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第三章 セイラン王国編
王様との再会
しおりを挟む「お~い、マルク。気持ちは分かるが戻ってこい!」
目の前で手を振るデュランの呼び掛けに意識を取り戻したマルクは、視線をゆっくりデュランに向けた。
「なんだ、この可愛い生物は?妖精か?女神の化身か?」
「やっぱお前でもそうなるよな。」
デュランは苦笑いしている。
他のメンバーは一体どういう事か?と疑問の表情を浮かべている為、一から説明をすることにした。
「まず、俺達が初めてアイリに会った時を覚えてるか?あの時、一目見て全員がアイリの可愛さにヤラれた。」
恥ずかしげもなく、さも当然のように言い切るデュラン。
「で、そんなアイリを獣人の多いこの国に連れてくるとなった時に、まず俺は思った。素顔をそのまま曝け出すと危険だと。」
「それは⋯可愛いアイリが誘拐されると言うことか?」
ルークは元々危惧していたが、確認も込めて問いかけた。
「いや⋯もっと大変なことだ。
(ゴクッ)
⋯アイリの行く先々で獣人に捕まる!!」
「「「⋯⋯?」」」
デュランの言葉にマルクとララはうんうんと激しく頷いているが、その他一同は理解が追いつかないのか、ポカンと拍子抜けしていた。
「分かりやすく言えば⋯カンザックを出発する日に、町ぐるみで見送りに来ていただろう?あの人だかりがアイリの行く先々で起こる。」
「「「えっ!?」」」
漸く理解したようだ。
つまりは、出発の日に町の人がアイリを見送ろうと大通りに集まり、とてつもない人の群れに捕まり続けたアイリ達は、ギルドから町の入口の馬車に辿り着くまで軽く一時間は超えていたのだ。
徒歩で数十メートルの距離を⋯
「俺達獣人にとって、子供はただでさえ目に入れても痛くないほどに可愛がる習性があるんだ。つまり、アイリには間違いなく町中の獣人が寄ってくるぞ。それからリオも、ドワーフと人族の亜人はこの国では珍しいから、どこに行っても獣人に構われるだろう。それと、最近他国とも交流を持つようになって、抵抗のない一部の獣人から人族は人気なんだ。ミリーナに対しては明らかなアプローチがくると思うぞ?」
「えっ?私ですか!?」
まさか自分に話が振られるとは思っていなかったミリーナは、驚きの声を上げた。
「⋯アイリとミリーナとリオは、基本的にフードを被って行動した方が良さそうだな。」
王都中の獣人が来るかもしれない事態を避ける為だと言われれば、ルークやクリス達も納得せざるお得ない。
ミリーナはなぜそこに自分も含まれるのか納得いかない表情だったが、ここは大人しく言う事を聞いてフードを被った。
マルクとは以前あった冒険者の行方不明事件の詳細や、最近不審なことがなかったかを確認し合って、また後日ギルドに来ることにした。
「この後俺達は王宮に行って陛下に戻ったことを伝えてくる。ルークさん達の滞在中は王宮の一室を貸してくれることになっているから、何か分かればそっちに連絡してくれ。」
一同はギルドを後にして、デュランに案内されるまま王宮を目指した。
「しゅごいね~!おっきぃのー!」
目の前にはオブザークの王宮とはまた異なる趣の建物が広がる。
オブザーク王国の王宮は白を基調としたきらびやかな造りで、ロマネスク様式のお城となっている。
それに対してセイラン王国の王宮は、岩を積んだような外壁で、まるで要塞のような屈強な造りになっている。
デュランは城門に立つ獣騎士に声をかけると、ルーク達を軽く紹介して城内へと進む。アイリとミリーナとリオは、ここでフードを取ってデュランに続いた。
案内はそのままデュランがしてくれるらしく、奥へ進むと王の執務室へと着いた。
執務室前にもこれまた体躯のいい獣騎士が数名立っており、デュランが挨拶を交わすと騎士の一人が扉をノックして、入室を促された。
大きなデスクに座ったセイラン王国の王ラオールは、デュラン達冒険者を認めると労るように声をかけた。
「よくぞ戻ったな、デュラン、ララ。他の仲間は別行動か?」
「陛下、ただいま戻りました。他のメンバーはリューン帝国側に向かいました。俺達はこちらからライオネル公国の動向を調べていく予定です。」
そこで一緒に室内へ入ってきた他のメンバーもラオールに挨拶をする。
「お久しぶりです、ラオール王。今回の任務で滞在する間、王宮の一室をお貸し下さると伺いました。本当にありがとうございます。」
「おうしゃま~、会いにきたの~!」
ルークが挨拶をして今回の配慮にお礼を伝えると、抱っこされていたアイリもラオールに手を振りながら話しかけた。
「おぉ、アイリ。待っておったぞ。早速『約束』を果たしてくれたのだな。」
「あいっ!やくしょくしたのー!」
「そなたらは私の『客人』だ。任務に関する事は全面的に協力させてもらうから、ここにいるパポイに伝えてくれ。ここに滞在する間はパポイがそなたらとの窓口になる。それから侍女も側につけさせて貰うから、何かあれば彼女らに伝えてくれ。」
ラオールはアイリとの再会を喜び、彼らを王の『客人』として扱うと明言した。
それにはルークやクリス達も驚いたが、先程から隠し切れずに揺れ動いているラオールの尻尾を見てしまえば、有難くその好意を受け入れた。
続けてクリスとリオもラオールに挨拶をし、各自滞在する部屋まで侍女が案内してくれた。
ここでも部屋割りをどうするか?となったが、アイリとルーク、アレクとクリス、ミリーナとリオのペアで部屋割りが決まった。デュランとララはそれぞれの家に戻り、後日改めて王宮に来てくれる事になった。
アイリのお世話に関してはミリーナがする事で侍女達には納得して貰い、ミリーナとリオに関しても基本的には自分達で身の回りの事はできる為、遠慮して貰うことになった。
「それでは、夕食のお時間になりましたら呼びに参りますので、それまでゆっくりとお寛ぎ下さいませ。何か御用があれば、そちらのベルでお呼びください。」
そう言って一礼すると、侍女達は部屋を後にした。
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