んで帰った。
バンッーーー
「アイリっ!!」
「ルークしゃん!おかえりなしゃい~。」
アイリを見つけ、真っ先にただいまのハグをする。大事なアイリからのチョコを結局最後に貰うことになったルークだが、最後の一つと言う事でコレがアイリの特別で間違いないだろう。
「あぃっ、ルークしゃん。いちゅもありがと~。」
「ありがとうアイリ。大事に頂くよ。」
そうしてカンザックの町を賑わせたバレンタインの日が終わった⋯⋯
「そう言えば、ギルドでアイリの特別なチョコがなんとかって言ってたけど、アレって結局誰のだったんだ?」
ルークが家に戻るまで残っていたミリーナは、夜も遅いからとアレクに家まで送って貰っていた。そんな帰り道、ふと思い出したかのようにアレクが聞いてきた。
「あぁアレですか?実は⋯」
それはクリス達にチョコを渡した後にまで遡る。
アイリに付いて回っていたシロちゃんが「そろそろボクも行くね~」と言いだし、何事かと思えばアイリに頼まれた物を渡しに王宮に行くのだと。
「私も最初陛下に渡すチョコの事かと思ったんですけど、アイリちゃんが魔力を込めたチョコを作ってて、それを聖獣様に渡しに行ったみたいです。」
「あぁ⋯特別ってそーゆーことか。」
「えぇ。ルークさんも態々確かめに回ってたみたいですけど、アイリちゃんの1番はルークさんに決まってるのに。」
他愛のない会話をしながら歩き、ミリーナの家に辿り着く。
「アレクさん、ありがとうございました。」
「おぅ、ゆっくり休めよ。」
「⋯あのっ。コレ、甘いの苦手な人用にいくつかお酒入りのチョコも作ったんです。余ったので、アレクさんにあげます。」
「へぇ、酒が入ってんのか。ありがとな。」
「いえ、じゃあ⋯おやすみなさい。」
家に入ったミリーナを見届けると、アレクも帰途につく。
アレクはミリーナから貰ったチョコを見ながら、ボソッと呟いた。
「いくつかって⋯他に誰にやったんだ?」
*****
「ねぇ、希少なチョコレート集めたの僕なのに⋯アイリからのチョコ届いてないんだけど?どーゆーこと?」
ギルドの厨房の冷蔵庫には、陛下に渡すはずのチョコレートが1つ、残されたままだった⋯⋯⋯
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