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第三章 セイラン王国編

規格外な幼女

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抵抗せずに大人しく捕縛されたエルモンドは、数人の男達に囲まれて更に奥まった場所にある古い建物まで連れて来られた。
建物の入り口には見張りらしき男が立っており、男達が連れてきたエルモンドを訝しそうな表情で見ている。

「おい、こいつが逃げてたぞ。」

「知らねーよ。ここにいる奴等は皆鎖を着けてる。そいつはお前らが連れてくる時に逃げたんじゃねーのか?」

お互いに責任を擦り付けようとしているが、そもそもエルモンドはわざと捕まってここに連れてこられたのだ。無駄な言い合いは放置して、少しでも状況を探る。

「とりあえずこいつも鎖を着けて中に入れておけ。身なりもいいし、多分の方だろ。」

「どこまで巻き上げられるかね~。」

男達の会話から、他にもここに捕まった人達がいるようだった。そしてどうやら身分の良さそうな者を誘拐し、身代金を要求してお金を手に入れているらしい。

仮にもエルモンドはこの国の第一王子だが、まだ表立って公務に出てこない幼い王子を知る者も少なく、まさかこんな所にいるとも思わないのだろう。
その内バレるかもしれないが、ギリギリまで身元が分からないように対応するつもりだ。

エルモンドは建物に入り地下へ連れて行かれると、そこで頑丈な鎖を手足に着けられ檻のような所へ入れられた。
中には他にも同じ様に鎖を着けられた獣人が何人かおり、質の良かっただろう服も薄汚れていてだいぶ疲れきった様子だった。

男達が居なくなったのを確認すると、エルモンドは他の獣人達に声を掛けた。

「大丈夫か?怪我などしていないか?君達はどうしてここに連れてこられたんだ?」

「「⋯⋯」」

「僕はエルモン⋯エルだ。貴族だろう?きっとご家族が探している。僕の家族も⋯きっと探しているだろう。だから、助けが来るまで頑張ろう。」

そんなエルモンドの言葉に奥で丸まっていた男の子(猫の獣人だろうか?)が鼻で嘲笑わらうと、虚ろな目を向けた。

「⋯お前は何も知らないで幸せだな。折角だから教えてやるよ。あいつらは親に身代金を要求するって言ってた。けど未だに俺達はここにいる。それがどーゆー意味か分かるか?⋯俺達はとっくにんだよ。」

「なっ!?そんな⋯」

エルモンドは言葉が出なかった。
確かに、身代金が支払われていれば人質としてここにいる人達は開放されている筈だ。でも、あいつらの口振りから察するにとてもで要求しているとは思えなかった。

「お前もその内分かるさ。それに、誘拐事件は前から起こってた。不審に思った冒険者が調べてたけど、そいつらも失踪したって聞く。それなのに王様は何も動かなかった。」

「俺達の他にも何人も捕まってて、アイツらに何かさせられてる。俺達はただの金ヅルで連れてこられたんだ。用済みになったら殺されんだよ。」

「っ⋯!?」

(以前から誘拐事件が起こっていた?父上は知っていたのか⋯?知っていたのなら、何かしら対策をしているはずだ。
そう言えばあの達も冒険者だと言っていた。この事件に何か関係あるのか?)

まだ幼いエルモンドには、各国で話し合われた内容の詳細までは聞かされていなかった。それでも、あの父ならば動かないはずはないと確信を持っていた。

勝手な事をして、誘拐に巻き込まれてしまったこんな自分でも、父は王としてきっと動いてくれている。
父は国民を見捨てるような人じゃないから⋯

男達の本当の目的が何なのか分からないが、エルモンドは他の獣人達にも自分の身分は隠しておくことにした。




「ミリーナしゃん~!たいへんなのー!」

エルモンドの部屋で待機していたミリーナと、集められた数人の獣騎士にラオールが指示を出し、緊迫する空気の中救出に向かおうとしていた丁度その時。

ミリーナの足元から場に似つかわしくない可愛らしい声が響いた。
そしてそのままミリーナの影が揺らめくと、ひょっこりとアイリが顔を出す。

「きゃぁっ!?⋯えっ?アイリちゃん?」

突然自分の影からアイリが出てきて驚いたミリーナだが、この魔法に心当たりを思い出す。
未だに状況を飲み込めない獣人達をそのままに、ミリーナはすぐに冷静を取り戻してアイリから話しを聞いた。

話を聞いた一同は、思っていたよりも深刻な状況に難色を示す。

「つまり、エルモンドとリオ殿はそのゴロツキ共に連れて行かれたのだな?」

「あいっ。リオしゃんが何かめじるしをさがしゅっていってたの。」

「そうか。ひとまず隠し通路の先に向かい、あちらから周辺を捜索して居場所を特定する必要があるな。それから至急ギルトに行ってルーク殿達をここに呼んでまいれ。」

ラオールは指示を出しながら、頭を回転させていた。
ゴロツキ共がいたとなると、この国でも治安の悪い場所だろう。恐らくは平民街の端の方だろうと予想はつけられるものの、細かな場所までは捜索してみないと分からない。
それに、大規模な捜索となると相手に気付かれ捕まったエルモンドとリオに危険が及ぶかもしれない。
時間はかかるかもしれないが、ここは慎重に動かざるお得ないとラオールは苦々しい気持ちで顔を顰める。

「ルークしゃん達なら、しゅぐにここにちゅれてこれましゅよ?それに、リオしゃんとえりゅもるどしゃんのいばしょもアイリわかりましゅよ?」

何てことないとばかりにキョトンとした表情で可愛らしく首を傾げるアイリに、大人達は驚きも忘れてポカンと間抜けな表情を浮かべた。


「⋯アイリちゃん、いつの間にそんなこと出来るようになったの?またルークさんに報告することが増えちゃった⋯」

ミリーナはため息と共に、頭を抱えたくなった。
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