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第三章 セイラン王国編
拐われた王子
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王宮で急いで獣騎士が集められていた丁度その頃。
エルモンドは、以前部屋で偶然見つけた隠し通路の奥へと進んでいた。
いつかこっそり探索しようと思い、両親にも護衛にも誰にも教えずにいた。
この通路の先がどうなっているのか、何処に繋がっているのかエルモンドは知らなかった。
それでも危険を犯してまでこの通路へ逃げ込んだのは、この時ばかりは王宮から一刻も早く抜け出したかったからだ。
エルモンドはいつもこの国の第一王子として見られ、周りからの期待がその幼い肩に重くのしかかっていた。
父は歴代の王の中でも賢王と言われており、今まで閉鎖的だったこの国に新しい風を吹き込んでいる。
そんな父と比べられては『殿下も陛下のように立派な王様になりましょう』と言われ。
陛下の威圧にどうしても慣れないと愚痴を零せば『そんな事を怖がっていてはいけません。いずれ殿下も威厳ある王となるのですから』と嗜められ。
母上に会えず寂しいと零せば『王妃様はお子様を産むために大変な時期なのです。殿下も兄になるのですから甘えてばかりいてはいけませんよ』と我儘を禁止された。
誰にも愚痴を溢せず、唯一甘えられた母は妹が産まれて構ってくれなくなった。
父も忙しく、食事は一人でとることが多かったのに、あの客人達がきたらすぐに父は晩餐会を開いた。
その席で今まで見た事もない幼い子を可愛がる父の姿に、エルモンドは嫉妬と焦りを覚えた。
そして先程の母の部屋で寛ぐ父と、その膝に抱かれ手ずから食べ物を与えられていたアイリを目にして、自分の居場所はもうココにはないのだと実感した。
獣人にとって「手ずから食べ物を与える」行為は『寵愛』を意味する。番や家族等の近親者にしか許されない行為をラオールはアイリに行い、それを番は許していた。
(エイルが産まれてからは母上に会いに行く機会も減った。それに父上はいつも公務で忙しくて、話す時間なんて取れなかった。⋯それなのに、アイリの為になら時間を作れるんだ。僕なんかより、よっぽど親子みたいだったじゃないか⋯)
暗い穴の中は一本道で、迷いなく歩き続けると正面に小さな明かりが見え始めた。
ゆっくりと近付き、明かりの漏れる壁を押すとガコッと外れ、質素な造りの部屋に出た。
隠し通路の先は、城下町の端の方にある平民街の一軒家に繋がっており、この質素な部屋の造りからも見て取れるように、どうやら平民が住んでいるようにカモフラージュして建てられているようだった。
恐らく、ずっと前の王族が平民の暮らしを知る為に作られた隠し通路だったのだろう。
エルモンドは人型に戻り一通り部屋の中を調べると、外の様子を見ようと建物から出た所で、明らかに場違いな服装で目立ってしまう。
周りには数人の人影があり、エルモンドはその不穏な視線に身の危険を察知し、急いで元の家に戻ろうとするが、玄関先に一人回り込まれており、数人の柄の悪い集団に囲まれてしまった。
「おい、こいつどうやってあの部屋から抜け出したんだ?とりあえず連れて行くか。」
「こんな家に隠れていやがったのか。抵抗すると痛い目に合うぞ?」
柄の悪い男達が何か言い合いながらエルモンドに近付いてくる。
(獣化して逃げるか?しかし、相手の人数が多すぎる⋯逃げ切れるか?)
エルモンドは何とか冷静に状況を把握して逃げる算段を立てるが、ここが何処かも分からない以上無闇に逃げても直ぐに捕まるかもしれない。
勝手に王宮を出てきてしまったが、自分が部屋からいなくなったことが知られれば流石に捜索隊が組まれるだろう。
ここは大人しく捕まって、逃げ出す機会を伺うことにした。
◇◇◇◇◇
その頃リオとアイリとシロちゃんは、エルモンドが通ってきた通路を進んでいた。
先頭のリオは種族柄、薄暗い穴の中でも目が利くらしく、どんどん奥に進んでいく。
その後をアイリとシロちゃんが続き、程なくして例の質素な部屋へと出た。
「周りを確認して来るから、アイリとシロちゃんはまだ穴から出ないでそこにいて。」
そう言ってリオが部屋を確認していると、外の様子が少し騒がしくなった。
リオは窓際に寄ってそっと外の様子を伺うと、そこには柄の悪い男達に囲まれたエルモンドがいた。
「あちゃ~、少し遅かったか⋯」
抵抗せずに大人しく連れて行かれるエルモンドを見て、リオは後から来る獣騎士達と合流してから作戦を立てて救出に向かおうとした。
しかし、そこで予想外のことが起こる。
「おい、念の為この家の中を調べとけ。他にも隠れてるやつがいるかもしれない。」
勘のいい奴がいたのだろう。
男の言葉に、数人がこの家に向かってやってくる。
「アイリ、このままここに隠れてろ。何があっても絶対に声を出すな。後から来た獣騎士達と合流したら、エルモンド殿下は男達に連れて行かれたと伝えるんだ。」
「リオしゃんは?」
「あいつらの気を引いて、わざと捕まる。そしたらエルモンド殿下と同じ所に連れて行かれるだろうから、何か目印がないか探っておく。アイリはミリーナさんのとこに戻るんだ。」
早口でそう言うと、リオは部屋側から隠し扉を閉めた。
それから直ぐに部屋に男達が入ってきて、声がしたと思ったらリオが逃げ出そうとしてわざと男達に捕まったみたいだった。
アイリとシロちゃんは言われた通り静かに大人しく待機しており、男達が他に誰か隠れていないか部屋の中を一通り探しだした。
他には誰もいないと分かると、リオを連れて家を出ていった。
暫くして人の気配がなくなると、アイリはそっと壁を押し先程の部屋へと出た。
「シロちゃん⋯リオしゃん、ちゅれていかれちゃったの⋯」
『大丈夫だよアイリ。リオの魔力を探知したら居場所分かるでしょ?』
何てことないとばかりにシロちゃんが言う。
「そっかぁ!でも一人で行くとおこられちゃうから、ミリーナしゃんをコッチにちゅれてきちゃうね!」
そう言うが早いか、アイリはミリーナの魔力を探知して『影渡り』を使ってミリーナの元へ移動した。
※次からはまた不定期更新となります。
だいたい2~3日毎の更新となりますが、出来るだけ遅くならないようにしてまいりますので、今後も見捨てずに応援して頂けると嬉しいです♪
エルモンドは、以前部屋で偶然見つけた隠し通路の奥へと進んでいた。
いつかこっそり探索しようと思い、両親にも護衛にも誰にも教えずにいた。
この通路の先がどうなっているのか、何処に繋がっているのかエルモンドは知らなかった。
それでも危険を犯してまでこの通路へ逃げ込んだのは、この時ばかりは王宮から一刻も早く抜け出したかったからだ。
エルモンドはいつもこの国の第一王子として見られ、周りからの期待がその幼い肩に重くのしかかっていた。
父は歴代の王の中でも賢王と言われており、今まで閉鎖的だったこの国に新しい風を吹き込んでいる。
そんな父と比べられては『殿下も陛下のように立派な王様になりましょう』と言われ。
陛下の威圧にどうしても慣れないと愚痴を零せば『そんな事を怖がっていてはいけません。いずれ殿下も威厳ある王となるのですから』と嗜められ。
母上に会えず寂しいと零せば『王妃様はお子様を産むために大変な時期なのです。殿下も兄になるのですから甘えてばかりいてはいけませんよ』と我儘を禁止された。
誰にも愚痴を溢せず、唯一甘えられた母は妹が産まれて構ってくれなくなった。
父も忙しく、食事は一人でとることが多かったのに、あの客人達がきたらすぐに父は晩餐会を開いた。
その席で今まで見た事もない幼い子を可愛がる父の姿に、エルモンドは嫉妬と焦りを覚えた。
そして先程の母の部屋で寛ぐ父と、その膝に抱かれ手ずから食べ物を与えられていたアイリを目にして、自分の居場所はもうココにはないのだと実感した。
獣人にとって「手ずから食べ物を与える」行為は『寵愛』を意味する。番や家族等の近親者にしか許されない行為をラオールはアイリに行い、それを番は許していた。
(エイルが産まれてからは母上に会いに行く機会も減った。それに父上はいつも公務で忙しくて、話す時間なんて取れなかった。⋯それなのに、アイリの為になら時間を作れるんだ。僕なんかより、よっぽど親子みたいだったじゃないか⋯)
暗い穴の中は一本道で、迷いなく歩き続けると正面に小さな明かりが見え始めた。
ゆっくりと近付き、明かりの漏れる壁を押すとガコッと外れ、質素な造りの部屋に出た。
隠し通路の先は、城下町の端の方にある平民街の一軒家に繋がっており、この質素な部屋の造りからも見て取れるように、どうやら平民が住んでいるようにカモフラージュして建てられているようだった。
恐らく、ずっと前の王族が平民の暮らしを知る為に作られた隠し通路だったのだろう。
エルモンドは人型に戻り一通り部屋の中を調べると、外の様子を見ようと建物から出た所で、明らかに場違いな服装で目立ってしまう。
周りには数人の人影があり、エルモンドはその不穏な視線に身の危険を察知し、急いで元の家に戻ろうとするが、玄関先に一人回り込まれており、数人の柄の悪い集団に囲まれてしまった。
「おい、こいつどうやってあの部屋から抜け出したんだ?とりあえず連れて行くか。」
「こんな家に隠れていやがったのか。抵抗すると痛い目に合うぞ?」
柄の悪い男達が何か言い合いながらエルモンドに近付いてくる。
(獣化して逃げるか?しかし、相手の人数が多すぎる⋯逃げ切れるか?)
エルモンドは何とか冷静に状況を把握して逃げる算段を立てるが、ここが何処かも分からない以上無闇に逃げても直ぐに捕まるかもしれない。
勝手に王宮を出てきてしまったが、自分が部屋からいなくなったことが知られれば流石に捜索隊が組まれるだろう。
ここは大人しく捕まって、逃げ出す機会を伺うことにした。
◇◇◇◇◇
その頃リオとアイリとシロちゃんは、エルモンドが通ってきた通路を進んでいた。
先頭のリオは種族柄、薄暗い穴の中でも目が利くらしく、どんどん奥に進んでいく。
その後をアイリとシロちゃんが続き、程なくして例の質素な部屋へと出た。
「周りを確認して来るから、アイリとシロちゃんはまだ穴から出ないでそこにいて。」
そう言ってリオが部屋を確認していると、外の様子が少し騒がしくなった。
リオは窓際に寄ってそっと外の様子を伺うと、そこには柄の悪い男達に囲まれたエルモンドがいた。
「あちゃ~、少し遅かったか⋯」
抵抗せずに大人しく連れて行かれるエルモンドを見て、リオは後から来る獣騎士達と合流してから作戦を立てて救出に向かおうとした。
しかし、そこで予想外のことが起こる。
「おい、念の為この家の中を調べとけ。他にも隠れてるやつがいるかもしれない。」
勘のいい奴がいたのだろう。
男の言葉に、数人がこの家に向かってやってくる。
「アイリ、このままここに隠れてろ。何があっても絶対に声を出すな。後から来た獣騎士達と合流したら、エルモンド殿下は男達に連れて行かれたと伝えるんだ。」
「リオしゃんは?」
「あいつらの気を引いて、わざと捕まる。そしたらエルモンド殿下と同じ所に連れて行かれるだろうから、何か目印がないか探っておく。アイリはミリーナさんのとこに戻るんだ。」
早口でそう言うと、リオは部屋側から隠し扉を閉めた。
それから直ぐに部屋に男達が入ってきて、声がしたと思ったらリオが逃げ出そうとしてわざと男達に捕まったみたいだった。
アイリとシロちゃんは言われた通り静かに大人しく待機しており、男達が他に誰か隠れていないか部屋の中を一通り探しだした。
他には誰もいないと分かると、リオを連れて家を出ていった。
暫くして人の気配がなくなると、アイリはそっと壁を押し先程の部屋へと出た。
「シロちゃん⋯リオしゃん、ちゅれていかれちゃったの⋯」
『大丈夫だよアイリ。リオの魔力を探知したら居場所分かるでしょ?』
何てことないとばかりにシロちゃんが言う。
「そっかぁ!でも一人で行くとおこられちゃうから、ミリーナしゃんをコッチにちゅれてきちゃうね!」
そう言うが早いか、アイリはミリーナの魔力を探知して『影渡り』を使ってミリーナの元へ移動した。
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