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第三章 セイラン王国編
初めての冒険の旅
しおりを挟む三日後⋯
ルークやデュラン、クリス達はそれぞれ任務に向かう前に、ギルドに集まり最終確認をしていた。
その間に、アイリはミリーナと共にギルド職員や冒険者、食堂の料理人たちへと挨拶回りだ。
「アイリぢゃあぁん~!ほんどにいっじゃうの~~!!」
「ちゃんと魔導具もったか?ルークさんとジーニアさんのオリジナル魔導具だから、ある意味安全っちゃ安全だが⋯」
「いいか?知らない人について行っちゃ駄目だぞ?」
ギルドのお姉さん達には泣かれ、冒険者の皆さんには注意事項やら護身方法をコンコンと言い聞かせられ、念の為にとこれまた色々な装備品やら魔導具やらお守りやらを渡され困っていた所に、漸く話し合いが終わったルークがそれに気付き、身動き取れなくなったアイリを救出した。
そのまま食堂へ向かうと、今度は料理人達にもこれでもかと保存食を持たされた。
「これはアイリのおやつだ。セイラン王国にも菓子類はあるかもしれないが、食べ慣れたものも欲しいだろう?」
「あとこれは道中で食べれるように作った保存食だよ。温めるだけで食べれるからね。カレーも、アイリちゃん用の甘口にしてあるから。」
「しゅごいたくしゃん!ありがとー!おみやげ買ってくりゅね!」
アイリは沢山の保存食とおやつを、ルークから貰った可愛いポシェットに入れていく。
「ルークさんにはこっちの食材も渡しとくよ!アイリには新鮮なもの食べさせなきゃ駄目だぞ!」
渡されたのは大量の野菜や果物に、生物だった。
それらをルークの無限収納に入れて、漸く開放されたアイリ達は、村の入口に用意された馬車へと向かった。
オブザーク王国からセイラン王国までは、馬で駆ければ早くて四日程、馬車を使って七日程かかる。
今回初めて旅に出るアイリに合わせて、余裕を持って十日程の日程を組んでいた。休憩を多く取りつつも出来るだけ距離を稼ぐため、途中で野営も予定している。その為の道具も積み込んでいる為、馬車にはアイリとミリーナとリオとララの四人が乗り、他のメンバーは馬で警護をしながら進むことになった。
ジーニア達リューン帝国へ向かうメンバーも既に準備は整っており、馬車にはシークとラビとルイザとルイが乗っており、残りは馬を準備していた。
出発前にルークはジーニアの側に寄ると、周りから少し離れて防音結界を張った。
「ジーニア、何かあればシークに頼んで直ぐに連絡を。それと、タモの様子にも気を配ってくれ。」
「悪意は無さそうですが、王宮からの差し金でしょうか?何を考えているのか読めず、私も少し警戒していたのですよ。⋯狙いはシークでしょうか?」
希少な闇属性のシークをリューン帝国が狙っていてもおかしくはない。今回の任務はシークに接近できるまたとないチャンスでもあるのだ。
「その可能性は高い。シークは賢いから恐らくその可能性にも気づいてるだろう。あとはアイリに関しても何か探りを入れてくる可能性がある。気をつけてくれ。」
「獣人の彼らには念書も貰ってますから簡単にアイリ様の秘密は話さないと思いますが、念の為サニアにも彼の行動を警戒するよう伝えておきましょう。」
ルークは結界を解くと、見送りにきていたシリウス達に声をかけ、いよいよ全員出発だ。
「みんなぁ~いってきま~しゅ!」
アイリは馬車の窓から、見送りに来てくれた町の皆が見えなくなるまで手を振り続けていた。
アイリはルークに保護されこのカンザックの町にきてから、町を長期離れるのは初めてのことだ。
町を離れる寂しさと、まだ見ぬ獣人の国へワクワクする気持ちを隠せずにそわそわしていた。
そんなアイリの緊張を解そうと、リオが話しかける。
「そう言えばアイリは、ルークさんが後見人なんだろ?」
「そうでしゅよ。」
「ルークさんみたいに強くてカッコいい人に保護してもらえて、本当に良かったな♪」
「あいっ!ルークしゃんはとってもカッコよくて、やさしいんでしゅ。リオしゃんは、どぉしてぼうけんしゃになったんでしゅか?」
「僕達亜人やドワーフ、エルフや龍人族は寿命が長いだろ?だから若いうちは色々経験する為に冒険者になるやつが多いんだ。後は種族によって得意な物があったりするから、専門職に就いてる人もいる。僕の父さんは手先が器用で、武器とか防具を加工したり、修理する工房で働いてるよ。」
リオの話だと、ドワーフは手先が器用で地と火の魔法を扱える者が多いため、物を加工したり細工を施したりする職業に就く者が多いらしい。
しかし、そんな彼等も若い頃は一度冒険者として一通り経験している者が殆どなんだとか。その経験を活かして冒険者にあった武器を作ったりしているらしい。
他にも種族ごとにこんな奴がいるんだとか、こんな事ができるんだとか色々リオは話してくれた。
ミリーナやララにとってもリオの話は新鮮で、すっかり四人は打ち解けたようだ。
馬車の中のアイリ達の楽しそうな笑い声が外にいるルーク達にも聞こえており、クリスもどこか穏やかな顔付きで道中を進んでいった。
町を出て数日は、日が暮れる頃にテントを設置して野営をしながら進み、国境付近まで来て漸く宿を取ることにした。
「アイリ、疲れていないか?どこか具合の悪いとこもないか?」
過保護者のルークは、毎日必ずアイリに確認している。
「大丈夫でしゅよ。ルークしゃんも、ちゅかれてないでしゅか?」
「アイリが元気なら俺も元気だよ。」
最初このルークのデレデレしたやり取りを見たクリスやリオ、デュランとララは若干引いていたが、毎日目にしていれば嫌でも慣れてくる。
すっかりいつもの光景となった二人を生暖かく見守り、久しぶりの宿ということで各自お風呂に入る事に。
「じゃあミリーナ、アイリを任せた。」
ルークに頼まれたミリーナがアイリと手を繋ぎ、ララと一緒に女湯に向かおうとすると、アイリが手を引いて止まる。
「リオしゃんもいっしょにいこー♪」
「「「「えっ!?」」」」
数名が驚きの声を上げる。
「そう言えば言ってませんでしたか?リオは『女性』ですよ?」
クリスがさらっと放った一言に、声を上げたメンバーは驚愕の表情でリオを見た。
「なんだよっ!?文句あるのかっ?」
リオはそんな反応にお怒りのご様子だ。
「そ、それにしても、嬢ちゃんはよく分かったな?」
誤魔化すようにアイリに話を振ったアレクの言葉に、周りもアイリを見た。
「?さいしょから、リオしゃんは女の子でちたよ?」
キョトンとして返ってきたアイリの言葉に、大人達は返す言葉もなかった。
ミリーナは接している内に何となく気付いていたようだが、何か訳ありかと思い黙っていたようだ。
そうしてちょっとしたハプニング?もあったが、久しぶりのお風呂を満喫してご機嫌の女の子組に、先程のお詫びとばかりに男性陣からはお風呂上がりのジュースとアイスがご馳走された。
部屋割りで多少(ルークが)揉めたが、リオが女の子と判明した事もあり、アイリとミリーナとリオとララの女子組。
ルークとアレク。クリスとデュランの男性組とに部屋が分かれた。
「久しぶりのアイリとの添い寝が⋯」
しゃがみ込み、すっかり落ち込んでしまったルークの元にアイリが向かう。
「ルークしゃん、おやすみなしゃい。またあちたね。チュ。」
ルークの頬にキスをすると、バイバーイと手を振って女子組の部屋に入っていったアイリ。
一気に機嫌が直り、デレデレした表現を隠そうともしないルークに若干嫉妬の視線を送りつつも、男性組も各自の部屋に分かれた。
「あのルークさんが、ここまで骨抜きにされているとは⋯」
「溺愛しているとリューン帝国にも噂は届いてましたが、あそこまでとは私も驚きました。」
デュランの思わず溢れた呟きに、クリスも言葉を返した。
「あの子は、本当に不思議な子ですね⋯」
「そういやエルフはあまり他人に関心がないと聞くが、クリスさんは少し違うようだな?」
「私もかつてはそうでしたよ。里を出て外の世界を知ってから大きく考え方が変わりました。それでも、ここまで興味を惹かれた人はいませんでしたが⋯」
「今回の任務、仲間を救うのは勿論だが必ずアイリを守る。」
「鉄壁の保護者達が側にいるので私の出番はなさそうですが、あの子を危険な目にはあわせませんよ。」
デュランとクリスは互いに固く決意をし、明日に備えて眠りについた。
その頃女子組の部屋では⋯
「ねーねー!ミリーナさんは好きな人とかいないの?」
「えっ?」
恋バナに花を咲かせていた。
「だって、こんなに可愛いんだもん。絶対モテモテでしょ!」
ミリーナが周りの冒険者にキズモノとして認識されている事を知らないララは、こんなに可愛くて強くて気の利く女の子に恋人がいないのが不思議でしょうがないみたいだ。
「ほら、アレクさんとかいつもミリーナさんの事気にかけてるし!」
「そう?昔から面倒見が良くて、ずっと兄みたいな感じで見守ってくれてたから⋯それでじゃないかな?」
「そうなの?実は私、アレクさんタイプなんだよね~♪セイラン王国に着いたら、デートに誘ってみようかな♪」
ーーモヤッ
「?⋯そうなんだ。でも、任務の事も忘れないでね!」
「それは勿論っ!でもたまには息抜きも必要でしょ?それに、人族の寿命はあっという間だしね。あっ⋯もうアイリちゃん達寝ちゃったみたい。じゃあミリーナさん、おやすみなさい。」
「ええ。おやすみなさい。」
ミリーナは僅かに胸に感じたモヤモヤを不思議に思いながら、眠りについた。
※新章スタートです♪色々構成を作るのに時間がかかってしまい、更新が遅くなりすみません( 'ω' ;)
基本ゆるい設定でしてますので、矛盾点も多々あるかもしれませんが、なるべく気をつけながら進めてまいります。
お気づきの点ありましたら、コソッと教えて頂けるとありがたいです(笑)
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